11 いつの間にか大ごとになってしまった
朝に投稿するつもりがこんな時間に……。
すみません。
「どこへ行ったんだよ、まったく……!」
「怒鳴ったところで仕方ないでしょう。これだから男は」
「男というよりは、拓也くんが短気な奴なんだと思いますよー? でも確かに、一向に手がかりなしは困ったものですねぇ」
連れ去られたであろう人間たちは見つかる気配すらない。
俺はため息を漏らし、周りで俺を貶してくる女たちを見つめる。ここいらで残っているのはこんな少女が二人と俺だけだなんて……。
街の人々が消えていたのは、俺たちの街だけではなかった、
近隣の市町村を回っては見たものの、やはり全くの無人だった。
朝は確かに普通だった。騒ぎの影はあったにせよ、人はたくさんいたのに。
とある住宅で流れっぱなしのテレビをチラリと見たが、どうやら報道番組のようだった。しかしニュースキャスターはおらず、破壊の名残だけが映し出されている。
これは、もう、終末世界と言ってもいいのではないだろうかなんて思ってしまい、俺はさらに暗い気分になった。
「世界各地でも、何らかの飛行物体から現れた生物が街を破壊しているらしいわ。UFOじゃないかっていう噂もあるみたいね」
「……ふーん。UFOって海外では有名だもんな。信じてる人が多いのか?」
「さてね。それはあたしは知らないけど」
スマホでネットニュースを確認しながらの智鶴の言葉に、俺は首を傾げる。
確かに未確認飛行物体の話はよくあるけれども、出来損ないのSFみたいなこの現実をそう簡単に受け入れられるだろうか。
「何話してるんですかー?」
「いや、別に何も。いつの間にか大ごとになったなあって」
「そんなこと言ってる場合じゃありませんよっ。さあ人間たちよ、今こそ立ち上がり、世界を救うのだー!」
しばらくの沈黙が流れた。
俺と智鶴はピンク髪をとりあえず放っておいて、これからどうするかを話し合うことにしたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「人々の救出が必須ね。でも問題はどこに誘拐されたかということ。おそらくUFOに乗せられて連れ去られたのだと思うけれど」
「智鶴さんは本気でUFOなんかあると思ってるのか? あんなの幻想で」
「ならあの宇宙人たちはなんと説明するの? それに、あなただって見たでしょう。あたしとあんたが初めて会った日、空から降って来た奇妙な物体を」
確かに見た。
あの時は映画のセットだと思い込んでいたが、しかし今なら違うとわかる。
あれで連れ去る? 日本人全員を? 割合小さく、せいぜい小型ヘリくらいの大きさしかなかったのでおそらく無理だと思うが。
「いくらでもやりようはあるでしょう。第一アズミが異能力持ちなのだから、あいつらだって何かしらの能力は持っていておかしくない。基本攻撃は光線だけれど、人体を小さくしたり大きくしたりする能力を持っているかもしれないでしょう」
「理知的な口調で厨二な内容を話す女子ってそれはそれで面白いかもな」
余計なことをつい口にした俺は、思い切り睨まれた。
すみませんでしたと目だけで謝っておく。どうして俺は女に翻弄されてばかりなんだ……。
「大体あいつらの居場所は割れてます。というか今日の今日わかりました。行きましょう!」
そこへ割り込んで来て、そんなことを言い出すアズミ。
その言葉に俺は目を丸くした。
「居場所、わかったのか」
「えぇわかりましたよ? 何か問題でも?」
「いや……。アズミの頭で何かが理解できるようなことがあるんだなと思って」
「これでも私、賢い方なんですよ!? ムキィ――!」
今度はわざと怒らせてやった。
彼女は歯を食いしばり鬼の形相に。(自称)美少女顔が台無しである。もちろん元々可愛くはない。
ともかく、
「相手の居所がわかるなら行くに越したことはないわ。充分に準備してから行きましょう」
とりあえず夕食を取ってから、その場所へ出発することになった。
でも一体その場所とはどこなのだろう?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「うわぁっ、わっ、やめ、おえ、やめてくれ!」
「いえーい、ヒーローものにはアクションシーンが必須ですからねぇ!」
家々の屋根を駆け回りながら、アズミが夜空へ向かって高らかに叫ぶ。
彼女の肩に担がれた俺は気分が悪いことこの上ない。今にも吐きそうである。
一方、澄まし顔の智鶴は同じくアズミの肩に乗り、夜空の星について語っていた。
「あれがペガスス座。秋に見頃を迎える星座で、十一月の夜八時頃に頭上を眺めたら、同じ明るさの四つの恒星が四角形で輝いているのが目に留まるの。これは『ペガススの四辺形』と呼ばれいて、秋の星空を代表する星の並びなのよ」
だが、悲しいかな、その言葉を聞く余裕のある者は俺含めて誰もいない。
アズミは家の屋根瓦を蹴って、そこら辺の電柱に飛びついた。『重力操作』のおかげでこんなダイナミックアクションができているらしい。まるで映画のようである。
そのまま電柱をするすると上り、てっぺんに到達。そして、
「ジャァァァンプ!」
ジャンプというにはあまりにも超人的な威力で、空に向けて大跳躍したのだ。
するとすぐ「風刀」と声がし、先ほどまで星を語っていた智鶴が見えざる刃で天への階段を作る。それに無事着地したアズミ、彼女は階段を軽やかに駆け上がっていった。
息が苦しくなってくる。「これってもしや宇宙まで行ってしまって酸欠とかで死ぬんじゃないのか?」
「大丈夫ですよ。拓也くん、こういう時こそ『幻惑の光』です!」
曰く、人間というものは幻を見せられれば、脳内の錯覚により、空気がなくても耐えられるようになるらしい。
もちろん科学的にはそんなことはないだろうが、しかし案外人間の思い込みは強い。もしかしたらそういうこともあるかも知れなかった。
『幻惑の光』で、街の映像を映し出し、まるで普通の坂を登っているだけのように見せかけた。
空には相変わらずの満天の星空。もちろんそれも俺の作った幻だが、恐らく実際にはもっと星空と接近していると思う。
その偽物の星空を眺めながら、智鶴がまた何やら話し出した。
俺は少しばかりそれに耳を傾け、アズミが目的地へ到着するまでずっと聞き入っていたのだった。




