第4章 第4話
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「最近、もみじっちとやたら仲がいいわね!」
家に戻って、さくらさんの第一声はちょっと不機嫌。
「いや、ほらやっぱり夜道は危ないし」
「あの女の娘でしょ? ボディーガードくらい頼めるはずよ!」
「ははっ、そうかもね。気がつかなかった」
「もう一平くんったら。あんまり遅いから冷めちゃったじゃない……」
綺麗に片付いたテーブルにはティーポットと2つのカップ。
「聖佳ちゃんは自分の部屋で休憩中よ」
彼女は自分のカップに紅茶を注ぐと新たに湯を沸かし始める。
「あ、僕もそれでいいよ、ネコ舌だし」
「奇遇ね、わたしもネコ舌でネコ耳なの」
さくらさん、いつの間にやらネコ耳を付けていた。
ウケを取るためには手間暇惜しまないタイプだろうか?
「へえ~っ、さくらさんって猫派なんだ」
「違うわよ。わたしは犬派よ。わたしが何を命令しても黙って言うことを聞くド忠犬が好き…… はい、冷めた紅茶が入ったわ」
「……」
彼女は紅茶の横にクッキーの箱を置くと、カップに口を付ける。
「しかし、あの女は一体何をしに来たのかしら。あんな速攻でバレる変装なんかして」
「もみじさんがここで働いてるって言うから見に来たんじゃないの? ブラック店舗じゃないか、とか」
「だったとしたらとんでもないブラック店舗だった訳ね、店長いきなりエキサイトしてワンワンと噛みついてくるし」
少し意地悪そうな笑みを浮かべるさくらさんに、、僕は頭を掻きながら。
「たはははっ、そうだね。ごめん」
「だけど、ホントにそれだけかしら。あの手土産が解せないわよね」
「手土産、って何?」
そんなものあったか?
しかし、考える僕をさくらさんは不思議そうに見つめて。
「食べたじゃない」
「食べた? って?」
「うなぎ」
「えっ? あれはもみじさんがあの女を送った帰りに買ってきたものだろ?」
「はっ? 一平くん、そんな言葉信じてるの? ちょっと考えてよ、あんな鰻この辺じゃ買えないわよ。それにもみじっちがあんなに余って困るくらい買うわけないでしょ。あれは朝風総理の手土産に決まってるわ。それをもみじっちがそう言ってるだけよ」
「えっ? どうして?」
僕の言葉に小さく嘆息したさくらさん。
「じゃあもし、あの鰻が朝風総理の手土産だって言ったら、一平くんは食べた?」
「…… 食べてない、かも」
「ね、だからよ」
「ちょっ、そんなのズルいよ」
「鰻の蒲焼きに罪はないわ。実際すっごく美味しかったし」
言われてみれば。
こんな簡単なことも気がつかないなんて、やっぱり今日はどうかしてる。
「すぐにバレるウソなのにね。でも、もみじっちはバレるって分かってて、でも食べて欲しいからウソを言ったのよ。まあ、もみじっちもあの女の犬よね」
「……」
頭に突然、さっきのもみじの言葉が蘇った。
「あたしはお兄ちゃんにもう一度、母に会って欲しいんだ……」
彼女は僕たち兄妹の家族を作り直そうと思っている。そしてそれは僕も応援しなくちゃいけないこと、なんだけど……
「さあ、そろそろ勉強しましょうか。世界史の宿題が出てたわよね」
「あ、そうだったね……」
期末に向けて張り切ってるさくらさん。一度でいいから学年で一番になりたいらしいけど、この調子だと本当に実現しそうだ。そんなことを考えながら宿題が出ていた世界史のノートを広げる僕だった。




