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高嶺の花なんかじゃないんだからねっ!  作者: 日々一陽
第4章 もみじの願い
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第4章 第5話

◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ロボコンの予選会が迫ってきた。

 僕はさくらさんと共にアンドロイド・聖佳のチューンナップを急ぐ。


「予選会が終わったらツインフェアリーズを会員制に切り替えないとね」

「よかったの? ウェブサイトの準備は出来てたんでしょ? 先週から切り替えてもよかったのに」

「会員制にするのは予選会の後でいいよ。着ぐるみに入ったら聖佳も大変だしね」


 実は今日、となりのダンケンカフェがオープンしたのだ。

 早速さくらさんと敵情視察に行った。月曜の夕方にも関わらず店は満員。ビル2階にある新装の店舗は外に向かって全面が大きなガラス窓で、眺めもよくて明るく開放感がある。僕が頼んだコーヒーも美味しかった。僕だって一杯一杯丹念に作ってるつもりだけど、ここの機械には負けるかも知れない。ダンケンは高級チェーンで値段もうちとほぼ同じ。給仕さんがサービスする店舗で、開店日だからか8人もの給仕がうろうろしている。みんなれっきとした人間でロボットはひとりもいない。勿論、さくらさんやもみじさんみたいな凄い美人がいる訳じゃないけど、みんな粒ぞろいだし制服も可愛い。


「ねえ見た、一平くん? 表の広告用ディスプレイ」

「ああ、でっかいな。それに綺麗だし」

「いいえ、わたしが言いたいのはその内容」

「ああ、バイト募集の宣伝だろ。うちより条件ずっといいよな」

「大丈夫? もみじっちとかきららさん、へそ曲げないかしら?」

「それは大丈夫だと思うよ。でも悪い気もするよなあ~、ここのウェイトレスより断然働いてくれてるのに…… あっ、さくらさんの条件はここよりいいよね」


 彼女はその品のよい口に苺ショートを一切れ運ぶと小さく頷く。


「………… そうね、住み込み家賃、光熱費無料だしね」

「ははっ、そうだね。でもホント助かってる」

「で、どうするの? ふたりのバイト代アップしてあげるの?」

「そうだね、ちゃんと考えなきゃだね」


 そんな夕方のことを思い出しながら、聖佳のプログラムを改変していく。


「ねえ、ダンケンでの話だけどさ、もみじさんときららさん、ふたりの時給をアップするよ。会員制移行と同時にね」

「大丈夫? 生活苦しいんでしょ? あのオオカミが泥棒ねこを被ったような女はお金に全く苦労してないのよ」

「それとこれとは話が別だし」

「そうね、流石は一平くんだわ」


 彼女は聖佳の髪の毛を綺麗に解きながら。


「週末にはバグースもオープンでしょ、頑張らなきゃね」

「でも、その前に予選会だよ。予選会の課題も発表になったし」

「バイキング料理のコンサルジュ、だったわよね。聖佳ちゃんの得意分野っぽいじゃない」

「でも油断は禁物だよ。聖佳は料理の記憶は豊富だけど、コンサルジュってところが気になる。お客さんの要望に応えるんだよな。何が必要か……」

「あとでわたしにも教えさせて。ダテにウェイトレスやってないんだから」


 聖佳はそこらのロボットなんかお呼びじゃないほど高度な知識と思考を持っている。親父譲りのプログラムだからな。でも、今回の予選会にはひとつ気になることがあった。そう、今更のことだけど、僕が赤月昭一の息子だって事だ。著名なアンドロイド開発者にして二次元愛禁止法違反で国外追放になった父。その息子ってだけで審査がねじ曲げられる可能性がある。だからぶっちぎりで勝ち抜かないといけない。

 最初、もみじさんに応援を頼むことも考えた。陣営に総理の娘がいたら、審査のねじ曲げはないと思ったからだ。だけど彼女は強豪ロボット部を擁するライバル校・三つ葉の生徒会長。立場上それは不可能だった。


「さて期末試験も迫ってきたし、忙しくなるわよ。じゃあ英語タイムね」

「えっ、もう? まだ2週間あるけど」

「もう2週間しかないのよ、これは命令!」


 英語タイムが始まっちゃった。

 英語タイム、さくらさんが考えた英語学習の一環。

 これ以降、彼女は英語じゃなきゃ口を利いてくれない。しかも、向こうからはガンガン試験のことを質問してくる。答えられなかったら上から目線でののしられる…… のならまだいいんだけど、今にも泣きそうな、悲しい目で見つめられる。これはホントに心が折れる。だから必死で答えなきゃって頑張ってしまう。ちなみに辞書は持ち込みOKだ。すっごいスパルタだ。でもさくらさん曰く、彼女は小学生の頃からお母さんにこれをやられたらしい。道理でペラペラなわけだ。


 だから、試験勉強を終えて自分の部屋に戻るとほっとする。しかし同時にさくらさんが目の前にいない寂しさもこみ上げてくる。いつの間にか彼女がいることが当たり前になっていた。しかし僕は今でも彼女をとても遠い存在だと思っている……


 机の上には彩華ちゃん(かわいい)のフィギュア。

 これを見るともみじのことが思い出されて何故だかにこりとしてしまう。



 パンポン パンポン



 SNSへの着信だ。



 【紅葉ちゃん】


  来週月曜の夜、あいてる?



 来週月曜って予選会も終わってるし、試験にはまだ1週間以上あるし……

 (あいてるけど)で送信っと。



 【紅葉ちゃん】

 

  よかった!

  じゃあ6時に待ち合わせね!

  美味しいとこ行こうね!



 これって夕食のお誘い……

 多分お母さんに会わせる気だな。

 気乗りしないけど、もみじに約束しちゃったからなあ……

 (わかった)で送信……


 はあっ。

 これから僕はどうなるんだろ。

 もみじの願いは分かってる。でも僕はあの女に復讐するんだ。あまり会わない方がいいのだろうけど、もみじが納得してくれないし……


 って、また着信?



 【紅葉ちゃん】

 

  そうそう、お父さんはパリにある第4大学にいるって。

  連絡先もあるよ……



 って、親父の所在だ!

 僕はもみじに礼を入れると、親父に電話を試みた。時差の関係で向こうはまだ夕方のはずだ……


「ボンジュール」


 やばっ。フランス語だ。わかるかそんなの!

 とりあえず英語でまくし立ててみよう。


「ハロー、ディスイズ アカツキ2ゴウナガサキイキデス、コノレッシャハトッキュウケン……」

「って、もしかして一平か?」

「もしかして父さん?」

「元気にしてるか? よくここが分かったな」

「落ち着いたんなら連絡くらいくれよ」

「ごめんごめん。いやあ晶子ちゃんがパリジェンヌになっちゃってさ、毎日シャンゼリゼに行こうってキャッキャうふふとデートばっかしてたからさあ」


 何言ってるんだ、この能天気親父は。


「わかったわかった。ところでさ、聞きたいことがあるんだけど!」

「あ、なんだ? パリジェンヌの口説き方か?」


 まったく何言ってるんだこの脳内お花畑親父は!


「じゃなくって、僕の母さんのことなんだけど」

「えっ、お母さんのことって晶子ちゃんのことか? ちゃんとここにいるぞ。パリジェンヌになっちゃったけど」


 ホント何言ってるんだ、この脳内発酵食品おやじは!


「じゃなくって、本当のお母さん。真面目な話!」

「真面目な話、お前はお父さんと2次元の間に産まれた謎の2.5次元生命体なんだぞ!」


 ああもうなんなんだ、この二次元厨おやじは!


「リアルの話だよ、僕のお母さんって今の総理なんだろ?」

「今の総理がパリジェンヌな…… って、お前、どうしてそれを?」

「どうしてって、店の看板の裏側見たから」

「店の看板の裏側? って、なんだ?」


 忘れんなよ、天才の名を欲しいままにしたというバ科学者のくせに!

 店の看板の裏側から昔の写真を見つけたことを伝えると、やっと父は思い出したようだ。


「あ、ああ、そう言えばそんなこともしたなあ。ってことはお前に妹がいることも知っちゃったわけだ」

「あ、うん、もみじさんだね。彼女はすっごくいい子だよ。可愛いし」

「えっ、もみじにも会ったのか?」

「うん、いまツインフェアリーズを手伝ってくれてる。助かってるよ」

「どうしてだ? なんだその展開は?」


 僕は今までの出来事を父に話した。

 父はもみじとさくらさんが一緒に仕事をしていることに少し驚いたが、さくらさんなら上手にやってるんだろうなと勝手に納得する。僕はさくらさんの過去を知ったことは話さなかったし、父も何も言わなかったけど。


 一通りの報告を終えると、僕は一番聞きたいことをストレートにぶつけてみた。


「ねえ、今回の摘発って一体何だったの? 朝風総理って父さんの恋人だったんだろ? それなのにどうしてこんな事になったの?」

「お前も大人になったみたいだし、もう隠しても仕方ないか。多分あいつは俺をもう一度、研究の最前線に立たせようとしたんだと思う。確かに今回のタイミングは昔のネームバリューが通じるぎりぎりの線だったからな」

「って、なんだよそれ! それって私的感情丸出しじゃないか!」

「そうだ、国家を巻き込んだ痴話ちわげんか、かな」

「痴話げんかのために法律作ったっての?」

「そうとも言う」


 ああもう、なんなんだ、この人たちは!

 そんなふざけた話に僕はこんな振り回されてるのか?


「じゃあ父さんと朝風総理の仲って悪くないの?」

「そこはそうだな、微妙だな。あいつはあいつで犠牲者的なところもあるからな…… あっと、打ち合わせの時間だ。すまん、また今度な!」

「ちょっ、ちょっと父さんっ!」

「つーつーつー……」


 一方的に切られちゃった。

 しかし、犠牲者的なところがあるって、どういうこと?



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