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106話、武田源太郎日記〜筑後行脚編〜


天正二四年九月、高橋殿の元へ使いとして参ったことを記す。


されども我が殿は御人使いが荒い。そもそも、十五万石の下蒲池家を殿が、落とせなかったのが要因じゃ。さらに私は一介の僧侶であった故に、刀など扱えぬ。その私に、才蔵のみを共としてつけるか。五助殿でも弥左衛門殿でも良い。じゃが童1人はないであろう。殿御自ら、刀を持っていただいてもよい。



まぁ、武田当主といえども大内兵部卿様の陪臣であり、武田旧臣どもも毛利殿の元に居座ると言う。さらに、武田前当主若狭家より入られた刑部殿は公方様の御供衆じゃ。



一応、殿より封地はいただいておるが、殿の意向で私たち陶家臣は出雲の屋敷に住む。我が領地は高杉小四郎春時に一任しておる。小四郎は安芸武田の流れを汲む者で、僧侶時代より親交があった者であるから信任がおける。刑部殿の元にも、仕送りは欠かせぬ。ご縁はいつ使えるかわからぬからな。それにしても殿のおわす通りに米を植えたら従来の数倍の収穫となったと小四郎驚いておったな。



殿への愚痴が多くなったが、才蔵には助けられた。山賊に身を襲われそうになってな。袈裟で各国を遊行してた時は、このようなことはほとんどなかったが、今は還俗者。身を守らねばならない。そこで光ったのが才蔵の槍じゃ。殿のご采配は見事であったかもしれん。数名の山賊に囲まれた私たちであったが、才蔵は的確に相手の眉間、喉元を突き伏せていった。かの者はいずれ大人物になるやもしれぬな。才蔵に


「いい腕前じゃな。」


と申すと


「まだまだにございます」


と謙遜しよった。いや槍働きも楽にできていない、わっぱがこれだけの敵相手に槍で突き伏せるのは謙遜する必要もない。



礼にも及ばぬかも知れぬが、戦場で笹の葉を持っていくよう助言をしておいた。才蔵ほどの腕前であれば本陣に持ち帰れるほどの首を取ろう。そのため敵将に酒の代わりに笹を口に含ませるのじゃ、とな。


才蔵が納得したような顔をしておった。





ーーーーー天正二四年九月中頃高橋城ーーーーー




「ほう、武田菱。その方武田の者か。」


「安芸武田家十一代にて陶出雲介が郎党、武田源太郎にございまする。後ろに控えるのは槍の名手可児才蔵にござる。」


「源太郎殿、才蔵殿ようお越しになられた。が、聞きたいことがある。」


「お答えいたしましょう。」


「出雲介殿自ら出迎かれぬとは、大内は高橋を舐めておるのか?」


「何を申しましょうか。私は安芸武田十一代としてしておりまする。前の書状をご覧あれ。」


高橋鑑種が書状を広げる。


「ほう、大内臣下の者となっておるな。されども、筑後国全権の使者は相良遠江殿と聞く。であれば相良殿か、少なくとも婿の出雲介殿が出向くべきであろう?」


「なぜその必要がありましょうや。」


「たわけ!!!蒲池の元には、大内の使いとして、相良、陶、尼子が向かったのは存じておる!!!」


「武田では不足にございましたかな?」


「五月蝿いわ!!!破談じゃ!!!我が高橋は大友様の元へ!!!」


「良いのですかな?」


「何がじゃ!?」


高橋鑑種は怒りとおす。それとそのはずだ。この源太郎の態度人を小馬鹿にしているような有様である。


「大友は一萬田を滅ぼすおつもりとか。その挙げ句、大友新太郎殿は一萬田を滅ぼした暁に、絶世の美姫と謳われる当主の室を妾にする考えてとききますな。」


「それを誰から聞いた。」


「高橋殿に書状を届けた小童がおりましたな。あやつは陶家の密偵にございまして、豊後も探らせておりましてございます。其の時分に、新太郎殿の小姓より耳に入れた確かな情報とか。それにこちらの句も。」



"驕る身を 討ちて静けき 庭に据う

君の残せし 花を手折らん"



「こ、これは!まさしく新太郎様の字じゃ、、!!己、新太郎め矢張り兄上の首を狙ってあったか!!あいわかった!!!これより高橋は大内様の軍門に降る!!兄上にも期に乗じて叛乱をおすすめいたそうぞ!!!」


「それはようございます。されどもこの件はどうか内密に。兵を集める口実は、蒲池近江の誘いに乗じてとのことでよろしいでしょう。我が陶は杉殿の元より、筑後に入る手筈にございます。その際は共闘にございますな。」


「わかっておる。されどわしに一つ考えがある。源太郎殿、耳を。」


源太郎が高橋鑑種に耳を貸す。


「おぉ、その件は高橋殿にお任せいたしますぞ。我が主陶出雲介も喜びでしょう。大内兵部卿様の覚えもめでたくなりましょうな。」


才蔵は完全に上の空である。






「では、武田源太郎はこれより主君の元に。才蔵起きよ。行くぞ。」


「あっ、!畏まりました!!お話がまとまったようで、高橋様、ご武運を!!」


「わしが放った家臣よりその方のやりの腕前は聞いた。励が良い。」


「え?」


「源太郎殿も気づいておろうからまぁ良いか。その方ら山賊におそわれたであろう?あの辺はもう我らの領地でな。されども神出鬼没故に、なかなか手をつけれぬでいた。そこで家臣の者に探らせておったら、才蔵と言ったか?主が組み伏せたということよ。」


「と、とにかく褒めていただきありがたき幸せにございます!!以後励みまする!!」


「うむ。その方こそ武運をいのる。」



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