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作られた偶然

同窓会の集合写真は皆同じポーズだった。

両手でピースしている。アイドルみたいに。

画面を拡大して、<手>を確認する。

左手が、同じ<手>だった。

白い、細い指………小指の絆創膏まで同じだ。


「私には彼女たちの<手>は両手同じに見える。でもセイには違って見える。……<人殺しの徴>なのね」

「……」

ショックで、マユの問いに答えられない。

死んだ(あるいは殺された)19人は、皆人殺しだったのだ。


「誰を殺したかは、明白ね」

「……うん。でも、」

桜井穂乃華は事故死と警察が判断したのではないのか?


「真実は、違っていた。母親は知っていたとしたら? 娘はクラスの女子皆に殺されたと? さっき話した小説とは違う。もっと強い殺意よ。小説では、殺したいターゲットの巻き添えで他の乗客が死んだ。でも今回の事故は、ターゲットは全員だった……偶然他のバスに乗って、難を逃れた一人は、登山に行ってない」

マユの声は良く通る。

右手の細い長い指は長い髪に絡んでいる。


「うん。カヨさんは、人殺しではない」

聖は、画像を指差して、マユに吉村加世を教える。

「綺麗な人ね」

マユは微笑む。

「そうなんだ」

セイは、大叔父<首斬り紀一朗>と似た顔だとしか思えない。


「この人は偶然、そのバスに乗らなかったのよね」

「そう。父親と一緒に実家に帰ることにしたんだ」

 

「偶然にしては出来すぎ。一人だけが助かるなんて」

「彼女には強い守護霊が憑いていて、ソイツが助けたんだろ」

 

聖の答えに、マユは首を横に振る。

「父と娘が偶然会うように設定するなんて、出来ない。守護霊に、そんな力は無い」

「そうなんだ」

 幽霊がきっぱり言うのだから疑いようが無い。

「守護霊が仕組んだのではない。と言うことは、事故は穂乃華ちゃんの祟りで、罪の無い一人は除かれた、のかな?」

加世が、(穂乃華を感じた)と言ったのを思い出した。

同窓会の場に、穂乃華の霊が、いたのかも知れない。


「だから、ね、言ったでしょ。無理なのよ。霊にそんな力は無いの」

マユは呆れたように言って、ちょっと笑った。

「祟りとか、取り憑くとか、そういうの、ホントは無いのか?」

霊は無害で無力なのか?


「フッ」

マユは今まで見た事の無い、悪戯っぽい笑顔を見せる。

「少しの力はあるわ。<死の淵>に立っている人の背中を押したり、遠ざけたり……その程度はね」

「やっぱり、そういう事できるんだ……」


……君も俺を殺せるの?

 

心に浮かんだ問いは、聞くまでも無い事だと、すぐに判った。

 マユは自分を、殺せるし、救えると。

 (生身の人間とは別の力で)

 で? 

 今までどうだった?

 マユと初めて会ってから、幾度も人殺しと対峙した。

 無事にやり過ごせたのは運が良かった位にしか思っていなかった

 

ずっと、マユは自分を守ってくれていたのに。

 熱い思いが溢れてきて、抱きしめそうになるのを、堪えた。


「今回の偶然は、誰かが仕組んだと思うの」

 と、マユはきっぱり言う。

「それ、考えてみたけど、不可能、だろ? カオルも同意見だったよ」


「不可能と言い切れない。順番に考えてみたの。まず、穂乃華ちゃんの母親を、岩切山ホテルの運転手にする。あのホテルを同窓会に使う確率が高いから」

「そこまでは不可能じゃ無いな。でも、運転手は一人じゃ無い」

「母親が運転するように、誰かが、操作できたのかも知れない」

「誰かって……そんな事が出来るのはホテルの関係者に限られる」

「そうね。(ホテルの関係者の)誰かが、全てを仕組んだ。セイ達の、女社長さんの宴会も、操作できた」

「山田工務店の宴会を、同窓会と同じ日に合わせたの? つまり、吉村加世を父親に会わせて、事故バスに乗せない為に、仕組んだって事?……それは不可能だよ。だって、吉村さんが宴会に来ると、俺だって当日まで知らなかった」

 それに、吉村加世が父親と帰る事にしたのは、夫が出張中、という事情があったからだ。

 出張中で無ければ、実家に泊まることは無かったのだ。

 

「岩切山ホテルの従業員で、桜井美穂と親しい。吉村加世の生活や実家も知っている。その上、山田工務店と繋がりがある……この全ての条件を満たす必要がある。一人の人間が、そんなの、無理だと思うよ」

聖は、自分の考えは間違っていないと思う。

だが、マユは納得しなかった。

「全ての条件が揃っていなくても、情報を集めることは出来るわ。それに、一人とは限らないでしょ?」

「……あ、」

そうなのだ。

誰かが仕組んだ事だとして、

一人とは限らないのだ。

ネットで知り合って、得体の知れない仕事を請け負うヤツもいる。

情報だって、金で集められるのだ。


「まず、女社長さんに、あのホテルに、あの日に決めた経緯を聞いてみましょう」

優しい声でマユが言う。


聖は素直に頷いた。



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