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高嶺の花なんかじゃないんだからねっ!  作者: 日々一陽
第2章 おっぱいスキャンダル
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第2章 第9話

◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 鳥海翔一郎ちょうかいしょういちろう

 その名を聞いたもみじさんの顔色がさっと変わった。


 鳥海ちょうかい代議士、その名は僕でも知っている。

 あれはまだ記憶に新しい3年前のことだ、政界を、いや日本を揺るがした一大スキャンダル。

 総理の座に一番近いと言われた鳥海代議士。

 学生の頃から大物議員の付き人として頭角を現し、その甘いマスクと抜群の知性で40歳を待たずして外務大臣に抜擢された超エリート……


 いや、彼は決してエリートではない。

 彼の物語を語るとき、彼につけられる接頭語は(苦労人)だった。しかし、それもこれも全て、彼のスキャンダルで崩壊する……


「ちょっと待ってよ。鳥海代議士のスキャンダルに母は関係ないでしょう? あれは彼の、彼自身の女性スキャンダルだったはずよ」

「そうよ、あれは父の自業自得! ふっ、笑うがいいわ! 父は若いグラビア女優と一夜を共にした。二夜連続だったと言う人もいたけど、この際一夜か二夜か千一夜かは重要じゃない。父は胸の大きな女に目が眩んだ。おっぱいに負けた! そして「おっぱい不倫」の現場を写真誌にスクープされ白日の下に晒された。新聞にも雑誌にも「顔よりおっぱい」とか「朝までおっぱい」とか「おっぱい大臣」とか面白可笑しく書き立てられた。そうよ、父はかの有名な「おっぱいスキャンダル」の鳥海翔一郎よ!」


 テーブルに手をつき言い放つさくらさん、目の前のカップがカタリと揺れる。


「だったら、その結果あたしの母が利を得たとしても、それは逆恨みじゃ……」

「ええそうよ、逆恨みよ! 悪い? わたしの恨みは逆恨みなのよっ!」


 あ~あ、言い切っちゃったよ……


「でもね、そんなおっぱいに負けた最低な父でも、母はゆるしたのよ! 母の胸はざんねんだったわ。そう、わたしと一緒、ペッタンコ。前か後ろかすら分からない。だから仕方がないよねって父をゆるしたのよっ! それなのにあの女は、朝風明希は、総裁レースから脱落した父をここぞとばかりに追いつめた。大臣も降りた、議員も辞職した。でもあの女は更に党から離党までさせたわ。再出発の道すら閉ざされ、一切の収入を断たれ…… 父と一夜を共にしたあの女優はスキャンダルのお陰で大ブレーク。父は嵌められたのよ。あの大きなおっぱいに嵌められたってわけよ。でもバカなのは父、悪いのは父。許さない、わたしは父を許さない、絶対に許せない。そんなことは分かってる。でもね、一番の犠牲者は誰? 母は赦したのよ、母が赦したのよ! なのにあの女は、あなたのお母さんは父にとどめを刺したのよっ!」


「そう、だったの……」

「わかったら…… この三つ葉の申請書は、持って帰ってちょうだい……」

「……」

「お願い…… お願いだから、早く帰って!」


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