45話 君だけの私だよ?【ラストの一区切りになります】
俺の返事を聞いて、後輩女子は俯き、ボブの前髪で顔に影を作る。
くすっと笑いこぼしたかと思うと、高笑いを始めた。
「なーに本気にしちゃって、本気の答えくれてるんですか、先輩、あはは。嘘告ですよ、これ」
いや、気付いてたんだけどね? あえて乗っただけだ。
「まぁ、告白してるところだけビデオに撮れたらいい、って先輩が言ってたんで、なんでもいいんですけどね」
「……その先輩たち、今頃捕まってると思うぞ」
「………………はい?」
だって、普通なら「嘘告でした〜、ざま〜」なんていうふうに、ネタバラシに出てくる。
それがないのだから、爽太郎がうまくやったのだ、きっと。
その後輩女子は途端に焦り出して、ちらちら、校舎と体育館の隙間に目をやる。
……差し金を引いた奴が、そこにいるらしい。
覗き込みにいってみれば、
「てめぇら、ここでなにしてたんだァ?」
……うん、もう俺の出番いらなさそうだね、これ。
学園番長(これでも英語教師)、若狭先生が、主犯らしい二年生らを膝まづかせていた。
凹凸のあるコンクリート地面に正座をさせられている。
やることがエグくない? いくら嘘告の犯人とはいえ、やりすぎじゃない?
鬼と化した教師の後ろには、親指を立てる爽太郎。
それから、どういうわけか比嘉さんもいた。
そっか、ここは体育館裏だ。バトミントン部の彼女なら、顧問である若狭先生を連れてこられる。
爽太郎が、協力を仰いだのかもしれない。
つくづく、助かる仲間たちだ。
「おい、そこの一年! てめぇはどういう立場だ、無理矢理やらされたのか? あん? 楽しんでたよなァ?」
「…………す、すいません! 反省してます」
「じゃあ、そこに座れェ!!」
いや、ほんと怖い。
叱られるわけじゃない俺まで、戦慄して震えあがりそうだ。
あとはお任せしてしまおう。
爽太郎、比嘉さんと頷き合い、俺たちがそそくさ退散しようとしていると……
「おい、湊川」
「は、はい。え、俺、なんかやっちゃいました? いやいや、俺、被害者だと思うんですけど」
「分かってる。分かってるから、最後にこいつらにズドンと言ってやれ」
いや、それ、教師がそそのかしていいの?
この人、本当に型にはまらないなぁ。
そう思いながらも、腹に燻るものはあったので、俺はありがたくその機会をいただくことにする。
「……次、佐久間さんに変なことするようなら許さないからな」
なんだか、いつか吐いたような台詞になってしまった。
でも、あの時も今も、その気持ちは変わらない。
なにも知らずにやっかんで、危害を加えるような奴らに、傷付けさせてたまるか。
「…………やば、湊川先輩、まじで格好いいかも」
先ほど、嘘告白をしてきた後輩が、ぼそっと一人こぼす。
口を手で覆うが、すぐに若狭先生に叱られていた。
とっとと行け、と顎で指図されて、俺たちはその場を後にした。
「助かったよ、めっちゃ。ありがとうな、二人とも」
お礼を述べるが、二人ともに首を横に振り、口々に言う。
「早く行けよ。教室で待ってるんじゃねーの、奥様が」
「ほんまやなぁ。泣いてまうで、早よいかんと」
打ち合わせでもしてたのか、と勘ぐりたくなるほど、息の合った掛け合いだった。
奥様でもないし、きっとこれくらいじゃあ泣かない。
でも、早く行ってあげるべきなのは正しい。言われなくても、そんなことは分かっている。
俺は身を翻して、駆け出す。
若狭先生が他の生徒を叱っていると分かっているので、先生たちからの目に大して気を配る必要もない。
校舎に入ると段飛ばしで階段を上がり、自教室へと飛び込む。
「あ。おかえり、翔くん。早かったね? 走ってきたの?」
そこには、佐久間さんしかいなかった。
始業式の日に、タイムトラベルした。
一瞬、そんな感覚になるくらい、似た光景だった。
五月も目前の温かい風に短い髪をなびかせ、彼女は俺へ穏やかな微笑みをくれる。
凛としたその姿は、まるで飾られた一輪挿しの花のよう。
けれど、彼女はちゃんと息をしている。
ただ見た目が美しいだけの人じゃない。他の誰もと同じように、色々な感情を抱え、そこで生きている。
「ごめん、待たせた」
俺は彼女の席の横まで歩み寄っていく。ぎこちない、変な足取りになってしまった。
「えっと、一応結果だけでも伝えておこうか?」
「……嫌なことなら、聞かないよ?」
「じゃあ聞いてくれ。断ったよ、普通に」
というか、そもそも嘘告白だし。
「ふふっ、そっか、よかった。ほっとしてるよ、私」
「…………送り出してくれる時は余裕そうだったのに?」
「む、乙女心は複雑なんだよ? 翔くんが告白されて受けるわけない〜、って思ってても、ちょっとしたら不安になったりもするものなんだよ」
難しいな、乙女心。
乙女心と秋の空って、よくいうアレだろうか。揺れに揺れるのが常なのだろう。
でも、佐久間さんが俺のことを好きでいてくれることには、いつも揺らぎがない。
……だったら、俺は?
もう過去も、今も、なにも関係ないんじゃないだろうか。どうせ、思いは一つだ。
「なぁ、佐久間さん。告白の返事なんだけどさ」
「ん、断ったんじゃないの?」
「そうじゃなくて、佐久間さんからの、その告白というかプロポーズというか……」
落としたい宣言、だなんて俺から言うのはいかがなものか。言い淀んでいたら、
「ね、翔くん。それ今はだーめ!」
まさかの箝口令が敷かれた。潤む唇の前、人差し指二本で×マークを作る。
「え……は?」
「む、翔くん気付いてないでしょ。
今答えを聞いたら、あの子に告白されて断って、その勢いで返事したことになっちゃうよ?」
そんなつもりはないのだけど……。
まぁたしかに嘘告白をされなければ、今日伝えたかといえば、それはなかったと思う。
トリガーは、あの手紙だ。
「私は、私と同じくらい、翔くんが私を好きになってくれたら返事が欲しいかも……! 私、かなり好きなんだ、君のこと。はっきり言って重いかもってくらい」
「………だから?」
「よく言うじゃん、どっちかの気持ちが強すぎると関係って壊れやすい、ってさ。
そういうの嫌なんだ、本当に。だから、君には私と同じくらい私を好きになって欲しい……。
なーんて欲張りだね、私」
「…………そんなことはない、けど」
「じゃあ、うん、もうちょっと待つ。もうちょっとアピールする!」
佐久間さんは、俺に向かって、満面の笑顔を放つ。
まっすぐで、そしてひたすら強い感情だ。
俺もそうなりたい、と思った。
それと同じだけのベクトルで、彼女に気持ちを伝えられるようになりたい。
だとすれば、今のままではたしかに足りていないのかもしれない。
いつか胸を張って、自分の気持ちに一切の疑いがなくなるまで、取っておく方がよさそうだ。
…………でも、である。
このまま、手をこまねいてばかりじゃなにも変わっていかない。
まずは一歩、俺も一歩、奥手な自分に鞭を打ってでも踏み出さなくては。
「じゃあ帰ろうか、…………杏」
まずは、ここから変えていこう。
今はまだ口の動きすら馴染まないけれど、腹の底がムズムズして、落ち着かないけれど、でも、これもいつかは当たり前のものになる。
「翔くん、今……なんて」
「あー………杏ちゃん、じゃさすがに幼稚な感じだろ? だから、よければ、こう呼びたいんだけど」
「嬉しい! めっちゃ嬉しいよ! 飛び跳ねたいくらい。ね、もう一回呼んで?」
……くそ、超恥ずかしいんだが。机の下に隠れてしまいたい。そのまま一生出てこない自信がある。
けれど、踏みとどまって俺はもう一度、彼女の名前を口にした。
「杏」
「はーい、君だけの佐久間杏だよ」
甘くて、切なくて、でも透き通った声だった。
心に直接、ぐさりと刺さる。
やられた、やられすぎて、卒倒しそうだ。強すぎる。今は敵う見込みもない。
こんなもんもはやコールドゲームだ、やられっぱなし、なす術もない。
「……か、帰ろうか、そろそろ」
どもってしまうのも、もはや不可抗力だ。
俺は席の横にかけていた制カバンを手にするついで、表情を見られないよう背を向ける。
「うん、帰ろっか。ね、翔くん。今日歩いて家まで帰らない?」
「別にいいけど、どうかしたの」
「そういう気分なんだよ〜、君とお散歩してたい気分♪」
「……ま、明日から学校休みだしいいけどさ」
「そうそう、ゴールデンウィークの神様、ありがたや〜!」
「そんな神様はいません」
「いますー、だ。翔くんと二人の時間、たっぷりくれるんだもん。
そりゃあ拝み倒すよ、信奉しちゃう!」
♢
すっかり日も暮れて、夜。
一緒に夕飯をとった佐久間さん、いや、杏が家に帰った後のことだった。
俺は寝る前のルーティン、趣味である縫い物に取り掛かる。
全く進んでいなかった。むしろ、後退してしまってすらいた。
少し前、杏との電話に浮き足立って、失敗してしまったことが原因だ。
絡まり合う糸や、縫針に翻弄され、未だほどききれていない。
それでもこれまでの努力が惜しく、諦めきれていなかったのだけれど、今日という日は違った。
もう、一から縫い直そう。急ぐようなものじゃない。
そう、考えることができていた。
感動した、キュンとしたなどあれば評価や感想のほど、よろしくお願いします!
続きもある予定です。
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たかた




