83話、大寧寺の変
ーーーーー天文二十四年六月六日夕暮れ・長門国大寧寺ーーーーー
「隆豊、最早これまでよの。」
「亀童様と亀鶴様は、もう落ち延びられたことにございましょうか。」
「あやつらには、その方の子と弟、伯耆守の倅をつけておる。さらに、三好を遮るのは内藤弾正忠じゃ。藤三郎の領を通り、山名殿の元に落ち延びる時間は稼いでくれよう。」
「相良の姫が身篭っておるとか。」
「藤三郎の倅か。藤三郎の倅あれば器量もよかろう。亀童
の良き臣の者となろうな。」
周防・長門・石見・安芸・豊前・筑前を治め、大内の最盛を築いた大内義隆とその一門で、忠臣冷泉隆豊は大寧寺にて、大友の軍から逃れる。
「御屋形様いかがなされた?」
隆豊が、ふと歩き出した義隆を見据える。
「血を分けた甥に命を取られるとはな。戦国乱世は分からぬものよ。」
ぶぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーー!!!!!
義隆が、法螺貝を響かせる。
「隆豊!来ぬと分かっておる援軍を儂は呼びつけようぞ。」
「ならばこの太郎左衛門に、御屋形様のお背中をお任せくだされ!!!大内の兵が来ようと返り討ちにしてくれましょうぞ!!!!」
何度も何度も、義隆はその法螺貝を吹き続ける。
バキッ!!!
虚しさか悔しさからか、義隆のあまりの力に法螺貝が欠ける。
「ほう、大寧寺にも大友の兵が参ったようじゃな。」
「これ程ならば、太郎左衛門にお任せくだされ。尾張守がまだ粘っているようですしな。」
「儂にも刀を抜かせい。者共、直ぐに首はくれてやるな、大内の生き様を大友に、新太郎(後の大友宗麟)に見せてやろうぞ!!」
「「「「「応!!!!!!!」」」」」
「御屋形様を討ち取らすでないぞ!!!」
大寧寺にて、大友兵と、大内義隆につき従う重臣との白兵戦が始まった。陶隆房が討ち漏らした兵と言えどその数の差は歴然。大寧寺に籠るのは200程。対する大寧寺を囲む兵は5倍を超える。
「1人で幾人かと斬り結んでから死ぬがよい!!そして三途の川で待っておれ!!!」
公家文化を好み、西の小京都を創り出したと言えど、それは大内の武威を示すため。さすがは、西国武士の棟梁。鬼神の如く顔を朱に染る。その背中で深紅に染った刀を振るう男も、主に敵を近づけぬとまさに縦横無尽に切り結ぶ。
「御屋形様、新手にございます!!!!」
「なんと!甥にしてやられたわ!!!この無念、亀童とその家臣らに託す!!!!」
「よく見なされ!!旗印に唐花菱が!!!!」
「隆房めが!!大寧寺まで敵を討ちに来よったか!!!しかし、こちらに兵を向ける余裕はあるのか、、?ん?馬印に、素戔嗚尊の文字と天之御中主尊の文字が、、、、 藤三郎じゃ!!藤三郎が兵をこちらに走らせて来よったわ!!!!儂は、大内兵部卿よ!!!!!!その方らのような下賎の雑兵に容易く首をくれてなるものか!!!!者共!!!ここは死に場所に在らず!!!!!存分に敵を討ち取れぇい!!!そして藤三郎らと挟撃するのよ!!!!」
「「「「応!!!!!!」」」」
「無事に新屋形様らは、内藤殿の旗も見えまする!!新屋形様と亀鶴丸様は落ち伸びられたようですな!!!!」
ーーーーー陶隆護ーーーーー
大寧寺を大友に取り囲まれているようだ!!急がねば御屋形様が討ち取られる。
「何としても御屋形様を討ち取らせぬぞ!!!!一気に大寧寺へとなだれ込む!!!!馬廻衆よ!!!!俺のことは良い!!前へ出ろ!!!!!」
「「「「「「「「「応!!!!!!!!」」」」」」」」」
さすが、馬廻衆だ。五助を先頭に魚鱗を形成し、一直線の道を作る。敵もあまりに急な出来事に理解が追いつけないようだ。そもそのはずだろう。一方的に蹂躙してたものが、蹂躙される側に回るのだから。
よしっ!!道が開けた!!!!
「未だ!!!雪崩こめぇい!!!!」
あの庭で、返り血を浴びているのが、御屋形様か!!!
「500人着いてまいれ!!!!あとは、入ってくる敵を抑えよ!!!!門の指揮は、鷹に任せたぞ!!!!」
「ははっ!!!鼠1匹通しませぬ!!!!!」
「藤三郎殿!!!!!」
さすがはバーサーカー隆豊さんだ。死体の山を作っている。
「この期を逃してはならぬぞ!!!!!今度はこっちの番じゃ!!!皆、切り伏せよ!!!!!!」
え〜全然お公家さんじゃないじゃん!!武将じゃん!!!!見直したよ、御屋形様怖えーに能力値見直してもらお???
「よう戻ったぞ、藤三郎!!!!!」
「御屋形様の危機とお聞きしまして!!!」
「本当は、腹の中の子と奥が心配で気が気でなく飛ばしたというところであろう?相良姫の寵愛っぷりは、山口でもよく耳にするわい!!!!」
「、、、、。」
「そう、いじけるでない!!まずはここを脱す事じゃ!!!」




