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ep116 第二次開発

深淵種の討伐後は色々と大変だったけどさ、悪いことばかりでもなかった。

先ずはシェリエ以外の魔法士たち、彼ら彼女らはあのころになって多少は自信を持つようになっていた。


合同訓練をこなす傍ら、「俺(私)たち、ちょと凄いかも」という気持ちを持ち始めていた面も否めない。

もちろんそれは当然の流れだ。今まで無力だった者が突然、常人を遥かに上回る力を持ったんだからね。

『俺(私)強ぇー』モードに入っても仕方ない。


ただ、『もう行けるんじゃね?』と思っていた城壁の外の世界が、彼らよりも隔絶した力を持つ俺ですらボロボロになって帰ってくる場所と知り、改めて驚愕していた。

更に彼らの中で一番強者だったシェリエが、一番恐ろしさを知って真摯に説くものだから、彼らの過信は一気に粉々に粉砕されてしまった。


そして俺は、シェリエの説明で納得したアリスとマリーに念を押されつつ彼女の特別訓練を継続し、徐々に他の者も加えて壁の外に出て行った。

その頃にはシェリエも、上位種との戦闘であれば他の者をサポートできるように成長し、全体の練度は上がっていった。



そのような訓練と定期便を開くためアスラへと移動する日々を過ごし、魔法兵団の結成から六十日が過ぎたころ、遂に俺はもう一つの計画に着手した。


それは農地や牧草地を兼ねた、フォーレの防衛拠点となる出丸の構築っだった。

継続して移住者を受け入れていたこと、トゥーレ近郊の獣人たち全てを受け入れ、それに加え魔の森の里からも獣人たちが集まったフォーレの街は、人口も軽く三千人を越えていた。


となると大きな課題は食料の確保と自給自足体制の構築だった。

だけど俺一人が新たな出丸を築くことや、農地化を進めることだけの作業に専念する訳にはいかなかった。

当面はアスラからの輸送を頼りに、ずっと体制が整うのを待っていた。


そして今日、それらが全て整った。


「これより建設作業に出発する!」


「「「「応っ!」」」」


「兼ねてから言っている通り各班は攻撃の要である魔法士を中心に円陣を組み、構築作業を支援してほしい。

この指揮はアーガスに任せる!」


「旦那、招致いたしましたぁ」


「ヴァーリー率いる巡回部隊は一帯の警戒と制圧を! 魔物と遭遇したら必ず合図の笛を吹き、防御優先で対応を!」


「我が主君の仰せのままに」


「カールは隊を分散させて地魔法で防壁を構築する魔法士たちの護衛を!」


「はっ! 必ず守って見せます!」


「シェリエは遊撃として、知らせのあった場所に飛んでくれ。万が一強敵(深淵種)に遭遇した場合は、火魔法で合図を!」


「もちろんですわ、お兄さま」


俺は城門前に居並ぶ者たちを見渡した。


ヴァーリー率いる重装騎兵は、ガルフの声掛けで新たに集まった里の者たちも合流し、既に三百騎までになっている。


アーガス指揮下の軽装騎兵部隊も同様に三百騎で、裏町を焼き討ちされて追い出された者たちや、トゥーレを見限って移住してきた者たち、獣人たちで構成されている。


魔法士たちも『新理論』発見後に、フォーレに住まうヒト種(主に成人した孤児たち)から適性者を募り、今は総勢で二十五名まで増えている。

一方カール指揮下の護衛騎士団も、脱出時は孤児だったメンバーを中心に増強され今や二百騎だ。


これらの総勢八百二十五名で出丸構築作業に臨む。


「では全軍、決して無理をしないように。フォローは俺とシェリエが行うので皆の安全第一でね。

では、出発!」


俺の合図と共に分厚いフォーレの城門が開け放たれ、堀を渡す跳ね橋が下りた。


「我に続けっ!」


真っ先に安全を確保するため、魔物たちとの戦いに慣れたヴァーリー率いる重装騎兵が駆け出し、続いてアーガス率いる部隊と、攻撃特化の魔法士たちが共に駆け抜けた。


「我らは先ず予め印が付けられている地点を結び縄張りを行う! その後に作業する魔法士を警護するぞ、遅れずに続けっ!」


最後にカール率いる部隊と、地威魔法以上の地属性魔法を行使する作業担当者たちが続いた。


そして俺は、見送りに来ていたバイデルや、アリス、マリー、レノアなどの補佐官、自警団を率いて万が一のために城門前に待機するガモラやゴモラに向き直った。


「では行ってくる」


「ご無事のお帰りを」

「無理しちゃだめよ」

「頑張ってね」

「行ってらっしゃいませ」

「「獲物、待ってますぜ」」


「……」


うん、ガモラとゴモラはブレないな。行きがかり上で討伐する魔物を楽しみにしているのだろう。

まるで『お土産待ってるね』と笑っているような様子だった。


こうして、フォーレの二次開発は始まった。


最初は俺ひとり、後にアリスたちを加えて四人、本格開発に入って百二十三人、それが今や八百二十五人に支援部隊が五百人だ。


『やっとここまで来た!』


シェリエを後ろに乗せた騎馬を駆って駆けだす俺は、とても感慨深い気持ちでいた。



◆自衛軍(常備軍)

・重装騎兵隊 指揮官ヴァーリー 300騎

  分隊長 ガルフ

  分隊長 レパル

・軽装騎兵隊 指揮官アーガス  300騎

  分隊長 ウルス

  分隊長 新任(元ザガート部下)

・魔法兵団  指揮官シェリエ   25名

・護衛騎士団 指揮官カール   200名

  分隊長 アルト

  分隊長 ミゼル


◆自警団(非常任)       500名

  自警団長  ガモラ

  副団長   ゴモラ

  常任指揮官 新任

  常任副官  新任



俺たちが開発予定地に着くと、早速カールの指揮で縄張りが行われ始めており、魔法士たちが一斉に大地を掘り下げ、その土を利用して堤を構築していた。

作業に従事数しているのは、地属性天威魔法を行使できる者が三名、地属性地威魔法を行使できる者が一名プラス新規二名で合計六人。


この効果は絶大だった。


事前にヴァーリーらが調査した地形に堀が穿うがたれて安全地帯が確保され、掘り出した土砂は今後城壁とすべく盛り上げられていった。


「先ずは外周の堀を巡らせ、安全確保することを最優先とせよ!」


カール指揮の元、五名が地魔法で掘り進める傍らで一名が簡単な土壁の体裁を整えつつ作業は進行していた。

片側だけで総延長は四キロあるので簡単に終わる作業ではないものの、目に見えて作業は進んでいた。


そして作業を始めて十分もしないうちに、最初の笛が鳴らされた。


「どこだ?」


「お兄さま、内側ですので私が」


そう言うとシェリエは馬から飛び降りて駆け出していった。

正確には、風を纏って飛び去って行ったが正しいけどね。


今や俺の高速移動をシェリエも身に着けており、魔の森を縦横に駆け巡ることすらできる。

これは前回のシェリエには到底できない技だ。

あの時は地威魔法レベルだったが、今や俺すら凌ぐ神威魔法の階位レベルを行使できるからだ。


続けざまに笛が鳴った。

どうやら外側を制圧するヴァーリーからのようで、俺も馬を降りて駆け出した。


だが……、行ってみるとその場は既にフェリスによって制圧されていおり、周囲の獣人たちがフェリスを讃えるように歓声を上げていた。


そして再び笛の知らせが……。

俺たちは延々と続く知らせを受け、各所に飛び回ることになった。


この日は終始、俺、シェリエ、フェリスが飛び回り、ヴァーリー直属の猛者たちを含め、上位種六体とその他格下十四体、合計で二十体の魔物が討伐された。

もちろんその中には、誰もが喜ぶカリュドーンも四体含まれていた。



その日の夜は練兵所の一角に設けられた臨時大バーベキュー会場に、ガモラやゴモラなどの解体屋から肉屋や加工職人たちも集い、彼らが必死に作業した成果が参加した兵を含む関係者全員の夕食として酒と共に振舞われた。


「なんかさ、今となっては当たり前の光景だけど、こんなことが見られるっていいわね」


アリスが思わずこぼした言葉通り、そこには獣人やヒト種のわだかまりもなく、肩を組んで食事に舌鼓を打ちながら酒を楽しんでいた。


「ホント、昔リームが言っていた理想に、どんどん近づいている感じがするわ。

あの中には『獣人と一緒に作業なんかできるか!』って言ってた人もいるし」


マリーの言葉通り、アーガスの配下には、何故か職人を辞めて軍務に就くようになった、通称『臭い男』も含まれていた。

彼は獣人であるウルスと肩を組み、楽し気に酒を飲んでいるけど、かつては一触即発の雰囲気だったはずだ……。


「それにシェリエさんも、貴族のお嬢様なのに魔法兵団の皆にお皿やお肉を取り分けて……、それってさ、普通じゃないよね?」


「絶対に普通じゃないよ。だってここに来た最初のころは、食堂で皆の皿を取り分けたリームを見て唖然としてたもん」


マリーやアリスの指摘通り、最初はシェリエもカルチャーショックの連続だったみたいだ。


公式の場では俺も領主として振舞っているけど、それも必要とされた時だけだ。

オフの時なんか昔から馴染みのクルト・アリス・マリー・カールとはお互い常にタメ口だしね。


他の皆にも偉そうな口を利いているつもりはない。

俺はあくまでもベースは孤児のリームだからね。


「皆が楽しそうにするのが一番だと思うよ。それに今日は堀の掘削が全体のたった四分の一が進んだだけだからね。明日は残りの四分の一で西側の出丸を囲い込み、それが終われば東側。その後は城壁を整えて内部の掃討をして、今度は内部の基礎工事……。

まだまだ先は長いよ」


「ふふふ、リームも常識がおかしくなったんじゃない?

『たった』じゃなくて、『もう既に』よ。本当なら片方だけでも、安全な場所で半年から一年は掛かる作業だもの」


「アリスの言う通りなのよね。行政府で色々と計画を立てている時も、『本来ならこれは』とか『これが普通と思ってはいけません』ってバイデルさんが、いつも溜息交じりに言っているものね」


「そうね、マリーと私は『非常識』にならないようにと、いつも注意されるわ」


「いや、それってさ……、二人とも俺が非常識って言っているように聞こえたけど?」


「「そう言ったつもりだけど?」」


何故か二人にハモられてしまった。

俺って……、やっぱり非常識なのかな?


平然とそう答える二人に、俺は少しだけ傷ついていた。

これが平穏で幸せな暮らしというものか?

何か少しモヤモヤするし、色々とすっ飛ばしている気はするが、この場はそう思うことにしよう。

いつも応援ありがとうございます。

次回は11/15に『変わりゆく世界』をお届けします。


評価やブックマークをいただいた方、いつもリアクションをいただける皆さま、本当にありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いします。

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