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99話、警固奉行人

ーーーーーー天文二十四年九月初旬・赤間関・陶隆護ーーーーー



そうこうしていると、岸辺から数艘の船が見えてきた。


「白井越中守家中の者である!大内様御家中の面々で相違ねえか!?」


浅黒い男が顔を乗り出して声を張り上げる。


「大内家臣、冷泉左衛門尉(さえもんのじょう)じゃ!乗船願いたし!」


「承知した!今岸に船をつける!!」




小舟で出迎えにくるんだな。白井家は大内家警固奉行人(けいごぶぎょうにん)つまり、大内水軍の指令的立ち位置のはずだからてっきり大きな軍船で迎えにくるのだと思っていた。


「改めて白井越中守嫡子、白井助四郎じゃ。」


「儂は冷泉左衛門尉。こっちは小さい方が陶出雲介殿、でかい方が尼子左衛門大夫殿じゃ。こちらの貴人は前関白様におわす。助四郎殿、先導頼むぞ。」


「ほう、陶様に前関白か。」


「二条一位におじゃる。」「尼子左衛門大夫にござる。」


「陶出雲介だ。早速だが聞きたいことがある。助四郎殿、白井家は警固奉行人であろう?であれば安宅船も出せたのではないか?」


「陶様、おもしろきことにお気づきだな。瀬戸内海は小島が点在する。そのため安宅船のような大きな船ではなく、小さく機動力に優れた小舟の方が利点が大きいのだ。最も、沖合に父が乗る関船と村上の関船、奈佐の関船も停泊しているがな。奈佐日本ノ介はそこの尼子左衛門大夫殿と尼子の前当主宗見様が、警固衆に名を連ねるよう説得に勤しんだと聞いているぞ。」


尼子修理大夫晴久。いや、今は剃髪して宗見そうげんだったな。あの人が陰で動いているからこそ、出雲の国人が俺に従っているんだ。俺だけなら大内の武で、国人を恐怖によって強制させているにすぎない。大きな反乱がないのもあの人のおかげだ。あの時、あの人の命を救って正解だったのかもしれない。しかし、このニート(尼子左衛門尉)も働いていたとは。たまに神門川を離れていると思ったらただの穀潰しじゃなかったんだな。


「いや、日本ノ介の懐柔には手を焼いた。あやつ、尼子が滅びたあとは、山名様の元へ帰参する算段だったようでな。」


うんうん、よく働いていたんだな。


「小早で壇ノ浦を渡るのもまるで源判官のようでおもしろいの。平家物語絵巻の中に迷い込んだようでおじゃる。」


お公家様は呑気な者だな。

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