66話、船
船?なんのこと?
未来の笹の才蔵を得て、鹿之助が胤栄に十文字槍の手解きを受けている間に恵心から東福寺を大内義隆宿所にすることの許可をもらった。
ーーーーー天文二十四年五月十八日ーーーーー
「次は公家への献金か。」
「公家とはまた骨が折れますな。」
「そう言うなじい。これも御屋形様より俺たちに任せられた任だ。」
「でございますな。」
「どなたの家から伺うべきかな。」
「まずは関白の近衛前嗣様にございましょう。その次に五摂家でしょう。」
「だな。近衛様には金500。他の五摂家にも同額で良いか?」
「ようございます。」
「他に清華家には400、大臣家には300、羽林家には200、名家・半家には、金100に加え銀50でどうか。」
「良き考えかと。」
「では、俺、じい、そして小笠原支流の太郎左衛門尉で手分けするぞ。」
「「ははっ」」
ーーーーー近衛邸ーーーーー
というわけで関白近衛前嗣の元へ訪れた。
応仁の乱で荒廃したと言えどさすがは摂家であり関白の寝殿だ。ほかの公家の邸宅とは違い、厳かな邸宅だ。
「大内兵部卿家人、陶兵衛少尉にございまする。」
「大内兵部卿様の御家人にございますな。お待ちしておりました。当主前嗣の自室へとご案内いたします。」
近衛家の下人と思しき者に連れられ、前嗣の部屋に案内される。
「では、兵衛少尉様、こちらでお待ちください。」
数分待っていると、前嗣らしき人物が入ってきた。公家と言えば貧弱なイメージがあるがこの人は意外とそんなことも無い。
「面を上げよ。」
「ははっ。」
「大内さんの家臣とな。陶と言えば、尾張守の倅か?」
「その通りにございます。陶尾張守が嫡子、陶兵衛少尉にございまする。」
「そうか、そうか。大内さん、土佐の一条さんのところの猶子を失って以来伏せぎがちだったのが、宿敵尼子を滅ぼしたと聞いたが、主のような者がおったからなのじゃな。」
「兵部卿様のお力にございます。」
いや、そんなことは無い。尼子攻めは俺なくしてはなしえなかっただろう!はっはっはー公家のくせによく分かってるじゃないか。それにさすが人生の半分を流浪に費やした人だ。地方のことにも明るいようだ。なんか公家らしさがない。京都弁じゃないからか?嫌味っぽくないからか?
「いやいや、十騎駆け藤三郎の名は儂の耳にも入っておるぞ。」
「殿下のお耳に入っているとは、勿体なき幸せにございます。」
「主と大内さんがよければ、侍として当家に迎え入れたいものじゃ。」
「有り難きお言葉ですが、私兵部卿様の御子息との約束がございますゆえ。」
「ほう、約束とな。どのような約束か?話してみよ。もちろん密約ならば良いが。」
「ははっ。天竺より西の国をお見せすると、約束しております。」
「天竺より西に国があるのか?」
「殿下は鳥銃はご存知でしょうか?」
「うむ、南蛮よりもたらされた火矢であろう。」
「その通りにございます。南蛮と言えど、阿蘭陀、葡萄牙、西班牙など、たくさんの国がございます。」
「南蛮は、ひとつの国ではなかったのか。」
「その通りにございます。そして、南蛮は天竺よりさらに西にございます。」
「なんと!南蛮は、琉球の南にあるものと思っておったが違うのじゃな。」
「琉球の南にあるのは、南蛮の植民地、つまり属国にございます。」
「宋から見た朝鮮のようなものか。」
この人飲み込みが早いな。
「その通りにございます。そして、一部の南蛮人はこの日ノ本をも属国にと狙っておるのです。」
「誠か!」
「残念ながら、、。」
「そうか。兵衛少尉、良き話を聞かせてもらった。」
「ははっ。あ、殿下、兵部卿様からにございます。」
「かたじけない。そうじゃ、おもしろき話の礼じゃ。誰か、長光を持ってまいれ。」
ナガミツ?
「殿下、やめておいた方が、、、。」
「よい。持ってまいれ。」
下人が、持ってきたのは一振の太刀だった。
「この家の蔵に置いておいても無用の長物でな。これを主に進ぜよう。」
「ナガミツ、、、長光とはあの名刀長船長光にございますか!?」
「そうじゃが、不満か?」
「いえ、しかし私のようなものが、、」
「よい。蔵で眠らせておくより主のような若武者に持たせた方がこの長光も喜ぼう。しかし、折るでないぞ。」
「気をつけまする。」
「はっはっはっ。気をつけい。」
銘刀長船長光を受け取ってしまった、、、。金500なんかよりというか国一国分位の価値があるんじゃないの?
近衛さんが藤三郎の話をここまで気に入ったってことにしといてください^^;




