32.科学準備室
西園寺さんと友達になり、一緒に登下校するようになって三日目が過ぎた。
一日目は小鳥遊さん達に彼女を紹介するところから始まり、前田さんが案の定というかあいちゃんを揶揄ってしまい、あいちゃんの逆鱗に触れ私と瀬戸さんで対処することになった。
そのあとは特に問題も起きなかったのだが、下校についてちょっとした事が発生した。
西園寺さんは園芸部に所属していてほぼ毎日花壇の世話係をしているらしい。
だから下校は夫々でいいのではないかと私が提案するも、彼女は一緒に帰りたいと希望した為私は彼女の部活が終わるまで教室や図書室で時間を潰すことにした。
それをあいちゃんが知ることになるのにそう時間がかからなかった。
私の待ち時間一緒に過ごしたいと彼女は言ってきたのだ。
私は普通に問題ないと思ってその提案を了承したのだが、今になって了承したことをとても公開することになってしまった。
「今日はどこで待ってよっか?」
「そうだね。今日は図書室は人でいっぱいだったし、空き教室にでも行こうかな」
「わかった。それじゃ、二階の科学準備室に行こうよ」
「あそこって入れるの?」
「入れるよ。私何度か入ったことあるから」
「そうなんだ。それじゃ、そこで」
「うん」
私の手を引き科学準備室へ向かった。
外はまだ明るいのだが、科学準備室の中は少し薄暗い感じだった。
空いている席に座り、鞄から途中だった小説本を読もうとした。
すると、彼女が突然私の傍に椅子を置き座ると同時に私の腕を掴んだ。
「どうしたの?あいちゃん」
「めぐちゃん。あの約束覚えてる?」
「約束…?」
約束、すぐに思い出せなかったが数十秒でそれを思い出した。
西園寺さんと友達になることを許す代わりにあいちゃんに私に愛を示してほしいという約束。
ここでその約束を果たせ、そう貴女は言うのですか!?
「…ここで…?」
「……ん、ここで」
マジですか、あいさんや。
急に緊張して心臓の音が大きくなったことが自分でも分かるくらいになってしまった。
ここで、愛を示す。
それはつまり、キスを所望しておいでということですよね?
幸いここはカーテンが閉まっていて薄暗いので恥ずかしさは軽減されるというか何というか。
「めぐちゃん…?」
「あ…う、うん。あいちゃん…」
「うん。めぐちゃん」
彼女は自分の唇を私に向けて目を閉じた。
もう腹を括るしかない、そう思った私はネットで検索して勉強したキスを実践することにした。髪を耳に掛けて、目を閉じてゆっくりと彼女の唇に自分の唇を重ねた。
「ちゅっ…」
二人の唇が重なって離れる時に出るリップ音が聞こえ、お互いの唇が離れ始めた時彼女はいきなり私を抱きしめてキスをしてきた。
「んっ!」
「んちゅ……ん……ちゅっ」
何度も唇を重ねては離れを繰り返した後彼女の舌が私の閉じている唇をこじ開け始めた。
私は全身に力が入らなくなっていきその扉はすぐに開いてしまった。
「んっ」
彼女が私の舌を捉えて巻き込んできた。
私はそれに抗う事が出来ず受け入れるしかなかった。
繋がっていた口が離れ舌と舌で舐め合うようになった。
私の唾液と彼女の唾液が混ざり合い口元にスーッと垂れているのが分かった。
二人ははぁはぁと吐息を漏らし激しいキスをした。
最後に私と彼女の唇が再び重なると大きなリップ音が鳴って完了した。
「はぁ…はぁ…。今日のキスは……」
「ふふふ。激しすぎちゃったかな?」
「……うん。あいちゃんってキス得意なの?」
「そんな得意なわけないよ。ただめぐちゃんのことを想いながら自然にそうなっちゃうんだよ」
「そうなんだね。私唾液垂らしちゃったよ…」
「はい、ティッシュ」
「ありがとう」
制服に垂れた唾液を彼女からもらったティッシュで綺麗にふき取りゴミ箱に捨てた。
今日のは凄く激しかった。それに前より長かった気もした。
それだけ彼女が寒しい思いをしているせいなのだろうか。
「もうすぐ西園寺さん来ちゃうね」
「あ、そうだ、ね」
「あのね。西園寺さんと話したんだけど」
「うん。何?」
「うん。下校時私も駅まで一緒に帰ってもいいって」
「そんなことになったんだ。知らなかった」
「うん。直接話を付けたの。だからこれからも私はめぐちゃんと一緒、だよ」
そうか。
3日間彼女は私と下校すること無く帰宅していたのが気がかりだったのだが、辛抱出来ず直談判したということなのか。
それはそれで私があいちゃんを気にかける必要性がなくなり有難いことだと思った。
「そろそろ下駄箱行こうか」
「うん。今日はありがとね、めぐちゃん」
彼女はそう言って私の右頬にちゅっとキスをした。
少し驚いたが私も彼女の左頬にキスをした後二人で手を繋ぎ下駄箱まで歩き出した。
今日はとてもビックリしたことが発生してしまったが、これも恋人との楽しい思い出なのだろうと思った。
彼女も満足げな笑みを浮かべているし、機嫌を損ねなくてよかったと思った。
暫く下駄箱で待機していると西園寺さんが小走りで私たちの元に到着した。
「お待たせ~。帰ろうか」
「はい。帰りましょう」
「お疲れ様、西園寺さん」
外履きに履き替えて私たち3人で校門を出て駅へと向かって歩いた。
西園寺さんがいるからなのか、彼女は私と手を繋ぐことも、腕を組んで歩くこともせず一定の距離間を保っていたことが少し可笑しくて笑ってしまった。
私が笑うと彼女は頬を膨らませて怒っていたのがまた私の笑いを誘っていたのだった。
もうすぐ春も終わり、これから暑い夏が来る。
高校生活最初の夏休みがやってくる。
今までのような過ごし方になるのか、違った生活を過ごすことが出来るのか、楽しみだと思うのだった。




