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高嶺の花なんかじゃないんだからねっ!  作者: 日々一陽
第3章 ふたりの妖精
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第3章 第3話

     ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 


 その日も店は大繁盛、バタバタと時間に追われた僕らは、閉店と同時にカウンターに集まる。


「疲れたでしょう。きららさんもどうぞ!」


 僕はみんなにオレンジジュースを振る舞う。


「ありがとよ、一平ちゃん。しっかし困ったことになったの、あれ。どっちも喫茶店なんじゃろ。何って言ったかの。じゃんけんカフェとまんぐーす?」

「ダンケンカフェとバグースコーヒーですね」

「ホントに。高級コーヒーチェーンのダンケンと庶民派カフェ最大手のバグースに挟み撃ちされて、どうしろって言うんだよ! これがあの女のやり方かよ!」

「大丈夫よ一平くん、絶対負けないから!」

「もちろんだよ、さくらさん。だけど……」


 今日、常連さんも励ましてくれた。

 ラテンの血を引く陽気なステファンも。


「喫茶店ができる? そんなの問題ないよ。だってツインフェアリーズにはさくらちゃんともみじちゃんがいるじゃん。最強だよ。ツインフェアリーズにふたりの妖精がいる限り、絶対みんなここに来るさ!」


 近所のおばさんも学校の友人も、みんなみんな励ましてくれた。

 だけど。


「…………」


 あの、いつも笑顔のもみじさんだけは見るも無残に落ち込んでしまった。

 彼女はスマホで色んなところへ連絡を取っていたが、その度に目に見えて落ち込んだ。


 となりの不動産屋さんからも情報をもらった。

 新しくできる店の名前、店の規模、開店予定日、そうして、突然の異変の裏には何か大きな力が働いていそうなこと。


「こんな方法、あたしは望んでない。どうして……」


 そのさまを見ると、彼女を責めてはいけない、と思う。

 だけど全ては彼女のお母さんの仕業に違いない。


「なあ、やっぱりメイド喫茶で出直さないか? 元々ここにはメイド喫茶の市場があったんだ。だから両隣に喫茶店ができたって……」

「そうなのかい? ばばあが口を挟んで悪いけど、相手はこんな短期間に2つの店を開店させることができるのじゃろ。だったらうちがメイド喫茶に替えてもすぐに手を打ってくるのじゃないかの? 予想の範囲内じゃろうし」

「そうね、きららさんの言う通りかも」

「だったら、だったら僕はどうしたら……」

「のう一平ちゃん。敵の目的は何じゃろうな? この店の看板を下ろさせることか? 一平ちゃんを三つ葉にやることか? 看板が目的なら看板を下ろせばいい。学校が目的ならこの地を捨てればいい。正面から戦うだけがいくさじゃない。弱いものには弱いものの戦略があるじゃろうて」

「でも、そんなっ! ツインフェアリーズを捨てて逃げるなんてこと……」

「逃げても目的を達成すれば勝ち。そうじゃないかの? それに、一平ちゃんには何者にも代え難い強い味方がいるじゃないか。ふたりも」

「ふたり、って、さくらさんと、きららさん?」

「バカを言うんじゃないよっ! こんな年寄りが今更何の役に立つんじゃ! もみじちゃんじゃよ、もみじちゃん!」


「えっ?」


 それまで唇をかみしめ俯いていたもみじさんが驚いたように顔を上げる。


「もみじちゃんは気立てもいいしよく働くし、凄く可愛いし。それに時の総理大臣の娘さんじゃないか」

「えっ、きららさん知ってたの?」

「ごめんなさいね、さっきの話を聞いてたからね。しかし似ているねえ、お母さんに」

「やっぱり、ですか?」

「もしかして、そう言われるのは好きじゃないのかい? だったらごめんよ。でもさ、もみじちゃんはホントいい子だよ。なあ一平ちゃん。一平ちゃんの気持ちも分かる。しかし、一平ちゃんにもとっくに分かってるんだろ、彼女がどんなにいい子か」

「……」


 いつも笑顔でお喋り好きのきらら婆さん。彼女にお説教なんてされた記憶は一度もない。今日だって怒られてる訳じゃない。いつものように愛想よく喋ってるだけ。でも、何かをさとされている気がする。


「一人より二人、二人より三人じゃよ」

「……」

「じゃあ、ばばあは帰るとするよ。年寄りは頭が堅いし一緒にいると若い人のアイディアを潰しちまう」


 …………

 手を上げて店を出て行くきらら婆さんを見送ると、さくらさんと目が合った。


「きららさんの言うとおりだわ」

「ああ、僕はもっと自由な発想をしないといけないな…… あのさ、もみじさん」

「はい」

「その、ごめん。一緒に戦ってくれるかな。この店のために」

「も、もちろん!」

「三つ葉の話はその後、でね。まずはツインフェアリーズの生き残りに全力を尽くしましょう!」

「はいっ!」

「それにしても……」


 夜、車の光だけが行き交う窓の外にきらら婆さんの言葉を思い出す。

 あの女の目的は何だ。それを知っているのは……

 いや、彼女は知らない。彼女を信じよう。


「遅くなるし夕食にしようか。なあもみじさん、約束通り作ってくれるかな?」

「えっ、あ、勿論! 腕によりをかけて作りますよっ!」



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