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失恋した直後に死んだら俺にハーレムができました。恋人達は俺が守る!!  作者: ゆうきぞく
第十一章 ラスボ討伐編 その1
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広がって行くゲダツと転生戦士の戦争


 悪感情の権化であるラスボにとってこの街で重要な存在なのは優秀な戦力として見て取れる存在、つまりは形奈の様な幹部として抜擢した人材だけだ。その他の下についている半ゲダツは勿論、そもそも血を受け入れられないと判断した一般人などは捨て駒だ。代用がいくらでも効く消耗品に過ぎない。それはラスボに認められた幹部に成りあがった形奈たちも共通の思いだ。


 援軍に来た部下たちがディザイアに蹴散らされている光景を見ても形奈は何一つ狼狽している様子はない。何故なら元よりあの連中がどうにか出来るなどと期待などしていなかった。

 だから彼女はどうせ勝てないのなら目くらましとして活用させてもらおうじゃないかと考えていた。


 自分の視線の先では懸命にディザイアの事を倒そうとしている部下と言う名の木偶たち。戦力として役立っていないがディザイアの注目が木偶人形たちに集まり自分から注意が逸れている。

 

 「お前たちが援護に来てくれて本当に助かったよ。精々壁としての役割を全うとしてくれ」


 その言葉と共に形奈は神力で形成した剣を伸ばして部下の1人を背後から無慈悲に貫いた。

 まさか味方から後ろから刺されるとは思っていなかった男は体を貫かれながら驚愕の顔を張り付けている。口からはゴボゴボと血を吐き出しながらグルンと白目をむく。

 そして男の腹を貫いている直線状にはディザイアが立っており、伸びて来た刃は彼女の腹部を深く抉っていた。


 「が…あ…!?」


 神力で形成された剣先が腹に突き刺さりディザイアの表情が苦悶に歪んだ。神々の力たる神力の刃はディザイアの身体に突き刺さった部位に灼けるかの様な激痛が走らせる。

 彼女の苦しそうな顔を見ると今まで煮え湯を飲まされていた形奈の溜飲が下がった気がした。


 「どうした女ゲダツ? 随分と苦しそうじゃないか」

 

 「ぐっ…」


 ディザイアは傘を振って目の前の男たちを牽制しながら間合いを取ろうとするが、形奈は先読みをして一番近くに居た男の襟首をつかむとディザイアへと放り投げた。


 「うわああああ!?」


 「ぐっ、こんなコケ脅しで!」


 またしても部下を目くらましに使ってくる形奈に対して舌打ちをしつつ飛んでくる男を蹴りで弾いてやろうとする。だが蹴りを入れるとほぼ同時に飛んできた男の体から再び神力の刃が腹を突き破り飛び出てくる。またしても形奈は部下を目くらましに使い背後から剣を伸ばして来たのだ。


 「二度も同じ手にかかる訳がないでしょう!」


 男の身体を二つに分離しながら伸びて来た神力の剣を今度は身を低くして躱す。だがまたしても形奈は先読みをしており、なんと彼女は手に持っていた本物の刀を投擲して来たのだ。

 凄まじい速度で風を切りながら飛んできた刀に気付いて回避しようとするディザイアであったが、今度は間に合わずその刀は彼女の片目に突き刺さった。


 「ぐっ…あ…あぁ…!?」


 咄嗟にのけぞったお陰で飛んできた刀は片目を抉りはしたがギリギリで頭部を貫通する事はなかった。しかし片方の眼球が損失して視野が半分死んでしまう。

 

 「ディザイアさん!?」

 

 片目を潰された彼女の姿にイザナミは明白な動揺を見せる。

 

 「隙ありだ女!」


 イザナミに複数で囲んで攻撃を仕掛けていた半ゲダツや一般人たちは動揺の隙を付こうとした、だがイザナミの目付きが鋭くなったかと思うと彼女の速度が一気に上昇したのだ。凄まじい速さで放たれた手刀や蹴りは一瞬で自分を囲んでいた敵を蹴散らした。

 手加減の余裕が無かったために一般人たちはその一撃で完全に意識を失い、そして半ゲダツたちも攻撃された部位を押さえながら膝をつく。

 自分の周りの敵を撃破した彼女は最速でディザイアの元へと向かおうとするが、そんな彼女に向かってまたしても敵がボールの様に飛んできた。


 「ぐっ、また仲間を投げ飛ばして…!」


 イザナミは出来る限り命を奪わぬように加減して飛んでくる男を蹴りで弾く。

 蹴りを入れた際にボギッと言う嫌な感触にイザナミは顔を歪めるが今はディザイアの元へと向かう方が先決だ。だが飛んできた男に気を取られて一瞬だがイザナミは動きを止めてしまった。その隙に形奈は激しくダメージを負っているディザイアへと接近していた。


 先程の投擲で落ちた刀を拾いながら形奈が言った。 


 「お互いこれで視界が片方死んでいる状態だ。さあここからはフェアに戦おうじゃないか」


 「ぐっ、抜かしなさい!」


 両者は残っている1つの眼球を見開きながら目の前の相手へと手に持っている獲物をぶつけ合った。

 高速で振るわれる強化を施されている刀と傘が何度もぶつかり合って火花が散る。その獲物が空中でぶつかり合う速度は一般人はもちろん半ゲダツの連中にすら目で追いきれる事が出来ない程であった。

 あまりにも桁違いの近接戦闘に圧倒されて佇んでいる部下どもに形奈が声を掛ける。


 「おいお前たち。一体いつまで呆けているつもりだ?」

 

 刀を振りながら話しかけて来た彼女に周りに居た部下共はビクッと肩を震わせる。だが先程に彼女に肉壁として利用されて死んだ男の無残な最期に怯え金縛りにあったかのように動き出せずにいた。

 そんなビビっている部下に形奈は続けて指示を与える。


 「この傘女はもう私だけで充分だ。お前たちはもう片方の女をどうにかしろ」


 そう言いながらチラリと視線をイザナミへと向ける形奈。

 部下たちとしても形奈の援護に回ればまた盾として扱われると思ったのか誰一人異論を唱える事なくイザナミの方へと全員が迫って行く。


 「ぐっ、邪魔です! どいて下さい!!」


 残りの全ての部下達が物量で押しつぶそうとしてくるがイザナミは冷静に対処する。しかしやはり数が多すぎてディザイアの援護に向かう事が出来ずにその場に留められてしまう。


 イザナミが部下達によって足止めをされているチャンスを逃さず1対1の状況に持ち込めた形奈はディザイアを始末しようと刀を全力で振るい続ける。


 「一騎打ちなら私の方が優勢であることはお前も知っているよな。ここで処理させてもらうぞゲダツ女」


 「ぐうううううう…!」


 ハッキリ言ってしまえばディザイアの実力では形奈を倒す事は難しいだろう。彼女の特殊能力もこの女が相手では効力がない。現にディザイアの振るう傘は全てガードされるが逆に形奈の刀は少しずつ彼女の肌を裂いて行く。しかも腹部には大きな負傷を背負っているのだ。

 そして遂に致命的な損傷をディザイアは受けてしまうのだった。


 「そら! まずは片腕を貰ったぞ!!」


 「ぐ、あああああああ!!」


 形奈の刀を握っている手とは反対の左手から神力の剣が伸び、その神力の刃は彼女の左腕を切断したのだ。

 凄まじい激痛と共に彼女の左腕が空中へと回転しながら飛び、切断面からは大量の出血、そのせいで意識が一瞬だが途切れてしまう。


 だが次の瞬間、腹部へと突き刺さる灼熱の痛みで彼女の意識は強制的に再覚醒する。


 「ごぼっ……ごほっ…ごほっ…」


 血を吐きながら咳き込みつつ視線を下に下げてみると深々と刀の切っ先がめり込んでいる。そこから視線を前に移動すると不敵な笑みと共に形奈の勝利を確信した顔が映り込む。

 

 「さよならだゲダツ。転生戦士と組まなければ死なずに済んだだろうに…」


 その言葉と共に腹部へと突き刺さっている刀を腹の中でグルリと刃を上向けにして動かし、そしてそのまま腕を上に動かした。

 ディザイアに喰い込んでいた刃はそのまま彼女の腹を裂いて鮮血を辺りへと撒き散らした。


 「う…あ……」


 そのまま血の滴を地面に落としながら彼女は仰向けで倒れて行った。


 「ディ、ディザイアさあぁぁぁぁぁん!!!」


 イザナミの悲痛な声が公園内へと響き渡った。




 ◆◆◆




 加江須たち一同がラスボの部下と交戦している中、この旋利律市内では彼等以外にもラスボの手の者と戦闘を行っている者は居る。特に今この旋利律市にはラスボを倒そうと外から足を運んできている転生戦士が複数人存在するのだ。

 実際にこの旋利律市に来てから加江須たちは早々に他の転生戦士との遭遇も果たしている。その男の名前は金森銭と言い、彼はラスボの下に付いている半ゲダツの1人から情報を聞き出して対ラスボの為の対策を立てていた。


 だが転生戦士が常に相手を狩る側とは限らないのだ。逆に狩られる獲物の立場に立たされる事だってある。


 人気の少ない路地に1人の男性と2人の女性が向き合って立っていた。いやこの表現は少々正しくは無いだろう。何故なら男の方は全身の至る箇所から出血をしており瀕死の状態であった。

 まるでボロ雑巾の様な男を対面上に居る二人の少女が指を差しながら会話を繰り広げている。


 「ねえマリヤ、この転生戦士は使えると思う?」


 「どうかなぁ? 予想以上に弱くて少し迷うねぇ。でも転生戦士なんだから半ゲダツよりは〝傀儡〟として利用できるんじゃないかなマイヤ」


 紅葉色のショートボブの髪型のマイヤと呼ばれる女性と水色のショートヘア―のマリヤと呼ばれる女性は目の前で膝をガクガクと震わせている男をまるで物の様に扱うかどうか話し合っている。その舐め切った態度に重症を負っている男、金森銭は痛む全身に鞭打ち怒声を上げる。


 「チクショウが。さっきから人の事を物の様に言いやがって! この腐れゲダツ共が!!」


 人気の無い狭い路地に転生戦士である金森の怒号が響き渡る。だがマリヤとマイヤはそんな彼の咆哮に怯まずむしろケラケラと笑い出す。


 「ねえマリヤ、コイツまだこんな減らず口を叩いているよ? 私1人にすら勝てないくせに」


 「本当だねぇ。でもここまで啖呵を吐けるなら〝傀儡〟にする価値はあるんじゃないマイヤ」


 そう言いながら二人は同時に前方に跳び出して死に掛けの金森の首目掛けて左右から蹴りを放った。

 もう既に満身創痍の金森はほとんど反応できずに左右から挟み込むように襲い掛かる蹴りをモロに受けてしまい、その結果首の骨がへし折れた。

 

 「ぶぶっ………ぶっ……」


 常人離れの威力の蹴りで首の骨をへし折られた金森は口の端から血泡を吹きながら空気が抜けたかのような不気味な言葉を漏らし絶命する。

 マリヤとマイヤは自分たちの足元で首がひしゃげた死体をつま先で蹴りながらクスクスと笑う。


 「よしバッチリ死んだわよマリヤ」


 「そうだねぇ。それじゃあ早速〝人形〟にしていこうかマイヤ」


 そう言いながら二人は骸と化した金森の身体を何やらベタベタと触っていると思うと信じがたい現象が発現した。


 「………」


 もう既に死んでいる金森が無言でゆっくりと起き上がったのだ。

 彼は歪に曲がった首を自らの手でゴギリと直すと虚ろな瞳をマリヤとマイヤに向ける。


 「じゃあお人形さん。今この旋利律市に居る転生戦士たちを殺して来てちょーだい♪」


 マイヤは笑顔でそう命令を下すと金森は無言で頷き路地を後にする。

 

 旋利律市で勃発しているラスボと加江須たち転生戦士の戦いはどんどんと泥沼化して行くのだった。



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