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高嶺の花なんかじゃないんだからねっ!  作者: 日々一陽
第3章 ふたりの妖精
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第3章 第4話

     ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 


 白磁に溢れんばかりの霜降りステーキ。

 付け合わせの野菜をのせる場所もなく、別の器でサラダが供される。


「はいどうぞっ。これ、あたしの得意料理なんですよっ!」


 落ち込み気味だったもみじさんも完全復活。

 彼女もさくらさんと同じく、まるで園児のように手を合わせる。


「いただきますっ! さあさ、一平さんもどうぞっ」

「あ、うん。いただきまっ…… ん、んぐぐんぐ、って、なにこれ美味いよっ!」

「でしょ、でしょっ!」


 口に入れて軽く噛むだけでジューシーな肉の味が口の中に広がっていく。塩こしょうと醤油ベースのシンプルな味付けで十分だ。


「さすがはお金持ち。こんな高価ブランド牛のステーキが得意料理だなんて尊敬するわ。庶民の家庭ではあり得ないことだもの」

「普段は普通の国産牛肉使ってますっ!」

「ふふっ、わたしは値落ちした安い鶏もも肉よ。勝ちだわ」

「ああもうっ! 貧乏自慢じゃ勝てないわよっ!」

「えっへん!」

「さくらさん、そこ、胸張るところじゃないよ」

「一平くん、いま、わたしの胸を見て何を思ったか正直に白状なさいっ!」

「いだっ、足踏まないでよっ! って、いだっ!」

「……やっぱり仲、いいんだねっ」


 突然もみじさんがさくらさんに笑顔を向ける。


「勿論よ。だって一平くんはわたしの大家さんですからね」

「だったら大家の足踏むな」

「はい。ごめんなさい(ぺこり)」


 どきんっ!

 って、この変幻自在さは反則だ!


「と、ところでさ、もみじさん。今回の件は総理が裏で糸を引いてるんだよな」


 ぱくっ、もぐもぐ


「え、ええ。おそらく間違いないと」

「んぐんぐ…… それでさ、その目的は? この店を潰すため? それとも……」

「わからない。だけど、多分、一平さんを三つ葉に連れて行くため、だと思う。だから、あたしも母の意向を叶えようと思った……」

「それは、どうして?」


 ……ぱくっ、もぐもぐ


「わからない。わからないから、あたしは今、ここにいる」

「……」


 きらら婆さんの言うとおり、あの女の目的が分かれば策も打ちやすくなる。

 ……もぐもぐ。


 それが僕を三つ葉高校へ編入させるためだとしたら、僕はどうしたらいい?

 ……ぱくっ、もぐもぐ。


 いや、その前に、その理由は?

 こう言う時に父がいてくれたら。

 ……もぐもぐ


 しかし、国外追放の父に日本から連絡を取ることはできない。って言うか父も父だ。第三者を経由するとか、連絡手段くらい考えればいいのに!

 ……ぱくっ、もぐもぐ


「一平くん、さっきから一心不乱に食べてるわね。やっぱりブランド牛はそんなに美味しい?」


 もぐもぐもぐ、んぐぐぐ……


「こんな高級な肉は滅多に食べられないからね。それに今日はお腹も空いたし」

「そうなの? わたしはこんなに脂が乗ったお肉、たくさん食べたら太りそう」


 そう言うと、さくらさんは自分のステーキを半分近く切り分けて僕の皿にのせた。


「ええっ、いいの?」

「カロリーオーバーなのよ。命令よ、手伝って」

「ちょっ、ちょっとさくらっち! なにさりげなくポイント稼いでるのっ? 元を正すとあたしが買ってきたお肉なんだよっ!」

「ああそうね。でも、ポイントなんか稼いでないわよ。ねっ、一平くん。一平くんが好きな人はだあれ?」


 そう言うさくらさんはにこりと笑って、テーブルに置かれた彩華ちゃん(らぶりい)に目をやる。


「あ、ああ。僕の嫁は魔法少女・彩華ちゃん(らぶりい)だよ」

「ねっ、分かったかしたら、もみじっち。一平くんからポイントを稼ぐなんて不可能なのよ。どうしようもない二次元厨なのだから」

「あたし、二次元愛禁止法をごり押しして成立させた母の気持ちが初めて分かった気がする」


 そう言うもみじさんも目の前のステーキを切り分けて僕の皿に置いてくれる……

 って!


「いやいいよ。元々ボリュームあるから大丈夫だよ!」

「あたしもこれ以上バストが大きくなったら困るしっ!」

「いい根性してるわね、もみじっち! このわたしの前でおっぱいの話題を出すとか、しかも(おっきいは神)みたいに言うとかたいしたものだわ! その喧嘩、買うわ!」

「あたしは構わないけど。でも最初から勝負はついてるんじゃないの、どっちが凄いかでしょ。じゃあ一平さんに判定してもらいましょうか?」


 そう言うと着ているメイド服のボタンに手をかけるもみじさん。


「ふっ、もみじっちはバカね。女のボタンは外すためにあるんじゃないのよ。外してもらうためにあるのよ。ねえ一平くん、この胸のボタン、外してくれる?」


 意味ありげな笑みを浮かべながら胸を突き出すさくらさん。


「そ、そんなことできるかよっ!」

「もう、一平くんったらチェリーなんだからっ」

「童貞で悪かったねっ!」

「ううん、ぜんぜん悪くないわ。わたしもバージンだし」

「っ!!」

「はい、ボタン開けて!」

「んなことできないよ!」

「やめてよっ、ふたりともエロ合戦しないでくれるっ!」


 いいえ、もみじさん。元を正すと自分の胸ボタンに手をかけたあなたが発端です。


「じゃあ、やり方を変えましょう。もみじっちだってホントは服を脱ぐ勇気なんてないんでしょ?」

「……」


「じゃあ一平くん、問題を出すわね。いい? むかしむかしあるところに優しい一平くんがいました。ある日一平くんは可愛い子雀こすずめのお宿に招かれました。楽しい時間が過ぎて、一平くんが帰ろうとすると、すずめは言うのです。「ここに大きなおっぱいと小さなおっぱいがあります。お土産に好きな方を持って帰ってくださいな」。さて、一平くんはどっちを持って帰りますか?」

「……舌切したきり雀か!」


「もう分かりますよね。どっちのおっぱいに宝石が入っていて、どっちのおっぱいからヘビやお化けが出てくるのか」

「ちょっとさくらさん、何をわけわかめなこと言ってるのっ! そんなバカな話あるわけないでしょっ! 男の人は普通におっきい方がいいのよっ……」

「あのねもみじっち。そこに置いてある魔法少女・彩華ちゃん(らぶりい)のフィギュアを見てご覧なさい。そう、一平くんが愛する彼女の胸を。その見事なまでに平坦な胸を!」

「あっ!」


 何だかよく分からないけど勝負はついたようだった。僕に買ってくれた彩華ちゃん(らぶりい)の2.5頭身フィギュアを手に取り涙目で眺めるもみじさん。多くのアニメヒロインがそうであるように、魔法少女・彩華ちゃん(かわいい)の胸もざんねんな設定だった。だからって、それをもって僕の好みと決めつけられるのも困りものだが……


 暫く悔しそうに彩華ちゃん(らぶりい)のフィギュアを見ていたもみじさん。やおら変なことを言い出す。


「じゃあさくらさん。今日のパンティの色は?」

「はっ?」

「今日のあなたのパンティの色は?」

「……白、だけど」

「あたしはピンクだよっ! ねえ、一平さんの好みはっ?」


 そう言いながら僕の目の前に彩華ちゃん(かわいい)のフィギュアを突き出し、彼女のスカートをまくるもみじさん。その中からはピンク色の何かが……」


「僕の好みは、くまさん、かな」


 ぱしっ!

 びしっ!


 僕の右左の頬に同時に平手打ちが入った。


「「もう一平くん(さん)なんて、知らないっ!」」



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