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高嶺の花なんかじゃないんだからねっ!  作者: 日々一陽
結び ~エピローグ~
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エピローグ

 結び ~エピローグ~



 1年後。

 ツインフェアリーズは連日大繁盛していた。

 いま、店の主人あるじは僕でもなければ父でもない。


「いらっしゃいませっ!」


 入ってきた男性客に明るい笑顔を向ける母。

 赤毛のボブは肩まで伸びた。

 以前感じたどこか疲れた印象も綺麗さっぱり消え失せた。


「もみじ、案内宜しくね」

「はい、お母さん!」


 僕はカウンターに立ち、コーヒーを立てながら母に語りかける。


「もう一年経つんだね」

「ええ、早いものね」


 一年前、ロボコンでのあの出来事は「おめんこ・おなた事件」として一瞬の内に日本中を、いや世界中を駆け巡った。

 そして、その衝撃の出来事からたったの6時間後、総理大臣・朝風明希は緊急の記者会見を開く。詰めかけた記者たちと無数のフラッシュの中で朝風総理は堂々胸を張った。


「わたくし、朝風明希は2週間後に予定されている党の総裁選挙に出馬いたしません」


 ある程度予想された内容だったのか、整然と質問の手を挙げる記者たちに、しかし朝風総理は深くこうべを垂れて思いも寄らぬ爆弾発言、いや懺悔を行った。


「また、わたくし、朝風明希は今までの公表事項に詐称さしょうがあった事実をここに発表し、その責を取り次期総裁決定後速やかに議員を辞職いたします」


 記者たちのざわめきが広がる。

 詐称。


 彼女は学歴も職歴もそしてその出生にも何ひとつウソはついていなかった。しかし彼女は自分の家族についてウソをついていたのだ。


 ひとつに自分の子供はひとりである、と言うウソ。

 そしてもうひとつ、自分は未婚である、と言うウソ。


 そう、それは朝風明希もその日まで知らなかったことなのだが、彼女は赤月昭一と立派に結婚していたのだ。


 父曰く。


「いやあ、あれは父さんが悪くってさ。明希ちゃんが急転直下地元から出馬して議員になって、僕に政府プロジェクトでスパイロボットの開発をしてくれ、なんて言うから大喧嘩しちゃって離婚届まで作ったんだけど。でもさ、僕それ、預かったまま出してなかったんだよ。明希ちゃんは知らなかったみたいだけどね。てへぺろっ!」


 何ともお気楽な父である。

 しかし、いずれにしてもあの事件で「婚歴詐称」が明るみに出るのは時間の問題だった。


 勿論、こんな詐称の何処が悪い、と開き直るのは簡単だ。世の中もっと悪質なことをしても平然としているやからはゴマンも六万も7万もいる。そう考えると彼女の行動はバカ正直、というか良心的にもほどがある。

 けれども会見を開いた朝風明希はサバサバとして、いや、笑顔さえ浮かべていた。


 結局「おめんこ・おなた事件」からたったの1ヶ月で政治生命を完全に失った朝風明希はツインフェアリーズで身を立てて、余った時間で絵本を描き始めた。


「お母さん、こちら××出版の方だそうです」

「いらっしゃいませ」


 もみじがカウンターに案内してきた中年男性は。母に自伝を書いてくれと執拗に迫る。


「絶対売れますよ! ねえ、お願いしますよ!」


 が、母はけんもほろろに。


「申し訳ありません。その件は全てのオファーをお断りしてますので」


 あの事件の前、朝風総理の支持率は前代未聞の92%だった。しかし、緊急記者会見の後行われた支持率調査でその支持率は驚異の96%にまで跳ね上がったのだ。

 それは彼女の潔さが好感を持って受け入れたれたこともあるが、もうひとつ、記者会見の場にもみじと僕と、そしてさくらさんがいたからだ、と言われている。


 なにせもみじは若くて可愛いくて綺麗で、しかも母にそっくりだ。

 そうして僕の横にはさくらさんが座った。しかも朝風明希は彼女を「息子の恋人」と紹介したのだ。今思えば、この記者会見のお陰で僕もさくらさんもその後一切の捜査を受けることはなかった。母は僕らに降りかかるであろう火の粉や疑惑を全て引退と道連れに洗い流したのだ。


 加えるに、この会見は思いも寄らぬ効果も生んだ。


「ねえ、お願いしますよ! せめて昨今の結婚ラッシュとベビーブームについて取材させてくださいよ」

「取材はお断りしますが、わたしは満足しています」


 150年以上、誰も止められなかった人口減少、それが今年は増加に転じると言われている。

 支持率96%で政界を去った朝風明希。時の人になった彼女の家庭は誰もが羨むものだった。聡明で綺麗な妻に著名なロボット研究者である夫、可愛い娘に、美貌の恋人を捕まえた息子。しかもその恋人は元・政敵の娘ときたもんで、僕とさくらさんは「ハッピーエンドのロミオとジュリエット」とまで祭り上げられる始末。その報道は過熱する一方で気がつくと結婚ラッシュとベビーブームが巻き起こっていたのだ。まったく世の中、何がどう転ぶか分からない。


 父は先月東京の大学に移り、一緒に生活を始めた。

 あの国外追放は何だったのか?


 男女の仲というのは他人には、例えそれが息子や娘であっても全く理解できないもので。両親はお出かけとお帰り、一日二回は熱いキスを交わし、僕ともみじは見ているだけで赤面してしまう。


「お母さんはお父さんが研究の第一線を離れて喫茶店のマスターになったのは、自分が政府御用達のスパイロボット研究を強要したからだってずっと責任を感じていたらしいのよ。それがある日、お父さんが自分そっくりのアンドロイド・晶子ちゃんを溺愛していると知ってあの強硬手段を思いついたらしいわね」

「アンドロイドに嫉妬したんじゃないの?」

「それもあるでしょうね。ロボットじゃなくてわたしをでなさいよ、みたいな?」


 ちなみに晶子ちゃんは今、父の大学で助手を務めている。


「オカアサン、オヒルゴハン出来ましたよ~っ」


 聖佳は今、我が家の「メイドさん」をしている。

 これがなかなか困ったメイドで、自分をさくらさんの「妹」だと思い込んでいるのだ。

 だから鳥海翔一郎氏が奥さんの元に戻って、さくらさんも一緒に家族旅行に行くことになったとき「ワタシも行きます」ってついて行きやがった。作ったのは僕だぞ、聖佳!


 ちなみにさくらさんのお母さんは「夫婦同姓」を選択していたとかで、さくらさんの本当の姓は二畳院ではなく鳥海だった。しかし、あの「おっぱいスキャンダル」のために学校を変えて姓も母方の二畳院を名乗っていたと言う。


 さて、そのさくらさん。モデルにスカウトされてとんでもない売れっ子になった。

 勿論あの記者会見や鳥海元議員の娘であると言う話題性が後押しした一面もあるけど、そうそうたる一流のモデル陣に囲まれても、逆に圧倒するくらいに美しい、と思う。


 今日もCMの撮影だと言って早朝から出かけた。


「ただいま~っ! うわあ、今日も盛況ですね」

「お帰りなさい。疲れたでしょう? 2階でゆっくりしてね」

「はい、お義母かあさん。着替えたらお手伝いしますね」


 彼女はまだこの家に居候している。

 モデルの仕事でビックリするくらいの報酬を貰っているのに、それは全部故郷の両親に仕送りして金がないらしい。


 ちなみにあれほど恨んでいた母との関係も、今ではすごぶる良好だ。


「ねえ一平さん、ちょっと話があるの。わたしの部屋に来て」


 僕の耳元にそう囁くと、さくらさんは二階へと上がった。



  トントントン



「どうぞ、開いてるわよ」


 ドアを開けると店の制服、ってか、メイド服に着替えたさくらさんが待っていた。

 何度見ても心臓が飛び出しそうになる。


「先日父が議員に返り咲いたでしょ? それでわたし、モデルの仕事は辞めることにしたの」

「えっ、どうして? 勿体ない!」

「だって元々モデルになったのって父の選挙のための売名行為だったでしょ! だからもうお役ご免」


 まただ。

 振り返っても彼女の行動は全てが人のためだった。そう、あの日僕の元を訪ねてくれたのも、そしてあの復讐も。


「それに」


 そんな彼女の切れ長の瞳が一瞬で僕を捕らえる。


「わがまま言ってもいいかしら?」

「もちろん!」

「わたしも一平さんと同じ大学を受けることにした」

「えっ? 高校を出たらご両親の元に戻るって?」

「父がお前の好きにしろって」

「やったあ!」


 喜ぶ僕を上目遣いに見上げるさくらさん、形のいい桜色のくちびるは妙に艶っぽく、手が届かないかずの高嶺の花が、今目の前で可憐な瞳を閉じる。


「んっ…… んんっ!」


「…… 綺麗だよ、さくらさん」

「一応、モデルやってるしね」


「ううん違う。見た目じゃないよ。心がだよ、さくらさんの心が、世界でいちばん綺麗なんだ」




 高嶺の花なんかじゃないんだからねっ!  完




【あとがき】


最後までご愛読いただき、本当にありがとうございました。ちゅっ!。

もしご愛読前にここをお読みの方がおられましたら、ネタバレがありますのでご注意くださいませ。


さて、さくらと一平が復讐を誓うところから始まる物語、舞台は約150年後、人口は既に800万人を切っている日本です。悪いことばかりが強調される人口減少ですが、しかしそれは多分、悪いことばかりではないはずで、何事にも両面ってものがあるはずですしお寿司。世の中には人口減少に関する本ってのも結構出ているようで、その多くは経済的観点、即ちお金を単位に善し悪しが語られているようです。しかしその視点だけでは語りきれない側面もある気がします。


ともあれ、人口激減で「小国」になった日本ですが、さすがに総理大臣は偉いわけです。その総理に真っ向から対峙する高校生ふたりの物語。悪のラスボスとして登場した総理に対して最後皆さんはどんな感想をお持ちいただいたでしょうか。もしかしたら「こんな展開あり得ないんじぇねえの!」とお怒りの方もおいでかも知れません。しかし一応言い訳しておきますと、この話はラストが先にあって作った物語ですので、成り行きでこうなった訳じゃなくって、そんな話なんです。ええ、予定通りです。はい予定通りなんです、てへぺろっ。


ただまあ、がっちり固めて書いた話ではないので、かなりいい加減な展開もあったでしょうし回収してない伏線もたくさんあるかも知れません。その辺はホント申し訳なく。ごめんなさい。


いずれにしてもさくらと一平、物語の中のふたりの人生はまだまだこれからです。

5年後、10年後、そしてもっと先、ふたりはどうなっているのでしょう? しかしそれは作者の僕にも分かりません。ぜひお読み戴いた皆さまの頭の中でふたりの将来を思い描いて戴ければ作者としてこれに勝る幸せはありません。


 最後になりましたが、ブクマ、感想、評価をいただいた皆様、本当にありがとうございました。そちらに足を向けて寝るようなマネは決していたしません。ええ、本当に。感謝感激でございます。ぺこりんこ。

(……すいません、現在評価はゼロですね。見栄張りました。でももうすぐきっと付くでしょう。きっと、多分…… ねえ、お願いですっ! そこの貴方さまっ!)



さて、宣伝です!

新連載始めました。


『お兄さま、綾名は1億円で嫁ぎます』


借金の形になった15の令嬢と、超絶に貧乏な高校生、結ばれるはずのないふたりが織りなすラブコメです。

本作がラブコメのコメ即ち「コメディ」寄りだとすると、新連載は「ラブ」に寄っているかも知れません。書き手は変わりませんのでタッチは一緒ですけど、ふたりのドキドキが伝わるよう頑張ってます。

本作同様ご愛顧賜れば、作者がパソコンの前でフラメンコを踊ったりしますのでよろしくです。はい。


 では、名残惜しいですが。

 最後までお付き合いいただき本当にありがとうございました。


 作者謹白



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