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第3章ー30

 朝鮮半島方面の日米韓三国連合軍が大攻勢を行った1932年1月7日は、旅順、大連方面でも日本陸海空軍が連携した大攻勢が展開された日でもあった。


「どんどん撃て」

 戦艦の金剛、榛名、霧島を指揮下に置く第二戦隊長官の藤田尚徳中将の号令が、旗艦の金剛の艦橋内で響いたのが、旅順、大連方面の日本陸海軍の大攻勢の皮切りとなった。

「比叡が練習戦艦で無ければ、ここに連れてきていたのだが」

 藤田中将は更に独り言を呟いた。


 金剛型戦艦、各艦それぞれが主砲1門当たり50発、合計で400発(全てを合わせれば1200発)の砲弾を、日本陸軍が確保している金州城を取り囲むように、築城された張学良軍の野戦陣地に叩き込むことになっている。

 更に各艦の副砲や、巡洋艦や駆逐艦の支援砲撃も加わるのだ。

 大体だが、幅5キロ、奥行き2キロの10平方キロメートルの範囲内に、全部で約1000トンの砲弾が叩き込まれることになる。

 それでも、石原莞爾中佐を筆頭とする満州派遣総軍司令部からは、もう少し海軍による火力支援が欲しいと要望が出されていた。


 藤田中将にしてみれば、これでも足りないというのか、と疑問を覚えざるを得ないのだが、海兵同期の海兵本部長、米内光政中将までもが、満州派遣総軍司令部の味方をする有様とあっては、そこまで必要なのだと自分を納得させざるを得なかった。


「着弾観測にあたっている空軍機からは、ほぼ問題なしとの無電連絡が届いています」

「良し」

 通信参謀の報告に、藤田中将は肯いた。


 敵艦という移動目標に叩き込むために、第2戦隊は猛訓練を積み重ねてきた。

 地上の固定目標という、ある意味、据え物斬りで、目標を外すようでは恥もいい所だった。

「日本海軍の射撃精度の精華を、敵味方に見せつけてやれ」

 藤田中将は、更に吼えた。


 逆に惨憺たる有様になったのが、張学良軍だった。

 一応、日本陸軍の重砲の直撃に耐えられるように、野戦陣地を設営していたが、最大で15センチ級の砲撃に耐えられる程度と考えて設営されていた代物だった。

 つまり、50キロ前後の砲弾に耐えられる程度で充分と考えられていた。

 そこに600キロ以上の重砲弾が降ってくる。

 張学良軍の野戦陣地の大半が耐えられる訳が無かった。


 運良く、戦艦の主砲弾の直撃を免れた野戦陣地に対しては、巡洋艦、駆逐艦が追加の砲撃を加えた。

 駆逐艦と言えど、12センチ級の主砲を装備している。

 立派な野戦重砲といえる代物である。


 それを偽装等で何とか免れても、鵜の目、鷹の目で、日本空軍の爆撃機が、張学良軍の野戦陣地を探し求めており、生き残っている張学良軍の野戦陣地には、更に爆弾の雨を降らせた。

 さすがに時代的に、空軍の爆撃による爆弾量はそう大したものでは無く、全部合わせても20トンにも満たなかったが、張学良軍の兵士の心理に与えた威力は絶大なものがあった。


 金剛等、第二戦隊の砲撃が開始されてから、1時間余りが経ったとき、さすがに艦砲射撃の砲声は止み、第一次の日本空軍の空襲も終わりを告げていた。

 そして、日本の第2師団を中核とする旅順、大連方面からの地上部隊を活用した攻勢が始まった。


「全く派手にしてくれたものだ」

 第2師団の多くの将兵が、半分は感嘆、半分は嘆きの声を上げながら、張学良軍の野戦陣地への突撃を開始した。

 余りにも派手な艦砲射撃が行われたために、地面は完全に掘り返されており、進撃は困難を極めた。

 だが、その成果も大きい。


 7日の夕方には、第2師団は金州城を半ば攻囲していた張学良軍の大半を敗走に追い込んでいた。

 陣地を破壊された張学良軍は、日本軍の攻勢に抵抗できなかったのだ。

「いざ、奉天へ」

 第2師団の将兵は意気軒昂となった。 

 本当は、これくらいの砲爆撃では野戦陣地を潰すのには、私自身も足りないような気もしますが。


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