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高嶺の花なんかじゃないんだからねっ!  作者: 日々一陽
第5章 さくらの想い出
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第5章 第11話

◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 もう、準備は全て終わった。

 あとは明日、予定通りにことを進めるだけ。

 緊張、ドキドキ、楽しみ、そして恐怖。


「いよいよね」

「うん、明日が待ち遠しいな。あの女がどんな顔をするか!」


 決戦前夜、さくらさんはカツ丼を作ってくれた。多分、験担ぎだろう。


「あの、一平くん、ごめんなさい。こんなことに巻き込んで」

「何を言ってるの? これは僕のためでもあるんだ。だから……」

「怖くない?」

「大丈夫、僕は平気。あ、でも、さくらさんは? さくらさんこそ不安になったりしない?」

「ふふふっ、わたしも大丈夫。言ってるでしょ、わたしには失うものなんか何にもないもの!」


 想い出すあの日。

 ツインフェアリーズが摘発された翌日。

 ひとり自失していた僕を訪ねてきてくれたさくらさん。

 あの日も彼女は同じことを言った。捨て駒になっても後悔なんかしないと。失うものなんか何もないから、と。


 あの日僕も同じ気持ちだった。

 あの女に一泡吹かせてやる、さくらさんと一緒に。

 僕だって何も怖くない、僕にも失うものなんか何もなかった。

 だけど今、その言葉が僕の胸をグサリと抉る。

 あの時、僕はひとりだった、何も怖くなかった、本当に失うものなんて何もないって思った。でも今は……


「ねえ一平くん、あのね、今日聖佳ちゃんは自分のお部屋でお休みしてるでしょ」

「うん。明日に備えて手入れもバッチリしたし」

「ふたりきりね……」

「そうだね……」

「ねえ、一平くん……」


 あまりに気高くて、あまりに綺麗で、僕の人生には何の関係もない遠い存在。

 薄着のさくらさんは恐ろしいほど美しく、その黒い瞳に意識を吸い寄せられる。

 いつの間にか僕の目の前に立つさくらさん。ブラウスから覗く白い谷間に視線が止まる。何かに操られるかのように彼女の肩に触れる。


「あっ、ごめん」

「どうして謝るの? わたしにはそんなに魅力がないの?」

「えっ?」


 非の打ち所なく端整な顔立ち。

 恥じらいつつ視線をさまよわせた彼女は、じっと何かを待つように……


「いいの?」

「抱いて」


 甘い香りが僕を包む。


「さくらさん」

「いっぺいさん」


「……」

「……」


「ん…… んんっ!」


 くちびるを合わせた瞬間、体が宙に浮いた気がした。

 僕はさくらさんが好きだ、大好きだ。

 失いたくない、放したくない、ずっとこうしていたい。

 でも、それを言ってはいけない気がした。


「んんんっ…… んは~っ……」


 初めての口づけを交わすと、彼女はその潤んだ瞳に僕を釘付けにしたままブラウスのボタンをひとつだけ開けた。彼女の瞳に促されるように、ふたつめ、みっつめと僕が開ける。そうして服を脱ぎ捨てると白いブラが露わになる。


「ホックは後ろなの」


 どうしていいのか分からない僕に優しく微笑んで背中を向くさくらさん。恐る恐るブラを外す。ハッと息を飲んだ。張りのあるふたつの膨らみ。それはツンと上を向いたピンク色で、それはとても白く柔らかく、それはとても聖なるもので、不思議と嫌らしさを感じない。しなやかに締まった腰、そして縦に割れる愛らしいおへそ。


 じっと耐えるように僕の目を覗き込むさくらさんは、目の前にいるのに、吐息を感じるほど近いのに、手の届かない薔薇の花。どうしても触れることが躊躇われる。


「そんなに見ないで……」

「綺麗、凄く綺麗……」


 心からの声が漏れる。


「ホント? 嬉しい!」


 光を湛えた黒い宝石が緩やかに微笑む。その瞳は心の中まで彼女の全てが清らかなるものだと教えてくれる。ああ、僕は貴女を、さくらさんの全てを……


「さくら、さん……」

「いっぺいさ、ん? って、一平くん、ちょっと大丈夫? 一平くん!」

「あ、えっ? って、これはっ!」


 さくらさんの慎ましく可憐なおっぱいに真っ赤な血がしたたり落ちる。


「ちょっ、ティッシュ! はい、上を向いてっ! すごい一平くん、どばあって出てるっ!」

「ごめん……」

「喋らないでっ! 上向いて首をトントンとして……」


 間抜けだ。

 こんな時に鼻血ブ~、なんて。


 さくらさんは僕をソファーに横たわらせると、その艶やかな上半身をまた薄い布で覆い隠した。


「ごめんなさい。危ないところだったわね。明日わたしは犯罪者になるんだもの。そんな汚れた女なのに、わがまま言ってごめんなさい…… でも嬉しかった。最高の想い出になりそう……」

「ちょっと待ってよ、やめてよ、こんな鼻血ブーが最高の想い出とか……」

「ううん、最高の想い出よ。だって一平くんがわたしを綺麗って言ってくれたんだもの……」


 彼女は大きく深呼吸をすると、にこりと満開の笑顔を咲かせた。


「じゃあわたし寝るね。おやすみなさい……」



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