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高嶺の花なんかじゃないんだからねっ!  作者: 日々一陽
第6章 総理のおでこに落書きを!
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第6章 第1話

 第6章 総理のおでこに落書きを!



 決勝戦が始まった。

 苦節数ヶ月、一平とさくらが「聖佳」と言う秘密兵器に血肉を注ぎ、ミッション・インポッシブルを可能に変えるべく知恵と技術を尽くしてたどり着いた復讐の舞台。


 その会場の巨大モニターに中継映像が映し出される。

 聖佳が通りかかりの人に何かを尋ね、嬉しそうに頭を下げているところだ。


「何を聞いてるのかしら?」

「さあ」


 今年の課題は「お母さんへの誕生日プレゼント」。 

 勿論、ロボット達にお母さんなんているはずもない。いや「生みの親」ならいるのだろうが。だからロボットにこんな課題を出してもピンと来るはずはないのだ。下手をすると「誕生日」と言う概念があるかどうかすらも疑わしい。


 だから競技は「お母さん」の人物像が具体的に設定されている。

 



 『母』のプロフィール

 

 今日が満43歳の誕生日。

 身長162cm 体重53Kg。微妙にぽっちゃり。

 セミロングの黒髪、メガネは掛けていない。

 仕事は中学の英語教師。

 子供はひとりで高校2年生。

 夫は単身赴任で海外暮らし。

 趣味は映画鑑賞、クラシック音楽、水彩画を描くこと。

 特技はクラリネット。

 好きな食べ物はお肉とケーキ、そしてバナナ。

 若手売り出し中のイケメン俳優・大谷翔太おおたにしょうたの大ファンで、彼のドラマを見るのが何よりの楽しみ。

 大学の教育学部卒、専攻は英語。部活は吹奏楽一筋。


 毎日の日課

 朝、6時に起きる。ラジオ体操は欠かせない。。

 7時半に家を出て学校へ。

 学校では吹奏楽の顧問……

 ……

 ……




 設定がやたら細かい。

 僕は一度に覚えきれないけど、その点はロボットの得意分野だろう。


 ミッションは設定にある「子供」になったつもりで『母』へのプレゼントを買ってくるのだ。

 本当はプレゼントに優劣なんてあるはずない。だけど、これはあくまで競技だ。

 よりお母さんが喜ぶバースディプレゼントを考える。そしてそれを規定金額内でMAXにする。それを採点されるのだ。

 制限時間は3時間、移動は電車で2駅以内、予算は3000円。

 ただし、電車代は別途カード支給。


 競技が始まると全ての競技者、と言うか競技ロボットは会場のドーム球場を後にして、すぐ近くにある駅に向かった。2駅先には都内屈指のショッピングモールがある。そこに行けば何でも揃うのだ。しかも大会側推奨。他のロボットも聖佳も同じ選択をした。

 決勝に出場しているロボットは全部で20体。その全てに中継が密着している。だから聖佳が何をしているのか、あるいは他のロボットが何をしているのかも目の前にあるモニターで一目瞭然だ。


「聖佳ちゃん、さっきからおばさんに声かけっぱなしね」

「ああ、あいつのことだからきっと……」

「ええ、分からないことは聞いてるのでしょうね」


 ロボット達は「お母さん」の設定情報からプレゼントを買い込んでいく。水彩画の材料を買うもの、クラシック音楽のCDを買うもの、そしてお気に入りと言うイケメン俳優・大谷翔太のグッズを探すもの。しかし予算は3000円。画材は絵の具数本しか買えないし、CDも新譜を買えば終わり。俳優のグッズに至ってはそもそも探すのが困難だ。


「おい何買ってるんだエミリー! バカッ!」


 隣のチームがモニターを見ながら叫んでいる。


「どうしたんですか?」

「うちのエミリーのヤツ、大谷翔太公認の男物ネクタイ買いやがった! 誰にプレゼントする気だ! ああもうダメだっ!」


 プレゼントなんて僕ら人間だって悩みに悩むものだ。ましてロボットに人が喜ぶものを選ぶというのはものすごい難問だ。その上「お母さんへの誕生日プレゼント」と言う課題は競技開始まで伏せられたもの。これで完璧な答えを持ってくるロボットがいたら、それはもう人間を超えたんじゃないかとさえ思えてくる。


 聖佳はファンシーショップに入っていく。

 聖佳だってロボットだ。人間の知能を持っている訳じゃない。だけど彼女の思考回路にはさくらさんの言動や行動がたくさん入り込んでいる。だからきっと大丈夫……


 ロボット達が買い物をしている間に会場は展示タイムに入る。

 主催の案内に従って僕らも展示コーナーに移動した。そうしてロボットの開発経緯や聖佳の特徴などを解説したパネルの前に立つ。聖佳の様子も気になるがこれも大事な役目だ。人間と同じ食べ物を食べてそれをエネルギーに動作する二次元型アンドロイド聖佳。ハードウェアの技術的は他より二歩も三歩も進んでいる。コンテスト評価の対象外だけど、それを知ってか知らずか僕らのところの見学は他よりずっと多いようだ。ありがたい。そしてこの展示はあの女も見に来るのだ。勿論お付きの人やガードマンに守られてだけど、総理は来賓として全ての展示を見て回るのが通例なのだ。


 そう、このチャンスを逃す手はない。この会場であの女に近付けるチャンスはこのときと、そして表彰されるときだけなのだ。



「おーいっ!」



 声の方を見る。もみじだ。昨晩あんなことを言ったのに、まるで忘れたかのように笑顔で駆けてくる。これから何が起きるかも知らないで。


「聖佳ちゃん頑張ってるみたいね」

「あ、うん」


 長い赤髪のツインテに白い花が付いた髪留めが映える。これ、、聖佳にプレゼントしてくれたものとお揃いじゃないのか?


「三つ葉も負けないよ。わたしも展示説明のお手伝いしてるんだ」

「そうなんだ」

「このあと母も見学に来ると思うから宜しくね。ねえ、さくらさん、母に言いたいことがあったら言っちゃいなよ、ね」

「えっ?」

「さくらっち昨日言ったでしょ、あたしの母は許せないって。だから」

「いえ、さすがにこんな場では……」

「へへっ、まあそうかもだけど。じゃあ、またあとでね」


 軽く手を挙げ、いつもの笑顔で去っていくもみじ。

 昨日は落ち込んでいたのにもう復活している。


「ねえ一平くん。昨日の夜、もみじっちに何か言った?」

「ううん、僕はさくらさんを応援するっていっただけ……」

「そう……」


 と、周囲がざわざわと騒ぎ始める。


「あっ、あっちから来るわよ。あの女よ」

「いよいよだね」



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