104話、義
風呂はいい。でも湯船ってないんだよな。
この時代の風呂といえば蒸し風呂と言われるサウナのようなものだ。サウナは嫌いではないが久しぶりに湯船に浸かりたい。
「出雲介様、蒸し加減はいかがにござろうか?」
「ちょうどよい。しかしながら長子殿直々に、蒸し加減を調節いただけるとは。ありがたく。」
「庶子にございまするから。左馬大夫は蒲池の郎党にございます。」
「されども弟君とは歳が離れ左馬殿はもう元服をされておる。さらに名兵法家蒲池近江殿の長子。そしてなにより、その方良い体躯をしておる。」
「お、お望みなれば!朝まで共にいたしまする!」
え?なんか勘違いされてる?
「此度、出雲様や遠江殿が鎮西にお越しになられたのも、大友様の討伐にございましょう!!さすれでもどうか!どうか!我らが蒲池の家だけは!そして弟の命だけはご堪忍くださいまし!!この蒲池左馬の操、御前に捧げまする!!」
元服したてだろうな。覚悟は伝わった。しかし、俺は衆道は好まないのだがな。
「左馬殿、何か勘違いしておるようだが、別にその方を手籠にしようとは思わぬよ。俺は衆道は好まん。それに他人に手でも出せば奥が怒る。舅も今同じ屋敷におるわけじゃしな。その方の体躯を誉めたのも勇士としてじゃ。良き将になる。」
「は、ははっ!茶を汲んでおりまする!!」
「ははは、湯上がりにありがたく頂こうか。とりあえず、背中を流しておくれ。」
「お安いご用にございまする!!」
ん?冷たい茶だ。なぜだ?
「左馬殿、茶が冷たいがなぜだ?」
「風呂上がりにございますれば、冷たき茶がお口に合う方思いまして。」
「ほう、その視点見事じゃ!さすがは蒲池の長子よ!!」
気がきく男だな。陶の家臣にも見習ってほしい。有能なやつは多いが気が利く男はいないからな。強いていえば井上弥左衛門くらいか?いや、弥左衛門は気が使えるとはまた違うか。
「婿殿、あがられたか。本題じゃ。身を整えて広間に来られよ。」
「かしこまりました、父上。」
「尾張様、、。」
「なに、今すぐに戦が始まるわけでもない。それに蒲池殿は、時流を見る目がおありであろう?」
「、、、。」
「近江殿、お話がござる。」
「はて?話しとは何にございましょうか?」
「まずは、大内介様、前関白様のご消息にござる。」
「前関白様の?以前にも送られてきたが?肥後守護様への挨拶にて我領内の通行を許すようにという事であろう?」
「気づいておろう?」
「何じゃろうな?」
「とぼけられ申すな!!我ら大内は大友討伐軍を編成す!!すでに筑前の国人宗像殿と宇都宮殿はこちら方じゃ!肥後守護相良様は、そこの相良尾張の本流!!さらにの龍造寺殿は大友と長い間争っておりこちら方につくじゃろう。その方らは袋のネズミよ!!こちら方につけば、本領安堵、さらに領地は切り取り次第じゃ!!どうじゃ?大友は捨てて我方につかぬか?」
「左衛門大夫!控えよ!!」
「しかし藤三郎殿!!」
「どうなさいますか?しかし、そこの左衛門大夫が申すことも一利ありますな。後ろの熊が巣穴から出てくるのですよ?いかがなさる。」
「筑後守護様の代に我が父は謀反を起こしておる。我が蒲池は一族斬首のところを先代様はお許しになられ、私を大身に取り立てて下さった。いまでは筑後国筆頭じゃ。さすればこの蒲池近江守、大友家臣として義を果たすのみ!!遠江殿、並びに出雲介殿、左衛門大夫殿。我蒲池は大内家と大友家の戦の際は、大友方につきまする!!!大内公卿様にお伝えくだされ!!!!!」
「であれば!!」
「いかがなされた?」
「名門蒲池一族の本流がここで途絶えるのも面白くない。左馬を陶家の家臣として迎え入れたい。我方が勝てば蒲池左馬大夫家として蒲池の家は残るし、我方が敗れてもその方の家は続く。どうか?」
「、、、、。」
「父上!どうか、左馬を出雲介様の元に!!」
「、、、。好きにせい。」
「ありがたき幸せにございまする!!」
「、、。」
「左馬、これから肥前へ向かうが父君に挨拶はは良いのか?」
「問題ありませぬよ。父は敵方。無闇に口をきくことまでありませぬ。」
「だが、柳川の地を離れるのだぞ?」
「この左馬は蒲池の庶子でなく、陶家郎党蒲池左馬大夫にございまする。柳川の地に未練はございませぬよ。」
「そうか、、。」
「鎮久!!次会う時は我らは敵同士!!遠慮せず我城に攻め寄せよ!!その方を息子ではなく、、、、敵将蒲池左馬としてその方の首を狙う!!!!」
「蒲池近江殿!!とくとご覧あれ!!!」




