第6章 第5話
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
僕たちは勝利を確信した。
そしてそれは僕らの復讐の最終ピースだ。
審査の様子を見終わった感想は「聖佳が断然」、だ。
「一平さん、さくらさん、お疲れ様」
「あ、もみじっち。どうしたの? 三つ葉の連中と一緒でなくてもいいの?」
「あ、うん。だってあたしは生徒会長だけど部外者だもん。8名の登録部員には入ってないから」
「じゃあ、どうしてここに貴女がいるの?」
「だってあたし、高校生運営ボランティアなんだよ」
「何その都合のいい設定!」
そう言えば、ロボコンの運営・進行を手伝うボランティアが公募されていたっけ。あれってすごい狭き門だったと思うけど。
もみじさんは僕らのチームの椅子に座ると一緒に前を向く。
「一緒に記念講演、聞いてもいい?」
「イヤよ。どうしてお邪魔虫が座るのよ」
「さくらっちはケチね。そんなことだから胸が成長しないのよ」
「ちっぱいは関係ないわ! それに一平くんは小さいのがお好きだし」
「いや、そこで僕に振る?」
さくらさんは小さく嘆息すると立ち上がる。
「分かったわ。一平くん、わたし聖佳ちゃんを迎えに行くわね」
これから1時間、審査の待ち時間を使って記念講演が行われる。僕らは聖佳に全てうまくいっていることを伝えなきゃいけないのだが、もみじがいると邪魔だ。そう、さくらさんは意地悪を言ってたんじゃなくて、本当に邪魔だったのだ。だけど理由を話すわけにもいかず。だからさくらさんは聖佳を迎えに行くと言って作戦の進行状況を説明するつもりなのだろう。残った僕にもみじは声を潜める。
「きっと聖佳ちゃんが優勝でしょうね」
「ああ、だったらいいね」
「ねえお兄さま、何か悪いこととか企んでないですよね!」
「えっ? 何のこと?」
確信したようなもみじの言葉に一瞬どきりとする。まさかバレてるのだろうか?
「あたし場内の様子を見てたんですけど、審査終了しても緊張が続いているチームってここだけですよ。他のチームは審査終了と共に抱き合ったりハイタッチを交わしたり、ビールで乾杯したり……」
「ビールあるの?」
「ありません。冗談です。でも、もうあとは結果を待つだけ。やることは全て終わっているはず。なのにお兄さまはどうしてさくらさんと握手すらしなかったの?」
「あ、いや、やっぱりその結果がまだだし。あっ、ほらこれから父さんの講演だろ。大丈夫かな、って」
「もう、お兄さまはウソが下手ですね。あたしはずっと考えてたんだよ、どうしてお兄さまとさくらさんは突然ロボコンに出たのかなって。このところツインフェアリーズはすごく忙しかったでしょ。それなのに毎日毎日ふたりは夜遅くまで聖佳ちゃんのチューンナップに明け暮れていたし。おかしいでしょ? 何かあるんだってずっと思ってたよ。何か優勝したい理由が。それでわたし気がついたんだけど……」
やばい。額から冷や汗が止まらない。もみじを甘く見ていた。もみじは優しく朗らかな常識人だけど、三つ葉の生徒会長も務めるほど頭は切れる。それなのにカムフラージュが甘かった。蜂蜜より甘かった。
どうしよう……
「聖佳ちゃんが優勝したら、聖佳ちゃんとお兄さま、さくらさんは壇上に上がって総理大臣からトロフィーを貰うはず。そしてテレビカメラに向かって一言述べるよね。目的はそこなんじゃないの?」
あ、まずい。
どう言おう、どうやって誤魔化せば……
「お兄さまはテレビカメラに向かって鳥海議員の擁護をする気じゃないんですか?」
……
あ、そうくるか。
まあ、普通そう考えるよな。まさかおでこに落書きするとか、そんなバカな発想は出てこないよな。僕は少し安心してもみじの推理を否定する。
「そんなことするわけないじゃん。だって鳥海大臣って確かに不倫をしたんだろ。そんなこと正義はどっちにあるかは……」
「でもさくらさんはそう思ってませんよね? お兄ちゃん、さくらさんのこと好きなんでしょ?」
「うっ… でも、さくらさんは僕のことなんか全然……」
「もう何言ってるの? お兄ちゃんはラノベに出てくる童貞主人公なの? あんな超絶な鈍感男どもなんか現実世界にはいないよ? いてもダーウィンの進化論により絶滅してるはずだよ」
「まあまあ、小説家の立場も考えてやれよ」
「ともかくです。お兄ちゃんたちはいったい何をする気ですか?」
「いや、だからそんことは何も……」
「オマタセシマシタ!」
聖佳の声だった。
「あっ、聖佳。よく頑張ったね。お疲れさま」
「アリガトウゴザイマス。がんばりました。でも、大丈夫かな」
「大丈夫。聖佳は完璧だったよ」
「ハイッ!」
「ところでさくらさんは?」
「わたしならここよ」
少し遅れて戻ってきたさくらさん。
「昔の友達に捕まっちゃった。三つ葉の」
「さくらっち、三つ葉にあたし以外の知り合いがいるの?」
「言ってなかったっけ? わたし中学まで三つ葉だったから」
「あ、そうなんだ」
チラリ僕の目を見るもみじ。知ってるんならどうして教えてくれなかったの? と言う目だ。しかしもみじは突っ込んで来なかった。
それではこれより記念講演を開始します。
今年の記念講演はフランス第4大学教授の赤月昭一博士にお願いしております。赤月博士は人間と同じ食物を動力源とするアンドロイドを開発したことでも有名で……
巨大なスクリーンに父の緊張した顔がドアップで写る。
普段は能天気なことしか言わない父が、まともに背広を着て、まともに立っている。
そうして講演は始まった。




