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高嶺の花なんかじゃないんだからねっ!  作者: 日々一陽
第4章 もみじの願い
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第4章 第6話

◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 全国高校生ロボットコンテスト・東京地区予選会は有名なイベント会場で行われた。


「すっごく広いわね、それにまだ予選会なのに何この大観衆」

「だね。参加校も多いし、応援も凄いよな。ロボコンの応援にブラバンとかチアガールとか人文字作るとか、絶対やり過ぎだと思うんだけど……」


 会場のビッグドームは野球も出来る巨大なドームだ。

 そのど真ん中に僕らはいる。

 予選会場の中に入れるのは各校ロボット部の部員たち最大で8名まで。残りの部員や学校の応援団はドームの客席に陣取る。そうして太鼓やラッパで勇ましい音を奏で、応援団やチアリーダーたちが舞い踊る。ハッキリ言ってやかましい。みんな同時に演奏するな!


「三つ葉の応援団凄いわね。ブラバンやチアリーダーがあんなにたくさん!」

「ああ、あれはほとんど姉妹校からの応援らしいよ。もみじさんが言ってた」

「ずるいわね三つ葉。星ヶ丘なんて一平くんとわたしだけなのに」


 急遽ロボット部を立ち上げ出場した星ヶ丘。勿論応援態勢なんてないし去年の実績もない。だいたい応援団そのものがない。それでもありがたいことに応援の打診もあった。吹奏楽部からだ。でも丁重にお断りした。なぜなら、これはさくらさんと僕、ふたりだけの復讐の序曲なのだから……


「では全国高校生ロボットコンテスト・東京地区予選を開会します!」


 ど派手なファンファーレが鳴り響く。


「いってらっしゃい、聖佳ちゃん」

「ハイ、さくら姉さま。あの、ワタシの服装ダイジョウブですか? ゴミとか付いてませんか?」

「ん~…… はい、これでOKよ。大丈夫、聖佳ちゃんは綺麗だしお利口さんだから!」


 聖佳の背中に付いた埃を払ってさくらさんは微笑んだ。


「はい、頑張ってきます!」


 煌めくライトとたくさんのテレビカメラの中、切れ長の黒い瞳が微笑んで、長い髪をさらり揺らし戦いの場へと向かっていく聖佳。


 ロボコン。

 言わずと知れたロボットの優劣を競うコンテスト。

 だけど僕ら開発者の出番はロボットを送り出すところまで。

 あとはロボット自身が指示を仰ぎ、それに応えて競技は進む。


 高校生のロボコンで競われるのはほとんどがその知性だ。

 ロボットの体や動力部分は既成の部品を使うことが許されていて、どのグループも大きな差は付かない。その性能は似たり寄ったり。だから知能・制御部分を競うのが高校生のロボコンなのだ。


「大丈夫かな、聖佳」

「絶対大丈夫よ。聖佳ちゃんったら自分の服装気にしちゃって。可愛いわよね」


 総勢80体にものぼるロボットが勢揃いすると競技が開始される。

 しかし決勝に進めるのはたったの一体だけ。


「バイキング料理サービス対決、開始します!」


 ローストビーフにハムにパテ、魚のムニエルもエビフライもシチューもカレーもスパゲティもある。あっちに見えるはケーキにフルーツにアイスにオムレツにサラダにみつ豆におしるこに……ともかく凄い。ホテルバイキングの何倍もありそうな料理の数々。


 そんな、競技エリアど真ん中の巨大なバイキングエリアを取り囲むように審査エリア。

 80卓のテーブルには白いテーブルクロスだけ。各テーブルには男女ペアが座っている。

 競技は自分が担当するテーブルに座る男女からの言葉を元に、バイキング料理を取ってくる、と言う内容だった。

 有利不利が起きないよう、80卓で一斉に競技が開始される。

 巨大な立体ビジョンに映し出される『出題』の瞬間。


「僕は、お腹空いてるからがっつり肉料理とご飯類が食べたいな」


 解説ではどの卓も同じリクエストが出されるのだとか。

 聖佳は……


 聖佳はいつもの笑顔で二言三言、男性と楽しそうに会話をしている。他のロボットたちは先を急ぐようにバイキングエリアへ向かっているというのに!

 やおら聖佳もバイキングエリアへ向かう。しかし、肉料理と呼べるものにはもう長蛇の列だ。

 聖佳は……


「聖佳、なにやってんだ!」

「あら、カレーのコーナーね。何だかルーの中から具材を選んでるみたいだけど…… へええ、そう言うことね」


 カレーのコーナーは聖佳ひとり。いや、肉料理を取った後から数体のロボットが聖佳のあとに並ぶ。

 ローストビーフ、焼き豚、チキンソテーと言った肉料理はおおかた取り尽くされた。ハムを取っているロボットも多いが、肉料理でハムって言うのは間違いじゃないけど減点だろうな。あれ、サラダだし。


 気がつくと聖佳は肉料理のコーナーで係員に何か言っている。

 やがて。


「はい、ローストビーフ追加です」


 モニターに映し出される新しい一品。その第1号は聖佳だ。


「さすがは聖佳ちゃん。なかったら追加を頼む。きっとこの辺含めた審査なんでしょうね」


 ローストビーフにサラダを添えると、肉だらけのカレーとライムジュースをトレイに載せて聖佳は自分のテーブルへと戻る。次は女の人の注文だ。


「わたし甘いものが好きなの。最近食欲ないから少しでいいわ、夏バテかしら」


 立体ビジョンに流れるテロップ。これが女性のリクエストだ。

 聖佳は女性に向かって何度かにこにこ頷くと料理を取りに行く。

 そして、パンケーキにオムレツやサラダ、ヨーグルト、フルーツにプリンに梅ジュースと次々に取り揃えていく……


「なあ、聖佳大丈夫か? リクエストは食欲ないから少しでいい、だっただろ?」

「大丈夫よ一平くん。わたしだって聖佳ちゃんと同じことするわ」


 モニターには各チームのテーブルの様子が映し出されていく。ナイフやフォークがないテーブルもある。ぜんざいにスプーンを突っ込んでいるところもある。ケーキと紅茶だけと言う喫茶店メニューのようなところもある。




 ピピーッ! 時間です!

 競技者の皆さんはテーブルのところでお待ちください!




 アナウンスと共に競技は終了した。



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