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97話、評定








ーーーーー天文二十四年八月下旬・大内氏館・冷泉隆豊ーーーーー



「兵部卿様のおなぁ〜りぃ〜!」


小姓の一声に、猛々しい武者が入ってくる。

我が主・従二位大内兵部卿様じゃ。御屋形様は、御養嗣子・左衛門佐様を亡くされてどこか憂いがおありであった。




しかし、一門衆に控える陶藤三郎に絆されて、前々の御屋形様にお戻りになられたようじゃ。藤三郎、歌はからっきしのようじゃが、絵はなかなかのものと聞く。さらに勇もある。あれを蛮勇と申すものもおろうが、将が先陣に立つと兵も奮いたとうぞ。儂は斯様な若武者は、嫌いではあらぬ。若いうちは、側を控える側近達に守りを固めさせれば良いであろう。しかし、矢張り将たるものは討たれてはならぬ。共に兵部卿様を支えるべき陶の新当主となれば尚更じゃ。




「皆の衆よくぞ、参った。大義である。」



「「「ははっ!!!!」」」


「早速じゃが。改めて、そこに控える陶藤三郎。」


「ここに。」


「父・全姜(卓鍼軒呂翁全姜:陶隆房戒名)の跡を継ぎ、陶当主の名跡を受け継ぐが良い。」


「御意に。」


「主上より、陶藤三郎に従六位下並びに、出雲介を賜っておる。これより、陶出雲介隆護を名乗れ。」


「有り難く。」


ほう、出雲介か。確かに藤三郎の居館は、大部分が出雲にある。出雲介という権威にて、出雲国人を藤三郎の元にひれ伏せさせると言うことか。御屋形様考えられたな。


「厚東氷上太郎よ。」


「は、ははっ!!」


おぉ、大護院の嫡子、厚東殿か。確か、厚東殿にも御屋形様は官位を約束されておったな。


「その方には、従六位下・左衛門少尉を承った。厚東行左衛門尉隆武となのれ。」


「ははっ、、!」



うむ。氷上太郎殿も、大内一門の1人じゃ。従六位、妥当じゃ。しかし、本題は官位のことではない。


「朝廷の働きかけで、三好を畿内・四国に留め置くことに成功じゃ。山口に下向なされた、二条前関白様(二条尹房)、三条前左大臣様(三条公頼)、一忍軒様(持明院 基規)ら公家のお働きかけもある。」※


朝廷が、三好を抑えられたか。確かに三好にしても少なくはない被害じゃ。特に、猛将にて、三好孫次郎(三好長慶)が弟、十河某が浅くない傷を負ったと聞いておる。それも、藤三郎。いや、出雲介であったな。あやつの居城であったな。城詰であった井上というものも寡兵にてよく戦ったとか。五郎(陶隆房幼名)、見ておるか?其方そなたの嫡子はよくやりよるぞ。次世代の大内家は安泰じゃ。安心して眠るが良い。


「そこでじゃ。我ら大内は、大友を叩く。」


「おぉ!それでこそ兵部卿様じゃ!!」


いかん。つい、思っておったことが口に出てしもうた。


「ふっ、素直なやつよ。それでいて本歌の才覚もあるとはまさに文武両道とは太郎左衛門のことじゃな。」


お恥ずかしい限りじゃ。


「御屋形様、御無礼つかまつりますが。」


「よい。藤三郎申せ。」


「先の戦で我らとて少なくない打撃を受けておりまする。東の四職様、畿内の三好、伊予の河野様、西園寺様が攻めてこない故に、後方の心配はいりませぬが、我が陶も前当主を失い力を半減しております。それは多くの皆々様も一緒にござりましょう。ここは自重すべきかと。」


「そこでじゃ。豊前の城井、筑前の宗像、筑後の高橋、そして肥前の熊ら九州の国人にも兵をあげるよう言って回るのだ。そこで、教養があり武勇にも優れる我が一門衆から太郎左衛門、藤三郎。そして大友領の地理に明るい氷上太郎。主らに使いを任せたい。よいな?」


御屋形様から、命を賜った。これはやらぬわけがなかろう!藤三郎!!氷上太郎殿!!やりましょうぞ。


うむ、氷上太郎殿は不安そうじゃな。まぁ、仕方がない。山口に来たばかりじゃ。


しかし、、、藤三郎、、。なんじゃその顔は。白目剥いておるぞ。



前書きも後書きもサボります。



※ 二条前関白様、三条前左大臣様、一忍軒様=いずれも京から山口に下向した貴族。史実にて二条関白と三条左大臣は大寧寺にて殺害される。一忍軒は諸説あり。

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