第3章 第12話
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
結局、店名は変えるって方向になった。
さくらさんは納得はしていない感じだったけど、僕が押し込んだ。
そうと決まれば善は急げだ。
食後のケーキを食べながら、僕らは新しい店名を考えてみた。
カフェ・エンジェルス ……自分で自分を天使とか、痒い!
ツインゴブリンズ ……誰がゴブリンだ!
エルフの森 ……だから誰がエルフやねん!
チェリーボーイズ ……絶対却下
……
色んなアイディアが出てきたけど、どれも今いまひとつ決定打に欠ける。
「ケーキってスゴクおいしいですね! ワタシもっと食べたいデス!」
「だからひとり一個だって! 僕の取るな!」
そんな中、聖佳だけは別世界。もみじさんが買ってきたチーズケーキに夢中だ。
「なあ、聖佳も新しい店の名前考えてくれよ」
「シカタアリマセンネ。じゃあ、トリオ・ザ・フェアリーズとか」
「まんまだな」
結局これと言った案は出ず、明日またみんなで考えることにして今日は解散と相成った。
僕はもみじさんを見送りに階下へと降りる。
「ごめんなさい母の所為で。でも本当によかったの?」
「もちろんだよ。助かったよ、もみじさんは僕らの優秀なスパイだからね」
「逆スパイでもあるかもよ?」
「ははっ、まあそうだね」
そう言いながら、入り口の上に掲げてある【ツインフェアリーズ】の古い木の看板を見上げる。
物心ついたときからそこにあった、木の看板。
年季が入っているけれど、そこが味わい深くて僕は大好きだ。
店の名前が変わっても、ここにはこんな看板が欲しい……
「そうだ。あの、さ。ちょっとだけ手伝ってくれる?」
「なに?」
「力仕事の手伝い。店名変えたら看板を作り替えなきゃいけないだろ、寸法と取り付け構造だけ確認しようと思うんだ。さくらさんは聖佳と入浴中のはずだし、ちょっとだけ手伝ってよ」
僕は店から脚立を持ってくると、その看板に手を掛ける。
いつも年末には父が綺麗に拭いていたけど、僕が外すのは初めてだ。
「よいしょっ、と」
1メートルほどの、その大きな木の看板は枠にのせられ、左右を留め具で止められているだけだった。だから、案外簡単に取り外せた。
「寸法だけ測っておくよ。新しいのを作らなきゃだしね。この看板受け取ってくれるかな」
夜8時を過ぎて始めてしまった作業に、嫌な顔ひとつせず付き合ってくれるもみじさん。
「はい、っと…… 結構重いですね」
「ごめんごめん。ちょっとメジャーを取ってくる」
僕は店に戻りメジャーが入った工具箱を取って走る。
と。
「あの、一平さん、これ……」
「ん?」
彼女が指さす先、それは看板の裏側に手のひら大のふたがひとつ。
「何だろ?」
僕は工具箱からねじ回しを取り出し、そのふたを開ける。
中は小さな入れ物になっていて、そこには1枚の四角い紙片。
店の灯りに照らされた、その小さな紙片をふたりで覗き込む。
「こ…… これって」
「……」
それは1枚の写真だった。
ふたりの赤子を挟んだ仲睦まじい若い男女。
男の方はすぐに分かった、若かりし日の父だ。
そして女性は可愛い赤毛のツインテール。まるでもみじさんみたいな……
「やっぱりだ…… やっぱりだよ! やっぱりだよ~っ!!」
「何がやっぱり、なんだ?」
「ほらっ、母だよっ! お母さんだよっ! この写真、わたしのお母さんだよっ!」
「えっ? どう言うこと?」
「ちょっと貸して」
彼女はその写真を手に取ると、ゆっくりと裏を見る。
そこには黒いインクの見慣れた父の字が。
可愛い双子の妖精たち(生後7日)
兄 一平
妹 もみじ
第3章 完
【あとがき】
ども、いつもご愛読ホントに感謝しています。投げキッス発動!
さて、前の章のあとがきに、
(この物語の主要な登場人物の名前には、ある共通点があります)
と言う問題を出したのですが、皆さんお分かりになりましたか?
えっ? そんなこと興味ない?
もう忘れた?
何でもいいから笑えるネタを書け?
まあそう言わずに付き合ってくださいよ。
あかつき、さくら、あさかぜ、あき(安芸)、鳥海、十和田。
もうお分かりですね、全部今はなき「夜行特急・急行列車」の名前です。
鳥海、十和田は夜間急行。あとは寝台特急、いわゆるブルートレイン。
今流行りの豪華寝台特急のハシリです。
寝台特急って、昔は別に豪華ってイメージはなくって、どっちかというと新幹線に乗れないから夜行…… ってイメージだったんですけど。今じゃ普通のブルートレインはほぼ全滅(サンライズくらいですかね?)。
ああ、こんなことならもっと乗っときゃよかった。
ええっと、その命名法とこのお話にどんな関係があるのかって?
もちろん何の関係もありません。
ちょっとやってみたかっただけで……
ってな訳で次章予告です。
薄給にも関わらずツインフェアリーズで働いてきたもみじ。
その真の目的は「監視」ではなく「調査」。
ついにその成果を得た彼女が次に取る行動は当然、兄と母との和解だった……
次章「もみじの願い」も是非お楽しみに。




