68話、上戸!
ーーーーー山科邸ーーーーー
「陶兵衛少尉にござる!当家家中小笠原太郎左衛門尉がお屋敷におられると思うのだが!?」
俺の呼びかけに応じ、下人が中から顔を出した。
「確かに、小笠原様は屋敷におられます。しかし、、、。」
「しかし何にございましょう?」
「主の、昼酌に小笠原様が付き合わされておりまして、、、。」
チュウシャク?なんだそれ。あ、昼から酒を飲んでるってこと?
「だろうと思いましたぞ。山科卿は上戸と聞きますからな。」
「おふたりが酒を飲んでいる部屋にお連れしますのでお待ちくだされ。」
山科言継の許しが出たようで山科邸に上がらせてもらう。
「あぁ、後ろに続くのは我が家臣武田源太郎にございます。源太郎も上がらせてよいですか?」
「主ならば、是非にと申されるはずです。源太郎殿、お上がりくだされ。」
「忝なく。」
他の羽林家や半家の公家とは違い手入れ行き届いている。だがなんか匂いが違う。うん、なんか違う。屋敷の隅々にアルコールの匂いが染み付いている。
「小笠原殿、もっと飲まれぇい!遠慮なさるでない。」
大きな声が聞こえる。耐えろ太郎左衛門尉!!
「内蔵頭様、陶兵衛少尉様と、そのご郎党武田源太郎殿にございます。」
「お通しせよ。」
「ははっ!」
部屋へと入ると40代ほどの赤ら顔の公家さんが太郎左衛門尉に酒を飲ませていた。
「これは、陶兵衛少尉殿遠路はるばるよくぞお越しになられた。山科内蔵頭にござる。」
この人も、関白と同じで公家言葉を話さないのか。まるでワンピースの天竜人みたいだな。
「山科内蔵頭様、お初にお目にかかります。陶兵衛少尉にございます。」
「たかが羽林家にそんな敬意を払われますな。名こそ流れておりますから。」
「山科言継の名はなほ聞こえておりますがな。」
「おぉ、兵衛少尉殿は大和歌に明るいと見える。」
「我が主、大内兵部卿の受け売りでございます。」
「大内兵部卿殿の。大内殿と言えば、朝廷に献金なさるとか。なんとも有り難きことにございます。」
そうか、この人は朝廷の再興のためにその脚を動かしてきたのだったな。
「内蔵頭様、兵部卿は朝臣として当然のことをした迄にございます。」
「なんの、帝を重んじてくださるそのお心持ちがこの言継は感動にございますよ。」
酒を煽りながら涙を流している。忙しい人だな。
「この屋敷には酒しか御座いませぬが、兵衛少尉殿も呑まれなされや。そちらの御仁も。武田殿と申したかな?」
「殿、、?」
「よい、頂こう。」
「この酒は、出雲より運ばれた酒にございましてな。良い米、良い水を使っておるようじゃ。酒が透き通っており誠の美酒にございます。ささ呑まれよ。」
「有難く。」
じゃあ、酒を注ごうか。
「あぁ、お客人に酒を注がすなど京都人の恥にございます。お注ぎしますぞ。」
「山科卿から酒を注いで頂けるとは!」
山科言継が、俺と源太郎の猪口に酒を注ぐ。
「出雲と言えば、大内殿のご所領であったな。となれば、出雲この酒を作っておるのは大内殿家中ということにございますか?お会いしてみたい。」
「この兵衛少尉にございます。」
「おぉ、兵衛少尉殿にございますか。納得じゃ!これほどの美酒を感謝しておりますぞ。」
「山科卿にお褒めいただき、職人たちも喜んでおることでしょう。」
それから数時間ほど酒を飲んだが源太郎があまり酒を飲むのを見ない。
「おぉ、源太郎殿遠慮なされるなよ?」
「は、はあ」
源太郎気が進まないのか?
「申し訳ありませぬ、源太郎は長らく仏門に帰依しておりました故、下戸にございます。」
「おぉ、そうでござったかそれは失礼致した。」
「そして、山科卿、我らは明後日には、公方様を尋ねねばなりませぬ。今宵はこれでお暇させていただきとうございます。」
「相わかりった。公方によろしくお伝えくだされ。誰か、兵衛少尉御一行を東福寺までご案内せよ。小笠原殿はおぶって差しあげい。」
「ははっ。」
「そこまでして頂かなくともようございますのに。」
「いやいや、寂しいじいの酒呑みに付き合って下さったお礼にございますよ。」
「有難く。」




