第3章 第7話
月曜日、ロボット部の設立申請はあっさり認可された。
部員は僕とさくらさん、そして岩本と竹本だ。
卓球部の岩本は友人のよしみで名前を貸してくれた。文芸部の竹本もさくらさんが一緒だというと二つ返事でOKしやがった。設立にはこれで十分。それ以上の声掛けはしていない。
僕は家に帰ると早速アンドロイド・聖佳の人工知能を修正し始める。
修正点は多くて夏のロボコンまで課題山積だ。
「一平くん、お疲れ様。はい、どうぞ」
気がつくと外は真っ暗、買い物して帰ってきたさくらさんがお茶を差し出してくれる。
「あ、ありがと」
「もうすぐご飯できるからね」
「ありがと」
「さっきから凄い集中力ね。わたしが帰ってきても全然気がつかないし。いったい何をしているの?」
「ああ、聖佳の人工知能を大改造中なんだ」
「ねえ、教えて教えて! どんなところを?」
「ああ、それはね……」
課題は大きく4つあった。
ひとつに、相手の気持ちを推察する能力の劇的向上。勿論、それを元に会話や行動を変えるのだ。
そして二つ目。これはさっきの逆で、自分の気持ちの大幅改良。相手の気持ちを推察して、より自分をよく見せたい、綺麗に見せたい、尊敬されたい、そんな自分自身の改良。勿論、父のアンドロイド・晶子ちゃんが化粧をしていた事にヒントを得た改良だ。
三つ目はさくらさんにも秘密の変更。
そして最後は。
「それから顔認識機能の大幅変更なんだ」
「顔認識? 聖佳ちゃんはわたしの顔と名前、すぐに覚えたわよ。まだ何か足りないの?」
「あ、うん。基本機能は十分なんだ。父も使っていた実績あるモジュールを利用してるし。メガネ掛けてもサングラスしても、帽子を被ったって100%見分ける能力があるよ。、実はね、彼女にはツインフェアリーズに出てもらおうと思うんだ、晶子ちゃんみたいに……」
「ええっ! それはどうして?」
「聞いてくれる? あのね、ダンケンとバグースに対抗するアイディアなんだけど……」
僕の話を聞いたさくらさんは予想通りの反応をする。
「ダメよ! あっ、アイディアはいいと思うのよ。面白そうだしわたしもやってみたい。でも危険だわ」
「大丈夫、聖佳には受付しかさせないから。晶子ちゃんのようなことは無いようにするからさ。これは僕が決めたことなんだ」
「だけど…… わたしは反対よ。だってあの女のことよ。もし一平くんが逮捕されたら…… ってか、ほら。わたしにも迷惑かかるでしょっ!」
「それはない」
へへっ。この時を待ってた。
僕はポケットからスマホを取り出すと、録音しておいた今の会話を再生する。
これは僕が決めたことなんだ。
だけど…… わたしは反対よ。
カチャッ!
「ねっ、もし摘発があっても、この録音証拠さえあればさくらさんは無罪放免だ」
「一平くん、わたしを嵌めたわねっ!」
「ちょっとした仕返し」
「…………」
「ねえどうかな、このアイディア。聖佳を店に立たせることになるけど、他にいいアイディアもないしさ」
「ええ、とてもいいアイディアだと思うわ。それしかないわ、やりましょう!」
「やったっ! さくらさんがそう言ってくれると心強いよ」
「…… はい、今のも録音しました~っ。これで何かあったらふたりは同罪ね」
「って、ちょっと待ってよ! さくらさん僕を嵌めたのっ!」
「ええ嵌めたわよ。でも悪いのは先に卑怯なことをした一平くんなんだからねっ」
「……」
「ふふっ、じゃあ、絶対摘発されないようにもみじっちに監修させましょうか」
「…… 悔しい」
「わたしだって悔しいわ! ねえ一平くん、二度とわたしを仲間はずれにしたら許さないわよっ!」
その顔は怒ってるようで、そうではないようで。
「あ。なんか悲しませたのかな。ごめん」
「ううん、そうじゃない。一平くんは優しいわね…… あっ、そろそろ麺ができるわ!」
その日はスパゲティと鶏肉のソテーだった。
料理を並べると、彼女はまるで幼稚園児のようにピシッと手を合わせる。
「いただきます」
「うわっ! やっぱさくらさんの料理は美味いよ。このトマトソースも抜群じゃん!」
「ありがとう、ネットのレシピのパクリなんだけどね。……あのね、一平くん」
「ん? んぐんぐ……」
「さっきは一平くんのアイディアを危険だとか、反対してごめんなさい」
「ん? でも、それはある意味そうだし」
「ううん。きららさんはもみじさんも巻き込め言ったわよね。きっとそれはそういうことだと思うの」
「それはそういうこと、って、どういうこと??」
「総理のむすめも巻き込まないと勝ち目はないってこと。危険な道しか残されていないけど3人で乗り越えろってこと」
「そこまで考えていった言葉なのかな?」
「さあ、ね!」
彼女は鶏肉を頬張ると楽しそうに微笑む。
「だけどあっちの計画にはもみじっちを巻き込めないわよ。あのね一平くん。わたし寝る間も惜しんで考えたんだけど、やっぱりあの女のおでこに油性マジックでXXXな絵を直接手で描くのってほぼ不可能だと思うのよ。そこでね……」
彼女は何やら見慣れぬシート状のものをテーブルに置く。
「これ知ってる?」
「見たことない」
「でしょうね、乙女の化粧品だもの。知ってたら怖いわ。これはシミ隠シートってお肌のシミを手っ取り早く隠す薄いシートなの。これを使えば、かくかくしかじか…………ってね」
「ああっ、凄いよさくらさん、それならいけるかも!」
「でしょ! まあ、他にも課題は山積だけど」
アンドロイド・聖佳の改良アイディアやツインフェアリーズの防衛策を話し合ったり、朝風総理への復讐手段の密談をしたり。彼女と一緒の時間はとても楽しい。それは彼女が希有の美貌の持ち主だからって理由じゃない。会話の内容もさることながら、なんて言うのか、話しているとウキウキする。いつまでも話していたい。
父はよく晶子ちゃんを愛でながら「結婚なんて、若くして死ぬまでの契約だから後悔することもあるんだ。その点、晶子ちゃんは絶対裏切らないぞ、がははははは」とか言っていたっけ。だけどさくらさんなら絶対にそんなことはない…… とか思う僕がいて。いや待て、彼女は男なんて利用するだけで絶対信じない、と言う。どっちにしても僕なんかの手が届く人じゃない……
食事が終わるとお勉強の時間。
2時間もすると、「ここまで終わったら風呂に入ってね」と言葉を残して姿を消したさくらさん。自分の部屋で何かしているのだろうか? 案外簡単だった数学の問題集を解き終えると服を脱いで浴場へ。
そしてドアを開けて脱衣所に入ると……
って!




