第3章 第5話
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その夜、さくらさんと勉強を終えると、僕のライフワークになりつつあるアンドロイド・聖佳の開発に取り組んだ。黒髪ロングに切れ長の瞳、高嶺の花的な和風美女の聖佳。父が作った駆動エンジン『ご飯で動くもんV6』を搭載した彼女は、ほとんど完成されている。だけど会話は単調で喋っていてもつまらなかった。
「本当ね、なんだかロボットと会話してるみたい」
「ロボットだし」
僕にお茶を入れてくれながら、さくらさんも同じ感想。
「どうしてなんだろう? ランダムに言うことを聞かないケースも織り込んでみたのに」
「人間ってランダムに言うことを聞かないものかしら?」
「女は気まぐれって言うじゃない」
「気まぐれって気持ちに正直、ってことよ。乱数で行動している訳じゃないわ」
「…………」
「どうしたの一平くん、そんなにわたしを見て」
「あっ、ああ、何でもない……」
実はさくらさんと親しくなって、僕は聖佳のもう一つの欠点にも気がついた。
そう、それは……
「ねえねえ、聖佳ちゃんの容姿って一平くん好みなんでしょう?」
「あ、そりゃまあ、そうだけど……」
「そうだけど?」
「そこも何か物足りないかな、って……」
「すっごく可愛いじゃない。お目々キリッと口元キュートでこんな美形な二次元キャラは滅多にいないわよ? こう言うの好きなんでしょ、二次元厨としては」
「あ、ああ、そうだよね。きっとこれはこれでいいんだ……」
自分好みに作ってきた聖佳の容姿、多分誰が見ても完璧のはず。今まで何の不満も感じなかった。しかしそれが、目の前のさくらさんに敵わない。おかしい。仕草や表情とかそう言ったこと以前に、例え止まっていてもさくらさんの方が断然綺麗だ……
「どうしたの、考え込んで」
「あ、いやね。僕の理想の聖佳なのに、どうして、その、さくらさんの方が綺麗なのかな? って……」
「えっ? わたし?」
「あっ、いやその、今のは……」
「ぷっ、ぷぷっ、ぷふふふはははっ!」
「何だよ、笑わないでよ!」
「あ、ごめんなさい。ううん、ありがとう一平くん。わたし、二次元に勝っちゃった?」
「いや、結構マジで悩んでるんだよ」
「あ、ごめんなさい。でもそう言えば……」
彼女は暫し顎に人差し指を当て考える。
「ちょっと思い出したんだけど、一平くんのお父さんが作った晶子ちゃんは時々化粧していたでしょ? 顔は完全に二次元なのに」
「あ、あのめんどくさい仕様ね。凝り過ぎだよね。毎朝自分で口紅塗って失敗したりするんだもんな、彼女。化粧なんかしても汚れるだけなのに」
「ううん、あれこそみんなが晶子ちゃんを可愛いって思う原点かもよ」
「あの、元の色調を崩すだけの化粧が?」
「そうよ。だって化粧をする晶子ちゃんには気持ちがあったのよ。綺麗に見せたいって気持ちが」
「気持ち、ねえ……」
めんどくさい。
気持ちって、めんどくさい。
相手の気持ちを察して、落ち込んでいたら同情するとか、悩んでいたら掘り下げて聞くとか、そんなのめんどくさい。いや、僕は人間だし無意識のうちにやってるのかも知れないけれど、そんなプログラムは面倒だ。
だけど、もしかしたら……
「なるほど。ちょっと試してみるよ。すっごく面倒な仕様だけど」
「頑張ってね一平くん。この聖佳ちゃんでロボコンに出るんだから。絶対決勝に進まないといけないんだから」




