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高嶺の花なんかじゃないんだからねっ!  作者: 日々一陽
第3章 ふたりの妖精
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第3章 第10話

     ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 


 リビングの灯りを付けるともみじさんにソファを勧める。


「ところで誰? その黒髪ロングな二次元アンドロイドは」

「ハジメマシテ、ワタシは聖佳せいかです。一平先生が作ってくれた万能型の妹アンドロイドです」

「なっ、何その妹アンドロイドって?」

「ソウイウ設定です。一平先生はワタシを理想の妹として開発してるんです」


 最初は、聖佳は僕の憧れとして作り始めた。しかし、さくらさんと一緒に暮らすようになって、さくらさんが開発を手伝ってくれることになって、設定を変えた。妹に。だって理想の恋人を開発するなんて無理だ、さくらさんに勝てっこない……


「きもっ! ってか、妹だかお姉さんだかお婆さんだか知らないけど、重要なのはそこじゃなくって、どうしてこんなに綺麗なアンドロイドを開発してるかってこと! ねえ一平さんっ!」

「あっ、これはほら、前に話したよね、ツインフェアリーズを会員制にするって話。ダンケンカフェとバグースコーヒーに対抗するための手段。そのためなんだ。このアンドロイドの聖佳には新しい『会員制ツインフェアリーズ』の受付に立ってもらおうと思ってるんだ」

「ええっ? このアンドロイドを受付に? そんなのダメよ。前の二の舞じゃない! またこの娘に告白する客が現れたらどうするのよ! それでなくても彼女ってメッチャ美形だし!」


 もみじさんの反応は予想通りだ。


「大丈夫だよ。聖佳は僕の妹で、凄いブラコンで僕のことしか目に入らないって設定だから」

「アノ、ワタシは理想の妹、とは理解してますが、お兄さまを好きとか、そんなキモい設定知りませんよ」

「ちょっ! ちょっと待てよ聖佳! 聖佳には僕の好感度が必ず一番になるようなプログラムを……」

「ダッテ、お兄さまにはさくらさんがいるじゃないですか。この罰当たり! ワタシはそっちを応援します」

「いや待て聖佳! さくらさんは僕の事なんてこれぽっちも……」

「ねえ一平さん、こんな子が受付けなんてダメダメだわ。計画を撤回してよ!」


 朝風もみじの前でこんな内輪モメを見せるつもりはなかったのに。もっとちゃんと開発してから見せようと思ったのに。仕方ない、こうなったら作戦Bに変更だ。


「あのさ、もみじさん。彼女は受付に立つときにかぶり物をするんだ。ゆるキャラの」

「はあっ? アンドロイドにかぶり物をさせるの?」

「ソンナコト聞いてませんよ!」


 作戦B。

 聖佳の上から更にゆるキャラのかぶり物をさせて二次元愛禁止法違反にならないようにする作戦。別名『可愛いものにはふたをする』作戦。勿論さくらさんも了解済みだ。ちなみに、ゆるキャラのデザインは鋭意検討中だ。


「聖佳ごめんな。実は色々あってな。お前は可愛いからお店に立つときにはかぶり物が必要なんだよ。細かく説明するとだな、かくかくしかじかこう言う訳で……」


 僕が聖佳に事情を説明すると、聡明な彼女はすぐに理解した。

 理解はしたが……


「話はワカリマシタ、デモ悔しいですね。ワタシ、せっかく綺麗に作ってもらってるのに。なんか納得できません」

「そうよね。分かるわ聖佳ちゃん。わたしだってそんな扱いは嫌だもの。ねえ、あとで美味しいものを一緒に食べましょう」


 聖佳をゆっくり抱きしめてそう語るのはさくらさん。悔しいけど聖佳がさくらさんに懐くのがよく分かる……


「まあ、ゆるキャラだったら許されるね。わかったよ一平さん。しかし、この娘の開発には他にも目的があるんでしょ?」

「…………」

「知ってるわよ。一平さんとさくらさんがロボコンにエントリーしてるの」

「えっ!」

「三つ葉ロボット部の部長が言っていたもの。今年は星ヶ丘がエントリーしてきたって。しかも代表者が、あの赤月博士の息子だって。こりゃ強敵かもって」


 三つ葉高のロボット部はロボコンでも決勝進出常連の強豪校だ。去年も決勝で3位入賞を果たしている。勿論、父の指導の下で開発した聖佳が負けるなんてこれっぽっちも思ってはいないけどね。


「何とも光栄な話だね。そうだよ、僕らはロボコンに出るよ、この聖佳でね。だってやっぱりロボオタの憧れの場だもん」

「何故さくらさんも一緒なの?」

「あら、わたしだって開発に協力してるのよ。ねえ、聖佳ちゃん」

「ハイ、その通りです。さくら姉さまの言うことはすごく役に立ちます。それに引き替えお兄さまは……」

「何だよ聖佳、その意味深な目は!」

「すごいわ聖佳ちゃん! ちゃんと「それに引き替えお兄さまは」の後に続く罵倒の言葉を飲み込んだわね。「痛い用語ことばしか教えない」とか「ブラコン道ばかりを語る」とか「所詮は二次元厨」とか、言いたい言葉は敢えて飲み込み相手に考えさせ不安をあおる。ホントに会話が上手になったわね、エライエライ、いい子だわ」


「テヘヘヘヘ」

「あとね、最後に「はあっ」っと盛大なため息をつくともっとよくなるわよ。今度試してみてね」

「ハイッ、さくら姉さまっ!」


 特殊な広角レンズが埋め込まれた彼女の瞳が嬉しそうにさくらさんを見つめる。プログラム書いてるのは僕なのに。何だかとっても損な役回りだよな。


「でも忘れないでね、一番偉いのは一平くんだからね。彼があなたの生みの親。そこは絶対忘れちゃダメよ」

「モチロンです。聖佳はお兄さまの妹ですから」

「楽しそうなところ、ちょっといいかな?」


 もみじさんが僕の方を向く。


「ロボコンの件は分かったよ。でもどうしてこの「聖佳さん」を店に立たせるの? かぶり物をして案内役にして、どうするつもりなの?」

「ああ、それはね……」


 ダンケンカフェとバグースコーヒーに対抗するため会員制に移行する予定のツインフェアリーズ。会員制、と言っても一見さんをお断りにするつもりは毛頭ない。来るお客さんは一切拒まない。ただ「会員制」と言う言葉が持つ「優越感」を味わってもらおうって作戦だ。


 聖佳の役割、それは、彼女が持つ高度な顔認識機能と巨大な記憶装置をフルに活用することだ。


「聖佳にはお客さんの顔と名前、過去のオーダーや味の好み、そのほか趣味や誕生日なんか全ての情報を覚えてもらう。人間には不可能でもアンドロイドの彼女には可能なことだ。そしてその情報を君たちウェイトレスに伝えてもらう。そうしたら接客の質がグンとアップするだろ! 勿論、ポイントが貯まる会員カードも作る。ポイントが貯まったら何か景品と交換を考えているんだ」

「ふう~ん、考えたね。なるほどダンケンもバグースもオープンな雰囲気で気楽に入れるからね。でもさ、どっちの店にもポイントカードはあるよ」

「ああ、スマホアプリでの自動ポイントだよね。自動接続だから一切手間もかからずポイントが増えるって便利なヤツだよね。でもうちは敢えて紙のカードで勝負する。スタンプを手で押す原始的な方法さ」

「えっ? 紙にスタンプなんて。そんなの簡単に偽造できちゃうよ」


 驚いたようなもみじさん。


「かもね。でもいいんだ、そこに生じる『ふれあい』が狙いだから。景品なんて安い物だし」

「安い物、って、具体的に何?」

「んんっと、ゆるキャラ聖佳の缶バッチ、とか?」

「オニイサマ、それ、誰も欲しがりませんヨ、ゴミデスヨ!」


 辛辣しんらつな妹だ……


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