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高嶺の花なんかじゃないんだからねっ!  作者: 日々一陽
第6章 総理のおでこに落書きを!
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第6章 第8話

◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 さっきまで人で埋め尽くされていたスタンドはガランとして、清掃スタッフがせっせせっせとゴミを集めている。場内のステージも機材もたくさんのスタッフによって手際よく撤去されていく……


 計画は全てうまくいった。

 そう、寸分違わず100%計画通りに!


 あのあと、ひたいのシートを剥がし、最後まで総評を述べた朝風明希。

 さすがは総理だ、仕事を途中で投げ出したりはしない。しかし、それはいつものあの女の熱弁ではなく、手元の原稿を所々間違えながら読むだけと言う体たらくになった。


 一方、朝風明希の優秀な側近は誰が「シミ隠シート」を彼女に貼り付けたのかしっかり覚えていた。

 だから、彼女のスピーチが終わる頃には、僕らを数人の警備員たちが取り囲んだ。


「全てわたしがやりました」


 黒い服を着た側近の男に毅然きぜんと言い放ったさくらさん。


「いいえ、僕がやりました」


 当然さくらさんだけに罪を着せるつもりはない。


「何言ってるのよ一平くん! あなたバカじゃないの! 彼女にシートを付けたのはこのわたしでしょ!」

「指紋を採れば僕のも出てくるよ」

「ばかっ! 何言ってるの! これはわたしの復讐よっ! ええ、鳥海さくら、わたしの復讐なのよっ!」


 想定外の展開だったのか黒服の男は暫く黙っていたが、やがて僕たちをふたりとも連れて行くように警備員に命令する。

 さくらさんも僕も、がっしりした男たちに腕を捕まれる。


 これでいい。

 これが「捨て駒」の宿命なのだ。

 相手は日本の総理大臣、敵に不足はない。

 そしてさくらさん、聖佳、僕たちは見事に仕事をやり遂げたんだ。

 あの女を相手に、僕らは必勝の一手になったんだ。

 満足だ、悔いはない。

 あとは、なるようになる。



 ままよ!



「連れて行け!」


 僕の腕が強く引かれるのを感じたその瞬間だった。



「お待ちなさいっ! その子たちから手を放しなさいっ!」



 予期せぬ声が毅然と命じる。

 それはさっきまで聞いていた声。


「そっ、総理!」

「手を放しなさい! 今回の件は全て私自身でやったこと。その子たちは一切関係ありません!」

「何を仰います。証拠はちゃんと……」

「お黙りなさいっ! わたしの言うことが聞けないのっ!」

「はっ!」


 総理のあまりの剣幕に、側近の男は敬礼し、僕らは解放された。

 が、しかし……


「何言ってるのよ朝風! わたしがやったのよ! さあ捕まえなさいっ! わたしは鳥海さくら! 父の、鳥海翔一郎の恨みを晴らすため、貴女に無茶苦茶にされた家族の恨みを晴らすため、このわたしがやったのよ! ほら動機も十分じゃない! さあ捕まえなさいよっ、わたしを捕まえなさいよっ!」


「あの、総理……」

「この子たちは無関係です。次の予定があります。さあ行きますよ!!」

「しかし総理……」

「黙りなさいっ!」



 結局。


 僕らは何のお咎めもないままここに残った。

 一部始終を見ていた札幌白峰高校の連中も、掛ける言葉がなかったのか、僕らに頭だけ下げて去っていった。


「敵は敵のままで、悪役は悪役のままで、ラスボスはラスボスらしく、最後までそうあって欲しかったのに……」


 もう2時間は経つだろうか。

 俯いたまま椅子に座り込んでいたさくらさん。

 流す涙もれ果てたのか、嗚咽の声も止まっていた。




 ぽろろろろん!




 着信音にスマホを取り出したのはもみじ。

 暫くその画面を見ていた彼女は、さくらさんの肩にそっと触れる。


「あなたの勝ちよ、さくらっち」

「えっ?」


 ようやく顔をあげたさくらさん。

 その目は真っ赤に腫れて、いつもの気高き高嶺の花の威光は見る影もない。


「母が今晩9時から緊急の会見を開く、ですって」



「「緊急の会見?」」



「ええそう。ああ、きっと失業だわ! このタイミングで他にないでしょ?」


 晴れ晴れとしたもみじの表情とは対照的に、さくらさんはまた僕を向いて目を伏せる。


「あの、ごめ……さい」


 かすれた声はほとんど聞こえない。

 だけどその気持ちは痛いくらいに伝わってくる。


「何言ってるんだ! よかったんだよ、これですべて」


 それから3時間後。

 僕らは丁重に扱われ、無数のフラッシュが飛び交う記者会見の場に立っていた。




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