ep114 新生魔法兵団
イシスがフォーレにやって来てから一週間後、俺たち更に新たな戦力を手に入れることとなった。
それは俺とシェリエが立てた仮説を証明するため、全力で動き出した結果によるもの、『ものは試し』とやってみた結果によるものだった。
◇ 一つ目は、新しい仮説の実証
これは思ったよりも簡単に結果が出た。
あの話の翌日、早速俺はノイス経由でトゥーレに飛び、アスラール商会を経由して新たな喜捨を教会に出してもらった。もちろんクルトに充てたメッセージと共に。
クルトの反応も早く、彼はその日の夜にはいつもの宿屋に来訪してくれた。
「リーム、イシスに何か不都合でもあったかな? 何か急いでいるみたいな知らせだったけど……」
ごめんクルト、ちょっとした探求心を抑えられなくて……。
無理して尋ねて来てもらって申し訳ないけど、仮説が正しければクルトのためにもなることだ。
「ちょっとね、早めにクルトに説明しておいたほうが良いと思った発見があってね。
それを実証するために、ほんの少しの時間だけでもいい、向こうに行ってくれないかな?」
「えっと……、今日の今かい?」
「俺はトゥーレに残っているから、クルトだけ向こうに行けばすぐ帰ってこれるよ。
詳しいことは彼方にいるイシスとシェリエに聞いてほしい」
そう言って俺は要点だけクルトに説明した。
・高位の魔石を使用すれば、より高い階位の魔法士となれること
・それにより既に儀式を受けた者でも、上の階位にレベルアップする可能性のあること
・魔法士になるには至らない弱い素養しか持たない者も、高位の魔石により覚醒の可能性があること
・儀式の『担い手』となれた者は、非魔法士でも高位の魔石により覚醒できる可能性があること
「要は高位の魔石は僕らが思っていた、それに応じた階位の魔法を『引き出す』ものだけではなく、持っている力そのものを『引き上げる』ってことかな?」
「そうなんだ。もし仮説通りなら、今のクルトの力も大きくなる。そしてあの羊皮紙は、儀式に必要なものだけでなく、適性を持つ者を発見する鍵ともなる可能性があるんだ。
これってすごい話じゃないかい?」
そう言って俺は、半信半疑のクルトを宿屋の個室からフォーレに送った。
果たして……。
二時間後に再びゲートを開いた俺は、紅潮した顔のクルトと何故かドヤ顔のシェリエをフォーレから迎えた。
「お兄さま、流石ですわ! お兄さまの『新理論』は証明されました!
この理論を発表すれば、これまでの魔法学の常識がひっくり返ることになりますっ!」
そう言ってシェリエは抱き着いてきた。
まぁ……、この分野の研究は彼女が必死に取り組んでいたことであり、新しい発見の喜びは一層大きいのだろう。
「まさか僕が四属性なんて……、天威魔法の階位に進めるなんて……、あはははは、正に常識が覆る話だよ」
クルトも未だに信じられない様子だった。
それぐらいクルトの変化も劇的だったようだ。
三属性→ 四属性
・火属性:地威魔法 → 天威魔法
・無属性:人威魔法 → 地威魔法
・闇属性:人威魔法 → 天威魔法
・光属性:該当なし → 地威魔法
「因みにイシスはどうだった?」
「お兄さま、イシスさんも魔法士に、しかも二属性となりましたわ。光属性は地威魔法、水属性は人威魔法の階位になりましたよ。お兄さまの睨んだ通りです。論文として発表できないのがとても残念ですけど……」
「僕は今後、領主様の指示に従うと称して教会内外を問わず『担い手』を増やすよう動いてみるよ。
そこで可能性があった者のなかから、見込みのある人たちをフォーレに送るために、ね」
「クルト、『担い手』を確認するだけなら『羊皮紙』は消耗しないとか?」
「そうだね、向こうでイシスにも話しておいたのだけど、魔石に反応させなければ消耗しないよ。
今までもずっと同じように使って『担い手』を選別してきたしね」
「お兄さま、これはフォーレでも使える手だと思いませんか? 見込みのある方に同じことをするのです!
そして階位の『上書き』が可能と分かったいま、消耗品である魔石は余裕のある上位種のものを使用し、それなりの力がある方にのみ、深淵種の魔石を使用するのです」
ははは、それは俺の考えていたことの一歩先を行く提案だよな。
そうなれば一気に……、戦力強化ができる。
「そうなると……」
「うん、あとは羊皮紙だよね? リームが預けてくれた金貨を使わせてもらったよ。
それで新たに二十枚をイシスに預けてきたよ。金貨を使った交渉の結果、今後も優先的に回してもらえるようになったから、商会を通じて定期的に横流しするよ」
となると……、既に使用したのは十二枚に今回が二枚、それらを除き今の在庫は二十六枚か?
なら、六枚ぐらいは無駄遣いしても大丈夫かな。
そんな新たな思いを抱きつつ、その後に何点か細かい打合せを行ったのちクルトは教会へ、俺とシェリエはフォーレへと戻っていった。
◇ 二つ目、ものは試し(俺の無駄遣い)
これはまぁ……、無駄遣いというか俺の我儘、エゴの部分もある。
今の俺にとって最も大事な存在であるアリスとマリーには自身の身を守る術がない。
彼女たちがゴロツキ共に襲われた一件は、今でも苦い思いとして心を苛んでいる。
たまたまあの時はフェリスが傍にいて、カールやレパルが警戒していた。だから事なきを得た。
ただそれだけだ。
今後もそういった可能性は考慮しまければならない。
だた二人だけを『特別扱い』するのもなんだし、次の段階の施策も併せて行うことにした。
そもそもシェリエが率いる魔法兵団は魔法特化で近接戦闘や物理攻撃に弱い。
だからルセルだった前回の俺は、三百名の魔法士に対し七百名の護衛騎士を付けてセットにしていた。
そして今、安心してシェリエを預ける護衛として、俺の中ではカールを考えている。
その結果、無条件かつ深淵種の魔石で儀式を受ける者たちを新たに六名選定した。
・行政の中心人物で、警護が必要とされた非力な女性としてアリス・マリー・レノア
・護衛騎士の候補者としてカールとアルス、そしてカールの推薦で元採集班の班長だったミゼル
クルトと共に『新理論』が実証された翌日、この六名には儀式を受けてもらったが、その結果も驚くべきものだった。
アリス 二属性(人威魔法:風・水)
マリー 一属性(地威魔法:火)
レノア 二属性(人威魔法:雷・無)
カール 一属性(人威魔法:火)
アルト 一属性(地威魔法:雷)
ミゼル 二属性(地威魔法:風、人威力魔法:火)
「確か……、今回の全員が一度はフォーレで儀式を受けているんですよね?」
この結果にイシスは茫然としていた。
そもそもだが全員が孤児院出身であり上級待遇で、採集班では班長を務めた者たち。
そのため、過去に一度、十歳の時点で教会にて儀式を受け魔法士とはならなかった。
まぁ、今の時点で俺が心から信用できる人物はまだ少ないし、実際のところ『ものは試し』で対応したんだけど、全員がこうなるとは思っていなかったけどね。
「ちなみにさ、かくいうイシスもそうじゃん!」
「そうですけど……、でも……」
「イシスさん、それだけ深淵種の魔石が規格外だということだと思いますよ。
私も考えてみたのですが、もしかすると多くの人が最低限の素養は持っているんじゃないかと」
確かにシェリエの言う通りかもしれない。
俺がルセルの時も、採算度外視で儀式を受けれるような改革を行った。
その結果が、三百名もの魔法士を抱え、この世界では非常識なまでの戦力を抱えるに至ったのだから……。
それがあの時には持っていなかった深淵種の魔石を手にした今となっては、ね。
◇◇◇
次の日より俺たちは、魔法兵団という新たな組織を立ち上げた。
団長はもちろんシェリエで、護衛騎士の隊長はカール、副隊長にアルトとミゼルを付けた。
その日から六日間、魔法兵団に所属する十二名と護衛騎士の幹部三名、アリス・マリー・レノア・イシスを加えた十九名には、特別訓練に参加してもらった。
もちろんアリスとマリーは、俺が事前にバイデルに話を付けて一時的に行政府の任務を離れて貰って。
彼女たちは日々、午前中はシェリエを教師とした座学、午後はフォーレの外壁側に面した練兵場の空き地で実地訓練を行った。
魔法に関する知識ならシェリエの右に出る者はいない。なので詠唱や発動などの基本知識を学んでもらい、午後は実際に発動させて威力や方向を制御すること、身体に馴染ませることを主眼に添えた。
特に天威魔法以上の階位の魔法は、以前のシェリエが構築した考察通り、正しい使用方法を知らなければその威力はゼロに等しい。そして暴発の危険もあるからね。
午後の授業は俺が教師役となり、実地で教え込むことになった。
ただ……。
その初日からフォーレの街では大騒ぎになってしまったのだけれど。
「あっ、すいませんっ!」
「ごめんなさいっ、どいてください!」
「と、止まりませんっ! 助けてくださいっ」
といった訓練生の悲鳴だけでなく……。
「な、何が起こっているのですかっ!」
「て、敵襲っ……、?」
周囲も暴発した魔法に驚かされて慌てさせる事態が幾度もあった。
街からは離れていた場所とはいえ、しょっちゅう爆炎が上がったり、雷鳴の怒号が鳴り響いたりと……。
慌てて自警団が駆け付けたり、街の人々が驚いて逃げ回る事態に発展してしまった。
うん、そろそろ訓練場所も考え、街の拡張計画に入ったほうがいいかな?
街を大騒ぎにしてしまった俺は、バイデルから苦言を呈されてしまったのは言うまでもない……。
いつも応援ありがとうございます。
次回は11/9に『それぞれの特別訓練』をお届けします。
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