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高嶺の花なんかじゃないんだからねっ!  作者: 日々一陽
第4章 もみじの願い
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第4章 第7話

◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 予選会が終わって。

 僕らは聖佳をねぎらうために寄り道をして帰る。


「頑張ったな聖佳。ご飯食べて帰ろうか。なにか食べたいものあるか?」

「ソウデスネ、このところ予選会のためだってバイキング料理ばかり食べてましたから、今日はラーメンがいいです」

「ラーメン? 何でまたラーメン?」

「トキドキ、ロボット部に来るイワモトさんが言うんですよ。チェーシュー麺大盛りが食べたいって。ワタシ、ラーメン屋さん行ったことないから話しを合わせられなくて」


 思わずさくらさんと顔を見合わせる。


「ふふふっ、分かったわ聖佳ちゃん。じゃあラーメン屋さんに行きましょう。ねえ、一平くん」

「そうだね。この先に美味しい店があるから」


 聖佳は見事予選を突破した。

 実力は突出していたと思うけど、結構ハラハラドキドキの進出劇だった。

 審査でロボット達は担当のテーブルに立ち、その料理を取った理由を説明させられた。


「肉料理ですからローストビーフと焼き豚、ハムをいっぱい揃えました。ご飯も大盛りです」


 男性リクエストに対する平均的なロボットの答えだ。

 それに対し審査員からの質問も飛ぶ。


「えっと、このローストビーフはどうやって食べるのかな?」

「はい、そのまま箸で摘んで食べます」


 ナイフやフォークを持ってこなかったり、タレが掛かっていなかったり。

 一番多いのはがっつり肉とご飯があるのに飲み物がないケース。

 肉ばかりで野菜は全く取ってないってのも減点要因。

 なるほど結構難しい課題なんだな、と思う。

 そんな中、完璧だと思われた聖佳の評価は厳しいものだった。

 ローストビーフに野菜を添えて、タレもドレッシングも別添え。ご飯ものとして肉がゴロゴロ入ってるビーフカレーを提供した聖佳の評価は3位。普通のご飯大盛りを持ってくるよりずっと気が利いているのにカレーから肉だけを選別した、ってところがマイナス評価になったらしい。


 夏バテで食欲がないけど甘いものが食べたい、と言う女性のリクエストはもっと難しかったようだ。

 ケーキやぜんざい、プリンにみつ豆ばかりを並べるロボットがほとんど。

 すっきりとしたライムジュースとヨーグルトに、パンケーキやプリンなど選択肢を豊富に揃え、夏バテの体を案じる献立は聖佳以外にいなかった。

 しかし、主催者が用意した模範解答は低レベルだったようで、聖佳の点数は甘い炭酸飲料や胃もたれしそうなケーキをたくさん持ってきた三つ葉高校と同点の一位。

 多分だが、ナイフやフォークを忘れてないか? 食べ物だけじゃなく飲み物もあるか? 紅茶かコーヒーかどちらがいいか確認をしたか? ミルクや砂糖は忘れてないか? と言った、そんな気配りがきちんと出来れば評価される採点基準だったようだ。


 結果、基本採点では三つ葉高校が1位、聖佳は2位になったのだが、もう一つの評価、専門家評価では聖佳が断然支持された。

 結果、僅差での逆転勝利。

 でも、次点となった三つ葉高校から「専門家評価は基準が不明確だ」との抗議があって揉めに揉めた。


 三つ葉はお金持ちのお坊ちゃまお嬢さまが通う学校、詰めかけた父兄までもが口を出してきたのだ。それでも一度決まった結果は覆らず、三つ葉は地区予選で特に話題性があったチームに認められる(ワイルドカード)での決勝出場と言うことで落ち着いた。


「あそこかしら、ラーメン屋さん」

「そうそう、中華そば高岡たかおか。王道の屋台風でちょっとこってりだけど凄く美味しいよ」

「アノ、お兄さま、屋台風、ってナンデスカ?」

「ああ、聖佳は知らないんだね。200年も昔に流行ってたラーメン屋さんの形態なんだ。屋台って言う小さなお店を台車で引っ張って道端でラーメンを作って売るんだ」

「エッ? ラーメン屋さんを家ごと引っ張るんデスカ? それは凄い怪力デスネ」

「違うんだ聖佳。ちょっと待ってろ」


 僕はスマホを取り出すと昔の情報を立体スクリーンに映し出す。

「手押しラーメン車、ナンデスネ。スゴイです。立って食べるんですね」


 とまあ、そんなことを言っているうちにラーメン屋に着く。


「いらっしゃ~い! 3名さんご案内っ!」

「聖佳は何にする?」

「チャーシュー麺大盛りで」

「そうだったな。岩本と話を合わせるんだったな……」


 僕らは注文を済ませると。


「なあ聖佳。今日はどうして「食欲がない」って女に人にあんなにたくさんの種類の食べ物を持ってきたんだ?」

「アレハデスネ、5日前、お兄さまにさくら姉さまが言ってたでしょ。風邪気味で食欲なくても食べなきゃ元気でないわよ、って」

「ああ、あったなそんなこと」

「タベキレなかったらわたしが食べるから無理シナイデネ、って。ダカラさくら姉さまのマネをしてみた」


 思わずさくらさんを見る。あの時のことが思い出されて赤面してしまう。さくらさん、すっごく気が利いて優しい。第一印象と全く違う。

 そのさくらさん、少しお冷やに口を付けると。


「いよいよ次は決勝ね。決勝戦のテーマは(お買い物)って言ってたわね」

「うん。きっと『お使い』をさせるんだろうな。色んな商品のデータベースを揃えなきゃ」

「お使いってナンデスカ?」


 不思議顔の聖佳。


「頼まれて買い物をすることだよ。ちょっとパン買ってきて、とか、ちょっと牛乳買ってきて、とか、ちょっと喧嘩買ってきて、とか」

「ダメよ一平くん、聖佳ちゃんにヘンなこと教えたら」

「ダイジョウブデスよ、さくら姉さま。ワタシ喧嘩は買いませんから」


 どこで覚えたんだ、このボキャブラリ。


「さすがは聖佳ちゃんね、偉いわ」


 今まで夜はスイッチを切っていた聖佳、しかしこのところ夜もずっと動作させっぱなしだ。聖佳はアンドロイドだ。夜でも寝る必要はない。でもこの一週間はさくらさんの隣で横になっている。その状態で動作したまま彼女は一体何を思っているのだろうか? 自分で自分への問いかけは出来るから、ずっとそんなことそしているのだろうか? 夜、寂しくないかと問うと寂しいと答えた彼女。じゃあ夜間はスイッチを切ろうかというと、それはイヤだという。そう言えば……


「なあさくらさん。さくらさんは聖佳と一緒に寝るとき、どんな話をしてるの?」

「寝るとき? おやすみなさいって言って今日あったことをお話しする程度よ。聖佳ちゃんは賢いからベッドに入ると静かにしているわ。自分から声を掛けてくることはほとんどないわね」

「ふうん。なあ聖佳、今晩は僕と寝ようか?」

「お兄さまのエッチ!」

「イデッ!」


 足を踏まれた。


「さくらさん、聖佳に男の足を踏むとか教えないでよ!」

「あら、わたしは教えてなんかいないわよ。多分勝手に見て学習したのよ」

「ソウデス、ワタシ知ってます。足を踏んだらお兄さまが喜ぶって」

「喜ばねえっ!」


 本当にそんな趣味ないのに困ったヤツだ。

 でも……

 そう言えば。

 あれは一昨日の朝だった。

 聖佳は僕にこんな事を聞いてきた。


「スキなヒトとは一緒に寝るんデスヨネ。一緒に手を繋いで横になるんデスヨネ?」


 そんなこともするかもね、って答えたけど。

 きっとさくらさんは聖佳のために色んな事をたくさんたくさん教えてくれたんだろう……


「へいお待ちい~っ! ラーメン並と大と、チャーシュー麺大盛りねっ!」


 店員さんが威勢よくラーメンを運んでくると、聖佳は珍しそうにそれを眺める。そうして僕やさくらさんのラーメンと見比べて、やがて幼稚園児のように律儀に手を合わせて食べ始めた。



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