間話5 フォーレ視察(その①)
本日はフォーレ視察①から③まで、三本を投稿する予定です。
詳細は後書きをご覧くださいね。
フォーレで街づくりを始めて二年が過ぎようとしていた。
ひとしきり街の開発も目途が付き始めたある日、俺は改めて街を巡ることにした。
最初は一人(俺とフェリス)で回るつもりだったが、何故かアリスとマリーも付いてきた。
俺と一緒に油を売っていいのか?
もちろん俺自身は暇潰しでもなく、ちゃんとした目的があってのことだけどね。
「この時間ってさ……、アリスとマリーはバイデルの下で政務を勉強する時間じゃなかったっけ?」
そう、彼女たちは日々バイデルの下で見習いとして働く傍らで政務を学び、週に二回は座学でバイデルより授業を受けている。
今日はその日のはず……、だよな?
「そうよ、これも勉強だもん。先生からはリームに付いていって『街の現状をつぶさに見てきなさい』と言われているもん」
「政務に携わる者として、正しく街の現状を理解することも大事だと思います。
まぁ、そう言って先生に提案したのは私たちですけどね」
そう言ってマリーは舌を出した。
まぁ理に適っていることだし、バイデルも笑って許可してくれたんだろうな?
彼女たちは政務と勉強だけでなく、俺の住まう館では掃除や雑用なども含めて毎日働き尽くめだし、たまには息抜きも必要だろうとの親心もあって……。
「で、今日はどこから回るの?」
「先ずは店舗や工房かな? 最初に解体屋に行くけど……、二人は大丈夫?」
「あ! またお姉ちゃんを子ども扱いして! ガモラさんもゴモラさんも凄くいい人で、この町を大事に思ってくれてるって、今なら分かっているわよ。ちょっとお顔が怖くて、刃物が不気味に似合ってて……、引いてしまう時があるだけで」
「それってフォローになってないわよ。私はアリスと違い『大人』だから大丈夫です」
確かにな。以前は無理してでも大人振って張りつめていたアリスも、ここ最近では年相応に素直な素振りを見せることも多くなった。
逆にマリーは少し年長であることに加え、今の仕事にやりがいを見つけたのか、一気に大人らしい振る舞いが多くなっていた。
「なら今日は、『政務官』としての視点で街を見て、課題や思ったことがあれば聞かせてほしい。
二人のことは信頼しているし、俺とは違った視点で見た意見や気付いた点が聞きたいからね」
「わかったわ」
「わかりました」
アリスは俺の言葉の前半で意地悪と思ったのか、いつもの如く頬を膨らませかけたが、後半の言葉で一気に上機嫌になって返事をし、マリーは最初から嬉しそうな顔をしていた。
◇◇◇ 解体屋
俺が最優先で街に設けた解体屋は、ゲートの出口となった岩塩洞窟のある岩場に近い、街の一番上層部にある。
そしてこの頃になると解体屋は、フォーレの街の食を支える重要な役割を担うようになっていた。
なんせ街中の食肉は、全てここで処理されているのだから。
「ガモラ、ゴモラ、今日は二人ともこっちに居るんだね?」
「「あっ、リームの旦那!」」
そう、今や解体屋には見習いとして何人かの元孤児が働き、二人は親方のような立場になっていた。
なので店舗には基本交代で入り、ガモラは裏町の代表としての仕事と自警団の団長として、ゴモラはフォーレの店舗代表と自警団の副団長としての仕事も兼務している。
「いやね、今日はたまたま自警団で狩った魔物の解体を持ち込んでいまして」
そう言ったガモラの後ろには、数体の魔物が解体台に乗せられていた。
いや……、それって……、上位種だよね?
「いえいえ、俺たちではまだ旦那ようにはいきませんよ。今は堀に落ちた奴を仕留めたり、罠に掛かった奴の相手が手一杯で……」
照れながらガモラは言うが、それでも簡単なことではないと思う。
トゥーレに駐留する軍ですら、このクラスの獲物は対処できないと思うし。
「いやいや、それでも凄い戦果だと思うよ」
「いえね、兄貴がこれを仕留められたのも、旦那が提供してくれた新しい武器のお陰ですよ。
今もちょうどその話していたところでして」
なるほどね……、それもあったか。
今はヒト種も獣人も、専任の兵士以外で自警団に所属している者も多い。
彼らは現業の傍らで戦闘訓練を行ってるため、必要な武具も俺から供与している。
「ははは、ならばそれは武器工房の成果だね。この後で俺も回るから彼らにもその話もしておくよ。
きっと喜ぶと思うよ。あ、あと……、修行中の皆も頑張ってね。これからもフォーレの人口は増え続けることだし、皆の活躍が必要になってくるからね」
「「「はいっ」」」
見習い中の三名も、元気に返事をしてくれた。
◇◇◇ 食肉関連店舗
次に俺たちは、肉屋及び食肉加工工房を回った。
これらは全て、解体屋に接続した位置に配されており、素材は水路を利用した小さな運搬用の小舟に乗せ、解体屋から簡単に運べるよう工夫されている。
「調子はどう? 何か困っている点とかないかい?」
「あ、領主様っ! いつもありがとうございます。
いえいえ、本来なら客商売で浮き沈みもありますが、ここでは楽な商売させてもらってますからね。
いつもありがたいことだって話していますよ」
そう答えてくれたのは、最初にガモラたちに付いて見学に来ていた、裏町出身で肉屋を営んでいる男だった。
彼もここで真っ先に開業してくれたひとりで、今や多くの者たちが彼の下で働いている。
フォーレでは初期の街づくりからの習慣で、街には大きな公営食堂が幾つもある。
そのためほとんどの者が、食事する際は自炊ではなく食堂を利用している。
初期段階は男手ばかりだったので、そうせざるを得ない事情もあったのだけど、今は女性たちも働き手として活躍してもらっているため、その方が便利で安上がりだからだ。
そのため肉屋には各食堂から定期的に大量発注があり、商売としては薄利多売でも十分やっていけるようだ。
因みに俺たちも常にその食堂の一つを利用しているし、孤児院の子供たちもそうだ。
公の仕事に就く者に対して給金を支払うようになって以降、食堂は無料から定額料金で利用できるよう形を変えている。
その食堂では専任の調理人の他に、町の住民や年長の孤児たち、他にも成人前の子供たちが『アルバイト』として働き、現金収入が得られるようになっている。
「唯一の相談といえば……、食肉加工工房の奴らが燻製肉や塩漬けの肉を他で売れないかと言っておりまして……、なんせここでは高級素材(肉・岩塩)が当たり前のように豊富にありますので」
「確かにね。そこは持ち帰って検討するよ」
俺はアリスとマリーに目配せしたあと、更に店舗を回って話を聞いた。
どこの店も経営は軌道に乗り商売は順調のようで、裏町よりも全然よい商売ができているとのことだった。
◇◇◇ 毛皮加工工房、素材加工工房
次に回った毛皮や素材の加工工房も、肉屋や食肉加工工房と同様に解体屋と接続した位置に店を構えており、同じように解体の終わった素材が水路を経由して運び込まれている。
「毎度! どうだい? 何か問題はないかな?」
「あ、リームさまっ! おいっ、全員呼んで来い!」
「いや、お構いなく。今日は何か問題がないか話を聞きに来ただけだから、みんなそのまま仕事続けて」
この二つの工房では、魔物の皮を毛皮にして防具や装飾品の素材に、骨・爪・牙・鱗などを素材として利用できるよう、剥ぎ取りや一次加工を行っている。
「ははは、問題も何も……、トゥーレはまだしも王都の高級店でさえ中々扱っていない貴重な素材を扱えるんです、職人冥利に尽きるってもんでさぁ」
そう言って職人たちは笑っていた。彼らもまた裏町から見学に来ていた初期移住者が中心だった。
その役割は、俺たちが狩った魔物の素材を加工して有効利用できる素材とすることだが、素材の一部を対価として得ており、それらをアスラール商会が買い取り現金収入を得ていた。
「強いて問題といえば……、加工前の素材の置き場所に困るぐらいでしょうかね。
いまもあの通りでして……」
彼が指さした工房の一角には、まだ加工前の素材が山のように積まれていた。
なんせ初期のころから、二年間俺が貯め込んでいたいた素材が山のようにあり、ここ近年では魔石を集めるため俺が狩った素材も持ち込まれている。
しかも日常的に食用となる魔物は、肉を取ったあとの不要部位が次々と運び込まれている。
「そうだね……、処理するための人手と資材置き場、どっちが優先かな?」
「人手は欲しいですが、そうなると別の心配もありますね。一気に売り物の素材が増えてしまい、商会が同じ値段で仕入れてくれるか心配になります」
「確かに……、ね。まぁ値崩れや買取価格が変わることはないと思うけど、そのあたりは検討しとくよ」
確かに上位種や珍しい魔物の素材は心配ないだろうけど、カリュドーンなど食肉利用されて日常的に素材として回ってくるものはダブつくかもしれないな。
かといって放出量を控えていれば、今度は加工前の剥ぎ取り素材の置き場に困ってしまう。
この辺りも対策は考えないとな。
幾つかの課題を洗い出しつつも、俺たちの視察は続く……。
最後までご覧いただきありがとうございます。
前回の予告にも記載しましたが、この『間話4 フォーレ視察』、当初は一話で済ます予定でしたが、いつの間にか八話相当のボリュームになってしまいました。
そのため三日間に渡ってお届けしたいと思います。
本日(8/23) フォーレ視察①~③ 三話時間差投稿(8時台、12時台、19時台)
次回(8/26) フォーレ視察④~⑥ 三話時間差投稿(8時台、12時台、19時台)
最後(8/29) フォーレ視察まとめ 二話時間差投稿(8時台、12時台)
どうぞよろしくお願いします。




