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高嶺の花なんかじゃないんだからねっ!  作者: 日々一陽
第6章 総理のおでこに落書きを!
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第6章 第4話

◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 白いテーブルクロスに各チームのロボットたちが買ってきた「誕生日プレゼント」が並ぶ。

 採点に回るのを審査員チームを待つロボットたちに緊張の色はない。さすがはロボットだ。


「聖佳大丈夫かな?」

「一平くんったら心配性ね。大丈夫よ、聖佳ちゃんなら」


 会場の巨大立体モニターにそれぞれのテーブルが順次映し出されていく。

 『お母さんの席』に美味しそうなケーキと紅茶が並べられ、その前にリボンが掛かったプレゼント。三つ葉高校のテーブルだ。審査員がプレゼントを開ける。可愛らしいCDラックだ。なるほどロボットなのに僕よりいいもの選ぶじゃん。

隣のテーブルはロールケーキにふたり分の紅茶、そしてプレゼントの小箱。


「どうしてロールケーキにしたの?」

「はい、誕生日はみんなでケーキを食べるからです」


 審査員の質問に答えるのは九州第一代表・平和台高校のロボットだ。

 ケーキの横には小さくてもカラフルな花束。プレゼントの小箱は大谷翔太グッズのハンカチーフだった。個人的には得点高いと思う。

 次々と審査の様子が映し出される。驚きの声、笑い声、落胆の声、悲喜こもごもが周囲にこだまする。


「一平くん、いよいよよ、次よ!」

「ああ」


 緊張する。

 信じてはいるけど緊張する。

 それはさくらさんも同じみたいで、僕の左手に小さな手が指が、まるで縋るように絡まってきた。


「……」

「大丈夫だよ、聖佳はさくらさんの分身だから」

「そう、ね。ふふっ」


 長い黒髪がさらりと揺れると切れ長の瞳が光と熱を持って僕を覗き込む。

 そう、さくらさんは毎日毎日聖佳の人工知能にインプットを続けてきた。聖佳の器は僕が作ったのかも知れないけど、その中身はさくらさんで一杯だ。負けるわけがない。


「ほう、これは!」


 審査員の声がスピーカーから漏れる。

 聖佳が飾ったテーブルの真ん中には真っ赤な花が咲き乱れ、その両横には2個のショートケーキに紅茶が添えられている。プレゼントの小箱にはリボンが掛かって、隣に白い封筒が置いてある。


 審査チームが近づくと聖佳はテーブルの椅子を引いた。


「お帰りなさい、お母さん」


 審査員たちの驚く顔がモニターに映る。ってか、僕も驚いた。


「あれ、さくらさんが教えたの?」

「違うわ。すごい機転ね、聖佳ちゃん」


 やおら審査員たちはテーブルを見ながら質問を開始する。


「どうしてケーキはふたつあるのですか?」

「はい、ケーキは一緒に食べた方が美味しいからです。お母さんひとりだけじゃきっと美味しくないと思いました」


 聖佳、すごいじゃん!

 長い黒髪に白い花の髪留め、星ヶ丘の制服をきちんと着て、聖佳は笑顔を浮かべながらも堂々としている。


「えっと、プレゼントの箱を開けてもいいですか?」

「ぜひお願いします」


 審査員たちが箱を開けると、中から出てきたのは白い花が可愛い髪留めがひとつ。


「このプレゼントを選んだ理由は?」

「はい、わたしのこの髪留めとお揃いだからです」


 もみじから貰った髪留めを嬉しそうに指さす聖佳。たぶん安物の、どこにでもある髪留めなのだろう。


「聖佳ちゃんすごいわね。審査員殺しだわ」

「だね」

「ねえ、あの髪留めってもみじっちが買ってきたものよね」

「あ、うん。そうだよ」

「そう言えば、今日はあの女もあの髪留めをしてたわよね」

「あっ……」


 僕らの展示を見に来た朝風総理は確かに白い花の髪留めをしていた。もみじがお揃いのを買って渡したのだろうか。


「わたしだけ仲間はずれね、ずるいわ」

「あとであれ貰えばいいじゃないか」

「…… そう、ね」


 審査員はプレゼントの横にある封筒を手に取る。そして中から折りたたまれた白いメッセージカードを取り出した。


「なるほどな」

「あの審査員、目がうるうるしてるわよ」

「ホントだ」


 何が書いてあったのかは判らないけど、きっと「お誕生日おめでとう」とかだろう。さすがは聖佳だ、完璧じゃん。


 審査員はそのカードを机に戻すと、次のテーブルに移っていく。

 やがて、巨大モニターのカメラがテーブルに置かれたメッセージカードを大写しにした。



 お母さんは世界で一番きれいです


 

「もう、聖佳ちゃんったら!」



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