82話、いざ玉祖(たまのお)へ
ーーーーー天文二十四年六月五日・周防国・大崎郡ーーーーー
「前方、弾正忠様の兵と三好勢が争っております!!弾正忠様、寡兵ながらも劣勢ならず!!」
よしっ!そのまま敵を足止めしてくれ!!!!
「大祖父上様が敵を足止めしてくれておる!!この間に新屋形様をお救いするぞ!!!」
「応!!!」
じいちゃんの踏ん張りのおかげで周防国一宮・玉祖神社には、敵が寄り付いていない。
「陶兵衛少尉隆護である!!新屋形様をお救いに参った!!!」
「隆護か!!」
「おぉ重輔!?お前が、新屋形様に付き添っていたのか!」
「あぁ、しかし、隆護遅いでは無いか!!」
なんでこいつこんな時に、笑顔で軽いジョーク飛ばせるんだよ。
「うるさい。新屋形様は、神殿の中か?」
「藤三郎、亀童はここじゃ。」
「新屋形様!!ご無事で何よりでこざいまする!!」
「あぁ。弾正忠のお陰でなんともない。そして弟、亀鶴もな。」
亀鶴?あぁ、亀鶴丸様か。御屋形様と、じいちゃんの娘門田殿の子だ。俺より後に生まれてるってことは門田殿も、母より同い年くらいかもっと若いだろ?じいちゃんどんだけ頑張って、、、今はそれどころじゃない!!!
「藤三郎、お前は今から父上の元へ参るのであろう。であれば、五百程兵を貸してくれ。大内嫡子が出陣したとなれば、こちら方の士気も上がろう?」
この子、たしか九歳だろ?もう自分の存在価値に気づいてやがるのか。
「なりませぬ。」
「何を吐かすか、藤三郎!!主命であるぞ!!!」
「御屋形様が、新屋形様と、亀鶴丸様を玉祖神社までお逃がしになり、ただでさえ少ない防長の兵を分け、さらに大内が誇る名将、我が大祖父弾正忠を付けられた意味を考えなされ。聡明な新屋形様なら分かりましょう?」
「、、、。大内のお家を残すため、、であるな?」
「ご名答にございます。ここには、次期御大内当主とその御令弟様がおられます。大内の血は、決して途絶えさせてはなりませぬ。新屋形様は、何としても生きるのです。」
「分かった。そなたの諫言、身に染みたぞ。」
「藤三郎は、新屋形様にいつなん時も忠節を尽くしまする。」
「そして、重輔。」
「なんだ?」
「俺の五百と家中から井上弥左衛門、武田源太郎を預ける。新屋形様と、亀鶴丸様、それと公卿共をお連れして月山富田城に。詳しい話は、弥左衛門と源太郎に聞いてくれ。俺は、御屋形様の元へ行く。」
「任せろ!!杉家百騎!!聞いたか!?我らは、月山富田城まで落ち延びる!!!新屋形様とその御令弟をお守りするのだ!!!!すぐに出立する!!!準備をせい!!!!」
「「「「「応!!!!!!」」」」」
「隆護、武運を!!」
「お前こそ、新屋形様を頼む!!!」
「この戦が終わったら、お前の子を抱かせろ!」
「考えておく。弥左、源太郎、重輔に従え。」
「「ははっ!」」
「では、皆、手筈通り、大寧寺まで飛ばすぞ!!!」
「応!!!!」
しかしその前にすべきことがある。
「大おじい様!!」
「藤三郎か!?ん?あの兵は、、、。そうか。新屋形様と亀鶴丸様は、出雲へ落ち延びられたか。」
「その通りにございます。そして、神門川城は、我が家臣が六百ほどで守りますが、それだけでは、万の兵を相手取るには心もとありませぬ。」
「神門川城は、堅城と聞くが、六百で守れる規模では無いのか。」
「その通りにございます。ですので、二千を神門川城へ入れてくれませぬか?」
「分かった。残りの千は、藤三郎と共に婿殿の兵に加わるか、御屋形様の元へ参るかと言ったところか。」
「後者にございます。」
「うむ、それがよかろう。しかし、藤三郎。奥が子をなしたとな。」
お前もそれを言ってくるのかよ。今じゃないだろ今じゃ。
「はい。」
「舞殿にお会いしたが産気でお辛そうじゃ。この戦が終われば労うが良い。」
もう会ってんのかよ。
「無論にございます。」
「しかし、この儂に曾孫だけでなく玄孫までできるとは。長生きはするものじゃな。」
「いつまでも、この大内領と、私たち家族をお守りくだされ。」
「ふぉっふぉふぉ、若い者が隠居に期待するでないぞ。」
こうして、じいちゃんの千を吸収して二千で御屋形様の元へ駆けつけることとなった。




