第5章 第8話
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ロボコンの準備は順調に進み。
決勝のスケジュールも発表された。
課題は「注文されたお買い物をする」と言うこと以外は伏せられている。
この課題、簡単そうでロボットには難しい要素が織り込まれているのが通例だ。会場から目的の商品を手に入れるには電車を使わなければ行けないとか、買うべき物が抽象的でわかりにくいとか、どこで売っているのか分かりにくいとか、結構意地の悪い買い物をさせるのがパターンだ。だからどのチームも地図機能とか商品検索機能に工夫を凝らす。
「よお、赤月。いよいよだな。どうだ、聖佳ちゃんの調子は?」
「ああバッチリだ。僕好みの黒髪ロングに切れ長の目、すっげえ可愛いし!」
「言いたいとこはそこか? けどまあルックスは似てるよな、二畳院さんに」
「そっ、そうかな?」
「ああ、モロバレだ。ところで、ロボコン決勝、ホントに手伝わなくていいのか?」
「あ、ああ大丈夫。心配いらないよ」
本番では開発展示なども必要で手伝って欲しいのは山々だけど、今回のロボコンは僕らの復讐の場、岩本を巻き込むわけにはいかない。
「竹本も心配してたぞ」
「大丈夫だって。さあて、弁当喰うか」
今日は火曜日。
ロボコンは今週末、もう目の前だ。
僕は机に弁当を広げるとお行儀よく手を合わせる。どうやらさくらさんに洗脳されたらしい。男子でこんなお行儀がいいやつは僕だけだ。ああマリアさま!
「なんだか廊下がうるさいな」
「もしかしたらあれか? 期末の結果が張られたのか?」
岩本の言うとおりだった。
結果が出てるぞという言葉に何人かの生徒が廊下へ出て行く。ふと見るとさくらさんが山本さんと並んで教室へ戻ってくる。
「さくら凄いね! あの岡本くんに勝っちゃうなんて! やっぱ頭の構造違うのかな~っ」
「そんなことないわよ。やまもっちだって上位に入ってたじゃない」
「あ、今回は調子がよかっただけよ……」
そうか、さくらさん、参考書マイスターの岡本に勝ったんだ。
ってことは念願叶って学年一位!
山本さんと話をするさくらさんは見るからにご機嫌で、にこにこ笑顔が満開だ。学校ではクールな彼女に珍しい。よっぽど嬉しかったんだろうな。おめでとう、さくらさん。
「赤月は見に行かないのか?」
「あ、うん別に」
「岡本が首位転落、って聞こえたけど」
「ああ、そうみたいだね。さくらさんが勝ったらしいね」
「やっぱすっげえな二畳院さん。あんな美人で学年トップなんて、神は二物を与えるんだ、ずるいよな」
「そうだな」
と言いながら、僕は彼女が日頃どんなに頑張っていたかを思い出す。
彼女は全然ずるくない。毎日欠かさず予習復習を繰り返したさくらさん。数式の意味が分かるまで食い下がるさくらさん、夜は会話まで英漬けなさくらさん。あれだけ勉強したんだ、神様が微笑むのも当然だ。ロボコンで捨て身の復讐を誓う彼女にとってはこれが最後のチャンスなのかも知れないのだ。そのチャンスをものに出来て本当によかった。僕まで嬉しくなってくる。あとで祝福してあげなきゃ。
「…… って、おい。おい赤月、聞いてるのか!」
気がつくと僕の前に黒縁メガネの竹本が立っていた。
文芸部の竹本もロボット部設立の時に名義を借りた友人だ。
「あっ、ロボコンなら大丈夫だよ。さくらさんとふたりで……」
「全然聞いてねえじゃん! ああもう、いいからちょっと来いよ!」
「なんだよ急に、っておい!」
竹本に手を引っ張られ、箸を持ったまま廊下へ連れ出される。
「どうしたんだよ」
「どうしたもこうしたもあれ、見てみろよ」
「あれって、期末の結果か? さくらさんが岡本抜いてトップだったんだろ?」
「違う、二畳院さんが岡本抜いたのは正解だけどさ。ほら」
十数人が取り囲む掲示板を後ろから眺める。
4 白滝雄大
3 岡本友和
2 二畳院さくら
えっ?
さくらさん2番?
って?
1 赤月一平
「ええええええええええええええええ~っ!!」
「お前いつからそんな出来る子ちゃんになったんだ! 抜け駆け禁止法違反だぞ!」
「いや、ちょっ、これ……」
「あっ、トップ様だ」
「おい赤月、お祝いにメシ奢れよ!」
「おめえ、いつの間にあっちの世界に行ったんだよ!」
「いや、あの、これってさ……」
なんか周囲が色々言ってくるけど。
僕は愛想笑いを浮かべると逃げるようにその場を離れ教室に戻った。
自然と視線はさくらさんの方へ……
…………
梅川さんと話をしながら弁当を広げるさくらさん。
「おい赤月! なあ、期末トップはお前だったんだろ」
「……」
「お祝いになんかおごれよ……」
「……」
「どうした、赤月、機嫌悪いのか?」
「…………」




