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ナーアヴェン~ある雨雲の物語~  作者: シャムローズ
第四章:グレーイの帰還
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~雲散~

♪ BGM : ハンター× ハンター - Hegemony Of The Food Chain

 二つの雲が戦い初めてから、およそ10分ほどの時間が流れた。しかしグレーイとデュオルクは、何時間も戦っているように感じていた。苛烈な戦いで、拳、足、膝、肘、頭、あらゆる体の部位を使って攻撃をしていた。度肝を抜かれた目で上を見上げる戦士たちの頭上で、激しい体と体のぶつかり合いが繰り広げられていた。その様子を誰もが固唾をのんで見守っていた。


 こんな壮絶な光景は毎日見られるものではない。二つの雲の力は常識の範疇を超えている。一撃ごとに天と大地を震わすその攻撃の振動が、まるで鐘のように戦士たちの心をも震わせた…


 放った攻撃は必ず相手から二倍返しで返され、その連鎖が永遠に続いていた。どちらも、相手より先に倒れてなるものか、と踏ん張っていた。戦士たちは次第に長のことが心配になり始めた…一つの雲を除いて。


 その雲は泰然自若としていた。年の頃はデュオルクと同じくらいだろうか。だが、その顔には無数の傷跡が刻まれていた。最も奇妙だったのは表情だ。眉は冷酷に寄せられていたが、その口元には微かな笑みが浮かんでいた…


 一方、互角に見えたこの二つの雲だが、デュオルクの方には既に疲れの色が出始めていた。デュオルクはゼーハーと息切れしているのにも関わらず、グレーイの方は全く疲れていない様子だ。戦いの興奮で、この巨雲から受けている反撃の痛みを感じなくなっているらしい。


 突然、この戦場に一つのジンが近付いてきた。ウルナーがやってきたのだ!デュオルクとグレーイだけがそれに気付くことなく戦い続けていた。


 ウルナーが戦士たちの近くに着地する前に、その中の一つの雲がこう叫んだ。


「おい!こんなところで何してるんだ!?危ないからガキンチョは早く帰れ!」


「でもあたしね、塔のすぐ近くに住んでるの!ほんとーにすぐそこ!」と、ウルナーはからかうような口調で答えた。


「あ、そうなのか?…っていや、ここの地域の住民は全員避難したはずだ!馬鹿にしてんのか?貯蔵庫に閉じこもっておくように言っただろ!?」


 ウルナーは何も聞こえなかったかのように、戦士たちから少し離れたところに降り立った。手を出すには遠い、絶妙な距離だ。先ほどウルナーに話しかけた戦士が注意するために近付こうとしたが、傷だらけの顔をした戦士に止められた。


「放っておけ。」その傷だらけの戦士、ムーフェが静かで落ち着いた声で命じた。「あの子を知っているだろう? ウルナー、この町の神童だ。いつだって好き勝手に行動する子だ。デュオルクがここで、いつでも行動できる状態で待機しろ、と言った。だから俺たちはいつでも行動できる状態で待機していればいいんだ。分かるな?」


「承知しました、将軍!」と戦士は緊張した様子で答え、再び空に目を向けた。


 この傷だらけの戦士、ムーフェは、ネフェリアで最も高位の将軍であり、評議会のメンバーでもあった。デュオルクの右腕であり、そして何よりも、幼馴染で最も忠実な友でもあった。


 ここでの疑問は、なぜこの幼馴染がこんなにも落ち着いているのか、だ。デュオルクに絶対的な信頼を寄せ、彼の勝利を確信しているかのように見えた…


 一方ウルナーの方はというと、目の前で繰り広げられている戦いのスケールの大きさに驚いていた。空で激突する二つのエルムは、どちらも恐るべき力を持っていた。以前にこの塔の前で見た、びくびくと怯え、震えながらネフェリアの長から逃げた時のグレーイとは、まるで違う、別エルムのようであった…


 戦況がガラッと変わるまで時間はかからなかった。デュオルクは完全にグレーイに押されていた…


 突然、デュオルクは勢いよく後方へと飛んだかと思うと、息を整え、強力なツの玉を灰色の雲に向けて放った。


 グレーイはサッカーのゴールキーパーのような姿勢を取り、自分めがけて猛スピードで飛んできたその玉を、正確に両手で受け止めた。デュオルクは愕然とした。こんな技を見るのは初めてだった。


 ウルナーはこの防御の方法が一体何なのか、一瞬でピンときた。なぜならこのテクニックは、ウルナー自身がバロネロの試合で使った技だったからだ!グレーイが自分の技を真似したのを見て、ウルナーの顔には、頬が零れ落ちそうなくらいの満面の笑みが広がった。


「神に祈るなら、今だぞ!」灰色の雲が嘲笑的に叫んだ。


 その言葉の後、雨雲はツの玉を二倍の力でデュオルクに返した。デュオルクは驚きのあまり、腕を上げ防御することもできなかった…ツは迫撃砲のように胸間で爆発した。その爆風で巨雲が遠くへ投げ飛ばされるやいなや、グレーイは一気に加速し、背後に回り込んだ。


 グレーイは片腕を高く掲げ、拳を固く握りしめハンマーのように振り下ろした。その一撃はデュオルクの背骨を直撃し、長は喉元から絞り出すような叫び声を上げると、戦士たちの方へと真っ逆さまに落ちてった。戦士たちは皆、恐怖に駆られ四散し、デュオルクは無情にも地面に強く叩きつけられた。


 その威力は凄まじく、地面は隆起し、あたり一面に砂埃が立ち込めた。衝撃の中心部にいるデュオルクは、ピクリとも動かない。


 その様子を見て絶望に襲われた戦士たちは、命が惜しいと雲を霞と逃げ出した。後に残されたのは、恐怖のあまり動くことすらできない戦士が数名と、ムーフェのみ。その中でムーフェだけが冷静に、デュオルクがその底にいるクレーターをじっと見つめていた。グレーイは静かに降り、数メートル先に足をつけた。


 グレーイは、デュオルクがもう白旗を振ると確信していた。しかし…それはとんだ見当違いだった。驚くべきことに、長はまだ戦う意思を捨てていなかったのだ!


 それでもデュオルクの脳内には、敗北の二文字がチラついていた。なんとか立ち上がって見せたが、背中に耐えがたい激痛が走った。背骨が数本折れているに違いない…


 真っすぐ立つことも難しかったが、ふらつきながらも、デュオルクは必死に立ち続けた。グレーイは依然として冷ややかな表情で、いつでもとどめを刺す準備ができているようだった。その眼差しには何の感情も宿っておらず、瞳の奥はまるで無限の闇が広がっているかのようだった。


 一瞬、デュオルクは、まるでそこにいるのがアロイなのではないか、という錯覚に陥った。二度と思い出したくない過去のあの日に、忌々しい灰色の雲が、父親の顔を踏みつぶしていたあの瞬間に戻ってしまったのではないか、と。


 死にそうな痛みの中、デュオルクはアロイが権力を握っていた時代のことを思い出していた。あの時、デュオルクは父親や身近なエルムが命を落としてしまうのではないか、という恐怖の中で生きていた。一家は何年もの間、村の長となった呪われたエルムの狂気を避けるために、地中に隠れ住んでいた。


 そんなある日、別の灰色の雲が村に現れた。二つの雨雲は村の真ん中でぶつかり合い、村の半分が粉々に吹き飛んでしまった。その戦いで多くの住民が命を落とし、デュオルクの友達の殆ども、その灰色の悪魔たちの暴虐によってこの世を去ってしまった。


 その中でただ独り、ムーフェだけが生き延びた。しかし、この一連の出来事はデュオルクの心に深い傷を残した。誇りも、心も、魂さえも傷付けられた…


 しかし、対抗軍の中で過ごした日々はデュオルクを鍛え上げ、今日の長を作り上げた。そして何よりも、幼かったデュオルクに、灰色の存在がいかに危険であるかを教え込んだのだ。


 今が、運命の時。願いが成就する時。灰色の雲との忌々しい歴史に終止符を打つ時だ。「ついに…ついに…ついに!」と、デュオルクは繰り返し口ずさみ続けた。よろめきながらも笑みを浮かべ、グレーイの顔をじっと見据えた。


「どうやら、残っていた理性すら失ってしまったようだな、デュオルク。」と、主人公は無邪気に呟いた。


「ムーフェェェェェェ!!!!!」突然、ネフェリアの長が叫び声を上げた。


 クレーターの縁に立っていたムーフェは、腕を組んだまま、迷うような視線を古くからの友に投げかけた。デュオルクはその白く鋭い目でムーフェを見つめ、静かに頷いた。それを見て、ムーフェは組んでいた腕を解き、小さな物体をデュオルクに放り投げた。デュオルクはそれを受け取り、手のひらを開いて満足そうにそれをそっと見た。


「モンスターを倒すのが簡単じゃないことは、最初から分かっていたさ。」と、笑みを浮かべて言った。


 グレーイは眉をひそめた。あれはなんだ?新たな武器か何かなのか?突然、巨雲がこちらに向かって手を差し出してきた。グレーイは即座に攻撃を避けようと身構えたが、何も起こらなかった。デュオルクはただ、何かを見せていただけだった。その手にあるものは、ただの小さな石のようだ…


 その石は、暗く不気味な赤い光を放っていた。そして鼓動に合わせてとくん、とくんと光も瞬いている…グレーイは、この石に見覚えがあった…そんな…まさか!!!記憶がどばっと甦り、グレーイの表情は一変した。目を見開き、口をゆっくりと開けて呟いた。


「そ…それはまさか、ハルの石?」完全に混乱し切った様子だ。「いや、そんなはずは…あり得ない…石はパリが破壊したんだ!」


 デュオルクはけたたましく笑い出した。笑えば笑うほど背中の傷が痛み、崩れ落ちそうになった。息を切らせ、呼吸を荒くしながら答えた。


「貴様がこの石のことを知っていたことに驚いたぞ、雨雲…これは古くからネフェリアに伝わる秘宝だ。この惑星に存在する、数少ないハルの石の一つだ!」


 つまり、他にもハルの石は複数個あるのか…今この事実を知るなんて、また運命に弄ばれているとしか思えない。それがどういうことなのかを考えている暇はない…今はただ立ち尽くすことしか出来なかった。電気ショックでも浴びたかのように、衝撃の事実に動けなくなってしまったのだ。


 その間に、デュオルクは続けた。


「貴様の前任者を倒せたのも、この石のおかげだ。そして、この石の力で今から貴様を倒す。俺様は、父やあの狂った老雲のようにはならない。俺様は、ためらわない!灰色の雲よ、貴様はただの呪いに過ぎない…。今日こそ、雨雲という忌まわしい存在を世界から消し去るのだ。そうだ、俺様は今日こそ、天命を成し遂げるのだ!」


 そう言うと、デュオルクはハルの石を持った手を自らの胸に突き刺した。瞬間、大量の水がその傷口から噴き出し、デュオルクは苦痛に叫び声を上げた。その音は、周囲の雲たちの血を凍らせるような恐ろしい叫びだった。


 戦士たちは、その凄惨な光景に歯を食いしばり、嫌悪感に顔を歪めた。ウルナーは思わず顔を背け、その解せない胸糞が悪くなるような光景に、激しいめまいと吐き気を感じた。


 その間も、デュオルクは笑い続けていた。その狂れた引きつり笑いの声は、グレーイの頭の中で鬱陶しいほど鳴り響いた。狂ったように笑い続けているのに、巨雲のオーラは徐々に膨れ上がり、変貌していった。そして、少しずつ、別の何かと混ざり合っていった…



デュオルクがハルの石を体内に取り込み、変貌していく。

グレーイは新たな敵と対峙することになった。この悪夢から逃れられるだろうか?

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