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ep19 魔の森へ

最後に更新時間のお知らせがあります。

お手数ですが後書きをごらんください。

状況整理した翌日、カールを始めとした俺やアリスらで成る六人の特別採集班は、勤労奉仕を名目に編成された採掘支援にあたる子供たちを率い、例の河原までやってきた。


結局院長は俺の煮え切らない回答に不満だったのか、特例として採掘支援の契約が結ばれた三十日間に限り特別採集班を結成させると、往復は勤労奉仕の子供たちの引率、彼らが採掘支援をしている間は採集に慣れた六人の特別採集班が、毎日採集に出るように指示してきた。


要は量の確保が不安なので、熟練した者に回数でカバーさせるつもりらしい。

その期間中、特別採集班は他の全ての奉仕活動や勉強時間は免除され、毎日採集に出ることになった。


そして勤労奉仕に出た子供たちには、砂金の採掘現場で通常の人足が得る六割程度の日当が支給される。

強欲な孤児院の大人たちが、そんな儲け口を見逃すはずもなかった。


なので彼らは待遇に関係なく、十一歳以上の子供たちからそれなりの数が選ばれて駆り出されていた。

その中には町を出た経験のない子供も含まれており、現地まで引き連れていく引率が必要となったが、それを特別採集班が担当する。


また、この時点になると川の規制は砂金を収集することが目的であることも公にされていた。

貴重な宝探し、子供たちは一様にゲーム感覚で高揚し、足取りも軽いように思えた。


でも……、ごめん。

君たちには辛い仕事になるかもしれない。そう思い俺は、彼らの笑顔を見る度に心が痛かった。


「だけどリーム、本当にあの川で砂金なんて出ると思う?」


「出ると思うよアリス。ただ……、砂金はそう簡単に取れるものじゃないからね」


それは事実だ。仮に砂金がある川でも、埋蔵量次第だが労働効率的に言えば決してよいものではない。

普通なら……、ね。


俺とクルトは特別だった。なんせ有ると分かっている場所で根こそぎ、それも一瞬で集めていたため、普通の人なら途方もない時間を掛けて集める作業を、ごく短時間で楽々とこなし続けていたのだから。


河原まで到着すると、俺たちは兵士に引率してきた子供たちを引き渡した。


「おおっ! あの時のボウズか、ボウスも採掘に参加するのか?」


そう話しかけてきたのは、良い意味で俺が顔を覚えていたくだんの兵士だった。

そっか……、彼なら安心だ。


「あ、僕は引率です。これから薬草の採集でずっと上流に行き、帰りに彼らを迎えに来ます。

慣れない作業でご迷惑をお掛けするかもしれませんが、どうか皆をよろしくお願いします」


「そうだな。子供らには主に給仕や食事の配布、他にも無理なくできる雑用を中心に任せたいと思っているので、その点は大丈夫だ。大人の人足でさえ、今回は初めての経験だからな」


やっぱりこの人は安心できる。

ちゃんと考えて子供たちを使ってくれるようだ。


「私はリームと申します。失礼ですがお名前をお伺いしても?」


「あ、ああ、俺はコージーだ。よろしくな」


「みんな、コージーさんの仰ることをちゃんと聞くのよ! 分かった?」


「「「「はいっ」」」」


俺の横に居たアリスは、全員にコージーさんを紹介し、子供たちに彼を頼るよう指示していた。

面倒見の良いアリスは、このころになると皆の『お姉ちゃん』として存在感を発揮し始めていたからだ。

彼女より年長の者を含めて……。



◇◇◇ オーロ川の上流



特別最終班の六名は、その後に規制区域外の上流まで進みそこで停止した。


「カール、アリス、俺はここから別行動を取る。俺の方でもそれなりに集めてくるから、決して無理はしないでほしい。

アリス、この辺りで比較的安全に採集できる場所は頭に入っているよね?」


俺の言葉に二人は無言で頷いた。

実はクルトは、卒業前に採集班の表のリーダー(カール)裏のリーダー(リーム)を定め、それを各班のリーダー格にのみ告げていた。


アリスも今や班を率いるリーダーであり、他の三人参加者も同様だ。

なので全員が俺の指示を何の疑問もなく受け入れてくれている。


「リームも、絶対に無理しちゃダメだからね」


お約束通りアリスも心配はしてくれているが、クルトとの最後の打ち合わせの場にて、彼女には俺も魔法が使えることを打ち明けている。

敢えて詳細は伝えていないが……。


もっともそれは、五芒星ペンタグラムを手にする前のことなので、あの時とは格段に強い力を手に入れているので、今の俺なら一人の方が都合が良い。


彼らと別れたあと、俺は全速力で走りだした。

そして更に、疾走する速度を上げていく。


「思い出すんだ! 常に風魔法を常駐させ、風圧の壁を前面に展開しながら、押し出す風を背中にまとう。

もっと早く! もっと強く! そして慎重に……」


自分を叱咤しながら、徐々に自身の力(ペンタグラム)の風魔法を開放していった。

そう、俺は五芒星ペンタグラムとは十四年の付き合いだ。その調整も利用の仕方も頭の中に刻み込まれている。


更に天威魔法レベルという、人ではほぼ頂点ともいえる力が、俺の要求に応えてくれる。



しばらく俺は夢中で走り続けた。

いつしか景色が飛ぶように後ろに流れ、半分は空中を飛ぶように走っていたかもしれない。


そして遂に、目標としていた岩山まで到着していた。

ここは人の足なら、障害物を無視して真っすぐ進んだとしても十日近くは掛かってしまう魔の森の深部だ。

まぁそれでも実は、広大な深部のまだ入り口でしかないのだけれど。


要した時間は体感時間で2時間ちょいってところか?

距離にして百キロ弱は進んだんじゃないだろうか?


大体時速45キロってところか?

改めて凄いな……。

自動車で言えば大した速度ではないが、人間の限界を遥かに超えている。

しかも魔の森を抜けながらの速度だ。

まぁ……、殆どが長距離ジャンプを繰り返していただけなので、実際に森の中を抜けていた訳ではないけどね。


しかも体力は殆ど消耗していない。

ただ……、ずっと集中していたので精神的に消耗し、若干頭痛がするけど……。


この岩山、高さこそ百メートルもないが開口部の小さな三日月型に岩場の絶壁が広がっており、口の空いている一角だけを壁で塞げば、概ね二キロ四方の安全地帯が中にできる場所だ。


前回のルセルは、この地形を利用して魔の森の危険地帯に作った町、それがフォーレだった。


三日月の内側から一番上に登ることも可能で、最上部からは魔の森深部を一望にできる。

言ってみれば三方を絶壁の城壁に囲まれた、天然の平山城なんだよね。


そしてもうひとつ。

三日月の内側に広がる岩場の一角にある洞穴は、中に進むと大量の岩塩が入手できる!


ガーディア辺境伯領だけでなく、海なし国のベルファスト王国にとって高品質の塩は全て輸入品であり貴重な戦略物資となる。


ルセルが魔の森の奥地に拠点を築いたのは、この岩塩の恵みがあったことも大きな理由のひとつだ。

そしておそらく奴も最終的にここを狙っているだろう。


だが……、実際にここまで進出できるようになるのは、少なくとも今から十年後。

諸々の課題を解決した後だ。


「さて……、場所の確認はできたし、今日は必要なことを片付けてさっさと引き上げるとするか。

先ずは周辺から手つかずのエンゲル草や貴重な薬草と、売り物になる岩塩を四畳半分かき集めて……」


頂上部で景色を満喫したあと、大きく伸びをし俺は自分を叱咤した。

行きと違い、帰りは若干憂鬱だったから。



この日から俺は毎日、全力で集中しながら魔法を調整しつつ長距離を往復するという苦行が始まった。

いつかフォーレを、かつての町のようにするために……。

最後までご覧いただきありがとうございます。

明日より一定期間は試験的に、更新時間を7:30~12:30の間でランダムに設定したく思います。

日々更新は変わりませんので、どうかご容赦ください。

因みに明日は8:10に予約しています。

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