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第28話 たこパの決意




三連勤です。




頭が冷えた。


たこ焼きをくりくり回しながら、俺が考えていたのは、艶やかなるその下乳……って馬鹿、違う、そうじゃないけれど、目の前にいる少女のことではある。


ちんまり、俺が使い続けて、萎れたクッションの上にぺたんこ座り。

たこ焼きの生地が煮立つのを、竹串二本持ちで見守っていた。


これでも、現役クール系アイドルだ(休業中)。


「もう、翔くんったら。急に走り出すからびっくりしちゃったよ」

「……悪かったな。ちょっと急用で、そうえっと、どうしても隣駅の図書館に返さなきゃいけない本があってさ」


もちろん、でっちあげである。


でも、時間帯の辻褄は合う。

図書館の貸し出し本はレンタル期間一週間、返却ポストの開放時間はちょうど7時までなのだ。


本当のことを言うわけにはいかない。そしてそうである以上、俺がどうにかしなければいけない話でもある。


有効な手立てを編み出したいところだが、


「ねぇ、そういえば金曜日の委員長会でいってたお掃除いつやろうね」


話しかけられれば中断せざるを得ない。

俺は一旦悩むのをやめて、たこ焼きを返しだしながら、返事をする。


「いつでもいい、って言ってたから、来週あたり空いてる時間にちゃっと片付けちゃおうか。……あんまり放っとくと、若狭先生がキレるし」

「だねー。場所がトイレって言うのが外れくじだけど」

「こら、食事中にやめなさい」


別に俺は気にしないのだけど、外に出てこれでは、怒られてしまうかもしれない。


ほとんど親みたいな調子で注意すると、素直な子どもみたいに、はーいと返ってくる。


さすがに、買ったばかりのたこ焼き機は出力が違った。

火の通りはかなり早く、すぐに回すターンになる。


「勝負だよ、翔くん!」


彼女は竹串をとんと、たこ焼き機について、挑戦的な顔で言う。


「多く回せた方の勝ちね。勝ったら、一つ言うこと聞いてもらえるってどうかな?」

「そういうの、仕掛けた側が負けるんだぞー」

「そういう問題じゃないよ。関西魂勝負だよ、これは」


そうだとしても、東京にいた佐久間さんより、俺の方が有利になるが……。


こんな簡単な誘いを断るような俺じゃない。


そして結果、


「うぅ、うぅ、なんで〜!?」


わりと大勝ちしてしまった。


まぁ一人暮らし期間が一年もあれば、友達を呼んでタコパすることもあるしな。

交友関係の狭い俺である。その大半は陸奥となのだが、相手は別に関係ない。


「それで、翔くんは私になにをさせるの?」

「ひとまず、その言い方、やめた方がいいな」


ふんっと鼻で笑う佐久間さん。


「今、『言うこと聞いてもらう権』の行使したってことでいい?」


変なところで、こすいが、別にそれでも俺としては構わなかった。

なにか思惑があって、勝負に乗ったわけではない。


「なんてね。私、そんなに策士ちゃんじゃないよ。

 まぁ、翔くんの言うことなら、なんでも聞くようにするから、適当に考えててよ。その、エッチなのは順序が欲しいけど」

「そんな命令しないから心配しなくていいよ」

「それ、私に魅力ないって言ってる〜? むー」


そうじゃない、と俺は単に首を横に振った。

そして、滑るように聞いてしまう。


「……ちなみに佐久間さんが勝ったら、どうしようと思ってたんだ」

「ん、私かー。とりあえず、あーんしてあげる、とか? してみたかったんだよね、ラブっぽいじゃん?」


焼き上がったばかりのタコ焼きを串に刺して、彼女は俺の顔へと近づけてくる。


負けたくせに、そのままやり遂げてしまおうとするあたりも、やっぱりこすいな……?


だが、どうせだから、といただいてしまう。

熱さを逃しながら噛み進め、飲み下した。


「どう、美味しい? す、すーぱーアイドルに食べさせてもらったんだよ。

 き、君を好きだって公言してる女の子が、食べさせてあげたんだよ」

「だから、恥ずかしさ隠しきれてないからな。うん、味がしない」

「な、なんでぇ!!? 私の食べさせ方、センスなし!?」

「食べさせ方のセンスって初めて聞いたわ。ソースもマヨも青のりもなにもついていないからだよ」


あぁそっか、と彼女は手槌を打って、あっけらかんと笑った。


その呑気な笑顔は、ありのままだ。今のたこ焼きと同じ。

裸を見てしまったばかりだからいうのではなく、佐久間杏は本当に一枚の布さえ纏っていない彼女そのものなのだ。


人の理想で武装したアイドル・佐久杏子とは、違う。


それだけに、今にも壊れそうで、ヤキモキとさせられる。


「翔くん、ソースついちゃった……。ティッシュどこにあるかな?」

「そこ、駅前でもらったやつがあるだろ。というか、どうやったら、頬の真ん中にまでつくの」

「えへへ、欲張った。三ついこうとしたんだ、口をいっぱいにしたかったんだよ」


……誰かが守ってやらなければいけない。


それはたぶん俺がなるべきで、なりたいとも思う。

けれどそれが、精算したはずの過去からくるのか、今の俺の気持ちなのか、それは判然としない。


分かるのは、守る必要があるということだけだ。


俺はタコ焼きを皿へ上げていきながら、勝手に心の中で、ある決意を固めたのだった。


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