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男子達の嫉妬


 朝の学園登校時間、加江須は仁乃と黄美の三人で一緒に通学路を歩いていた。

 加江須の両隣にはそれぞれ仁乃と黄美が並んで歩いており、あさかぜを心地よく感じながら三人で談笑しながら学校を目指して歩き続ける。


 しばらくして学校近くまで歩いてきた三人、この辺りからはそれぞれのルートを辿って登校して来た生徒達の姿もちらほら見えて来た。


 しかし他の生徒達の姿が見える様になってから、加江須は嫌な視線を肌で感じる。


 「(……何だ?)」

 

 突然突き刺さるような視線を感じた加江須、しかもその視線は1つではなく複数であった。

 ゲダツの様な生命の危険は感じないが、身の危険は感じるので視線の発生源を確認して見る。


 ――ギリリリリリリリッ……!!


 加江須の事を見ていた者達の正体は全員が男子生徒であり、彼等は歯ぎしりをしながら加江須達を、いや加江須の事を見つめて、いや睨みつけていた。


 「(な、何だよ? あいつ等何で俺を睨んでるんだよ?)」


 登校中の男子生徒達から射殺さんばかりに睨まれ混乱する加江須。

 自分を見てくる男子達はほとんどが話もした事がない相手にも関わらず、まるで積年の恨みでもあるかのように見られる理由が自分には見当たらない。


 しかし加江須は気付いていないだろうが、彼の黄美と仁乃を挟んで歩いている今の状態は一般男子からすれば嫌味以外の何物でもなかった。


 「あいつ…愛野さんとあんな楽しそうに登校するなんて……!」


 「それに隣に居るのは3組の伊藤さんじゃねぇか!」


 「ぐぐぐ…美少女両手に登校なんて……羨ましい……!」


 「いや、むしろ妬ましい…!!」


 このように男子、特にモテない男からすれば加江須の今の状態は大変妬ましく、周囲からは嫉妬の籠った視線を向けられるのも無理ない事だろう。

 しかし肝心の張本人は睨まれる理由が解らず首を傾げる事ぐらいしかできなかった。


 しかも間の悪い事にこの状況でもう一人の女子生徒が三人の輪の中へと入って来たのだ。


 「おはよう黄美、今日は朝から機嫌よさそうね」


 声を掛けて来たのは黄美の親友である同じクラスの紬愛理であった。

 彼女はあくまで友人の黄美に話し掛けただけで加江須に好意があるわけではないが、周囲の男どもからすれば彼の元にまた一人可愛い女の子が合流した事実だけで怒りを倍増させるには充分であった。


 ――『『『あの男、独り身の俺達の前であんな可愛い子達を囲って……許すまじ!!!』』』


 男どもは加江須の手に入れた炎を操る能力に負けず劣らずの嫉妬のどす黒い炎を瞳に宿し、その黒い炎で加江須を焼き殺さんばかりに睨みつける。


 「(なんだか周囲の男子達の視線がますます痛い物に変わった気がするが…)」


 周囲から向けられる視線を気にしながら歩いていると、先程まで黄美と話していた愛理が加江須に話し掛けて来た。


 「久利君、無事に黄美と仲直りは出来たんだよね?」


 何気に気になっていた事なので加江須に確認を取る愛理。本人には聞きづらい事なので彼女もこの一件の問題に関しては黄美の口から答えをまだ聞いていないのだ。

 とはいえ正直、今の黄美の姿を見て聞くまでもないとは愛理自身も思っている。もし和解できていなければ黄美は未だに暗いままだろうし、こうして彼と並んで学校を登校していないだろう。だがそれでもきちんと知っておきたかったので加江須に聞く事にした。

 

 愛理の質問に対して加江須は小さく笑った。


 「ああ、黄美とはもう大丈夫だ。色々あったが、今はもう昔の幼馴染に戻れたよ」


 加江須がそう言うと愛理は無意識に自分の胸に手をやって安堵の息を吐いていた。

 まるで自分の事でもあるかのように安心しているその姿を見て改めて優しい友人だと加江須は思った。思い返せば仁乃に後押しされるよりも前、この愛理が黄美と話し合ってほしいと頼んできた位なのだ。


 「ん? 私の顔に何か付いているかな?」


 加江須に見られている事に気付き、自分の顔に何か付いているのか不安になり自身の顔をまさぐる愛理。

 

 「いや、黄美もいい友人に恵まれていると思ったんだよ」


 「おやぁ、それは私も口説いているのかな?」


 そう言いながら愛理は口元を隠して笑いながら再び黄美と談笑し始める。

 その後姿を眺めていると周囲の男どもとは違う視線を感じ、隣を見ると仁乃がジト目で自分の事を見ていた。


 「随分仲良さそうじゃない。私のいない間にあの娘と何か変な事でもしていた訳?」


 「別に普通に会話しただけだろ。何だよ変な事って…」

 

 加江須が頭を掻きながら変な誤解をするなと釘を刺すが、仁乃は腕組をしながら口をとがらせて昨日の自分の恥ずかしい体験を口にし始める


 「昨日私と黄美さんの裸見たでしょ。つもりはそういう事しているんじゃないかって事よ」


 「ぶはっ! している訳ないだろそんな事! 大体昨日は俺も悪いが悲鳴が聞こえて来たから心配しての行動だ。別にやましさから風呂場に突っ込んだわけじゃない…」


 「ふ~ん…」


 どこか疑いの籠った視線を向けられる加江須であるが、昨日の事を考えると正直自分の方が悪いと思うのでこれ以上は言い返せない、というより嫁入り前の女性の裸を見て置いて反論する資格があるとも思えなかった。


 「まったく…私と黄美さんが最初に好きだと言ったんだからもっと私たちを見なさいよ」


 それはとてつもない小さな声で呟かれたセリフであったが、転生者である加江須だけにはしっかりと聴こえており、前を歩いている仁乃に視線を向けると――


 「べー…♪」


 まるで悪戯が成功したかのように可愛らしく舌を出し、あっかんべーをする仁乃。そのまま彼女は黄美と愛理の会話に混ざり女子三人で楽しそうに会話をし始めた。


 「(……可愛い)」


 普段は見せないような仁乃の仕草に一瞬だけ胸がときめく加江須であったが、その余韻に浸る暇もなく、近くを歩いている男どもの嫉妬の視線に貫かれてついに身構えてすらしまう。


 「マジ何なんだよこの寒気の走る視線は……」


 その後も学園内に入るまで嫉妬に狂った男どもの妬みをぶつけられ続けた加江須。


 学園に入ると登校するまでは一緒だった仁乃も黄美もクラスが違うのでそれぞれ分かれ、加江須はここからは一人で自分のクラスへと入って行った。


 「おはよー……うっ!?」


 クラスの中に入った瞬間、先に登校していたクラスメイト達が揃ってこちらを見ていた。しかも男子の視線は一瞬とはいえ恐怖すら感じてしまう程の恐ろしさが自分の中に芽生えた。


 「お、おはよう…」


 適当に挨拶をしながら自分の席へと座る加江須であるが、席に着いた直後にクラスの男子達が自分の席を囲んできた。


 「(な、なんかデジャヴだな…)」

 

 転生して早々にバスケの試合で活躍した後、今の様にクラスメイトに囲まれた経験がある。しかしあの時は皆のほとんどが羨望の眼差しを向けていたが、今は周りに居るのは全員が男子であり、しかもその眼差しはあの時とは対極の嫉妬の念を籠められた眼差しで見られていた。


 「おいおいおい、お前たちどうした?」


 額に嫌な汗をかきながら一体何事なのかと思っていると、真正面に居た男子が加江須に顔を近づけて口を開く。


 「なあ久利…お前今日の朝は随分と羨ましい状態だったそうじゃないか」


 「え、羨ま…? 何の…」


 何の事だと言おうとするが、それよりも先に話しかけて来た男子は加江須の胸ぐらを掴んで来た。

 

 「とぼけんなぁ! 朝の通学路で両手に花の状態で見せびらかすように歩いていたくせにぃぃぃ!!」


 「「「そうだそうだッ!!」」」


 「うえええ!?」


 胸ぐらを掴んでいる男は声色は怒りに満ち満ちているが、その表情は涙を流しながら唇を嚙みしめて悔しそうな表情をしていた。しかもそれは自分を囲んでいる男子全員も同じような表情で涙ながらに自分の事を睨んでいた。


 「学園で人気がある愛野さんと仲睦まじく登校している現場をウチのクラスメイトも何人か見ているんだよ! しかもそれだけじゃ飽き足らずスタイル抜群で同じく美少女の伊藤さんとも仲良く話をしながら歩いていたそうじゃないか!!」


 「しかも愛野さんといつもよく一緒に居る紬ちゃんも居たそうじゃないかよ!! このハーレム野郎が!!!」


 クラスメイト達の言葉を聞いて今朝の視線の意味をようやく理解できた加江須。どうやら自分はこの場に居る男どもと同じ考えを持った者たちに嫉妬から睨まれていたという事だったらしい。

  

 「(今の状態の男どもをあまり刺激しない方が良いな。下手したら集団で襲い掛かってくる危険がある…)」


 冷静に状況を分析し始める加江須。少なくともここで自分が既に仁乃、黄美の二人から告白されているなど言おうものなら殴りかかって来かねない。まあ正直な部分を言えば神力で強化された自分がこの集団を全員相手取っても負けはしないと思うが……。


 「と、とにかく落ち着いてくれよ。黄美とは幼馴染で、仁乃とは少し共通する部分があったから少し距離が近くなっただけで……別にハーレム作ろうとか考えてねぇから」


 「一緒に居る女の子を名前で呼んでいる時点でスゲー仲いい証拠だろうが! 俺なんて…俺なんて数か月前に好きだった別クラスの娘の事を勇気を出して名前呼びしたら『あ、ごめん。名前で呼ばないでくれる?』なんて冷たい目しながら言われて告白する気力すら奪われてんだぞぉ!!!」


 「それは気の毒だけど俺に言われても!?」


 クラスメイトの聞いてもいない失恋物語を聞かされもうどうすればいいのか分からず困り果てていたが、クラス内にチャイムの音が響き女子達はそれぞれ自分の席に着く。

 加江須の席に集まっていた男子達も舌打ちをしながらそれぞれ自分の席へと座り始める。


 「ふぃ~…助かった…」


 何とか解放された加江須が大きく息を吐き、額にじんわり浮かんでいた嫌な汗を拭う。

 

 なんだかこの先の学園生活が色々と大変になったのではないかと思いながら外を眺める加江須。

 彼の気疲れとは真逆に外は太陽の光でキラキラと輝いており、思わず今日はこのまま家に帰りたくなってしまう。恐らく休憩時間にでもなればまた同じ展開になる事が目に見えているがために……。



 

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