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80話、半蔵の旅路②





いつか殿より教えていただいた唐の歌がある。この景色、この情景まさにあの歌通りだ。



空山人を見ず

唯人語の響くのを聞くのみ

返景、、、




ん?人語の響く?この山我ら以外に人はおらぬはずだ。村人にも入らぬようにと申しておる。



「頭、、、。」


「あぁ、皆も気付いておるな。どうやら敵は妖の類では無いようじゃ。皆は棒手裏剣で敵を陽動せよ。政蔵と儂で仕込杖で脚を斬る。生け捕りにするぞ。」


「「「御意。」」」


やはり、何かいる。しかし、妖ではないと分かると、どうも安心する自分がおる。






ん?どうやら寝床があるな。


肉や酒が散らかっている。


ん?女が横たわっている。村人が言っていた連れ去られた女か。腹から血が流れている。無惨なものだ。


「頭、この女息がありますぞ。」


「そうか、とりあえず薬と水を。源蔵、主の荘束を着せてやれ。」




どうやら、女の意識が戻ったようだ。酷い暴行を受けたようで、酷く脅えている。



「怖かったであろう。だが、安心なされよ。拙僧らが来たからにはもう大丈夫じゃ。」


「お、お坊様?」


「そうにござる。拙僧らは村の民より頼まれこの山の妖を払いに参った旅の僧にございます。このような時に申し訳ござらぬが、他の娘と妖の行方は分からぬか?」


「私が抵抗いたしましたら腹を斬られました、、、妖は、、、あっちの方へ進んでいきました、、、、。他の連れ去られた子達もあちらの方に、、。」


「貴女は、勇気あるお人じゃ。最縁、このお方を連れて山を降りよ。」


「承知いたしました。では、拙僧の背中に。」


倒れていた娘を山より降ろす。





「肉を見るにまだそう遠くに行っておらぬ。あの娘が言うには妖もどきは西へとすすんだようだな。よし、皆の衆山を進むぞ。」


「「「御意!!」」」




ーーーーーーーーーー


ん?地に何か張っている。


「鳴子だな。妖もどきは猿並に警戒心が強いようじゃ。どれ試しに鳴らしてみようか。」


カランッカランッ



「何やつじゃ!!」


「ほう、妖は人語を話すか。拙僧らは、天台宗の僧侶その方を討伐しに参った。」


どうやらこの声の主が妖もどきか。遠目からだが、確かに棒を持っているようだ。しかし、槍ではなく長巻のようだ。背丈は一間はある。これは確かに妖に見える。



「僧侶などにこの斉天大聖を敗れるか!!」


確かに孫悟空のようだ。粗末な甲冑を身に纏い、精巧な猿面を被っている。


「陽。」


手下達が手筈通り、手裏剣を投げつける。猿男も避けるのに精一杯のようだな。しかし、忍が投げた手裏剣を避けるとはなかなかの者だ。こやつも我らと同じ類か?


「政蔵、参るぞ。」


「はっ。」


!その体勢でよく2人の仕込杖を受けることができるな。


「主ら、伊賀者か。」


「その構え、元は六角に雇われておった甲賀忍じゃな?」


「一対多では分が悪い。更に皆、手練のようじゃ。儂は、谷津主水。主の申す通り甲賀の抜け忍じゃ。」


「谷津主水、、、よく聞いた名じゃな。忍働きより槍働きが得意であったとか聞いたことがある。」


「しかし、六角もどこの家の者も我ら草の者を人とも思わん。ならば野伏にでもなって、里を抜けようと思ったのよ。」


「働き口がないのならば、我が殿に使えよ。」


「殿とな。草の者ごときが、そのようなこと抜かすな。いつなんときも忍は忍。侍は侍じゃ。」


「それが我が殿は、おかしきお方でな。儂らのような草の者にも気を使って下さる。」


「ん?伊賀の千賀地が一族を連れ、周防の陶に仕えたと聞いたが、もしやその方千賀地半蔵か?」


「いかにも。」


「伊賀三忍の1人にこうして会えるとは。面白い。娘らはそこに寝ておる。」


「殺しておらぬのか?」


「ただ股を拝借しただけよ。背負って山を降りよ。前々から陶が気になっておった。ほとぼりが冷めたらその陶尾張守の元へ連れて行け。儂はこの山で主らを待つ。」


「殿の元へ、主を連れて参るのは良いのだが、我が主は尾張守様では無いぞ。」


「どうゆう事だ?陶の当主は尾張守であろう?」


「そうだ。だが、儂らの殿は、ご嫡男の陶兵衛少尉様だ。」


「なんと!益々面白い。はよう娘らを返せ。その兵衛少尉とやらに会ってやろうではないか!!」


猿面の中からほくそ笑んでいるのがよく分かるな。

谷津主水なんて出自不明なんだからこの際甲賀忍ということで!

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