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失恋した直後に死んだら俺にハーレムができました。恋人達は俺が守る!!  作者: ゆうきぞく
第十一章 ラスボ討伐編 その1
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あまりにも呆気ない最期、そして現れる最悪の女


 「~~~と言うのが作戦よ」


 「……上手くいくのかよその作戦? 他の物体ならまだしも金属同然のアイツに」


 仁乃の立てた作戦を聞いて氷蓮は半分は納得、もう半分は半信半疑と言った具合であった。そんな都合よく良くのか? と言う目を仁乃へと向けている。

 だが疑るかのような視線を向けている氷蓮とは違い余羽は異論はないと言った感じであった。


 「私はその作戦はアリだと思うけど。確か…低温脆性? とか言って金属でも通用したと思う」


 「まあ…確かに現状じゃ他に手もなさそうだしな」


 「よし…それじゃあ行くわよ二人とも!!」


 仁乃は叫びと共に一気に豪胆へと向かって行く。


 氷蓮の攻撃で飛ばされた彼はむくりと起き上がるとこちらに跳んできている仁乃を見てニヤリと笑った。


 「今度はお前が相手してくれるのか! いいぜ、どんな能力か魅せてくれよ!!」


 全身を鋼鉄化して強化を施し同じく仁乃へと一気に跳躍する。

 

 こちらへとロケットの様に突っ込んで来る豪胆を仁乃は冷静に見極めており、両手の平から大量の糸を放出する。そして自分に激突してこようとしてくる豪胆の肉弾をひらりと避け、大量の糸をその巨体へと巻き付けてやった。


 「なんだこの程度の糸で俺を縛り付けたつもりか?」


 体中を巻き取られても豪胆の顔には不敵な笑みが消えてはいなかった。

 彼の能力は肉体面の強化の部類だ。その気になればこの程度の糸など一瞬とは言わずとも数秒で引きちぎれる。先程はクリアネットで糸自体が見えずに戸惑っていたが体を拘束していた正体が解明できたなら引き千切るだけでいい。


 「おうりゃあ!!」


 「ぐ…この馬鹿力めぇ……!」


 仁乃の糸には神力が籠められているのでそうそう簡単には切断できない。だが完全な肉体強化系のこの男相手では長時間の拘束は無理だ。数秒も押さえられず強引に糸を引き千切るだろう。

 だがそんな事は仁乃だって百も承知だ。だからこそ長時間拘束できるようにサポートを求める。


 「お願い余羽さん! 今にも千切れそうな〝糸の修復〟をお願い!!」


 「任せておいて!」


 仁乃の言葉にほとんど間を置かず即答した余羽は彼女のすぐ傍まで駆け寄り、彼女の手の平から伸びている糸を両手で握った。すると彼女の修復能力が発動し千切れかけの糸が新品同様に戻る。


 「ほお…面白い事考えるな…」


 豪胆は仁乃と余羽の狙いに気付き不敵に口角を上げる。

 どうやらあの余羽とか言う女の持つ能力は回復と言うより修復の類である事に気付いた。そしてその力で千切れそうな自分を縛り付けている糸を新品に戻しているのだろう。


 「だが所詮は子供の思いつく策だな!」


 確かにこの方法ならば通常よりも長い時間拘束しておくことが出来るだろう。だがいずれは引き千切れるのは明白だ。


 「それでこの隙にお前が俺に攻撃でもするのか?」


 そう言いながら豪胆は縛られながら首だけ後ろに向けると同時、自分の背中に氷蓮が抱き着いてきて密着して来たのだ。


 「くそ、作戦の為とは言えこんなゴリラと密着だなんて怖気が走るぜ」


 背中に頬が接地するほどに密着状態となっている氷蓮に対して豪胆は面白そうに笑って来た。


 「おいおい熱烈なハグだな。俺様に惚れでもしたのか?」


 「んな訳ねぇだろこのクソゴリラが! てめぇを倒すために仕方なくだよ!」


 そう言うと同時に氷蓮は全身からありったけの神力を籠めた冷気を放出した。

 まるで吹雪の中に居るかと錯覚するほど冷気に覆われて少し慌て始める豪胆。


 「ぐっ、離せコイツ!」

 

 自分にへばり付いている彼女を引っぺがそうと試みる豪胆であるが仁乃の糸で拘束され思うように振り解けない。

 体を捻ったりして氷蓮を引きはがそうと奮闘している最中に彼女は不敵な笑みと共にこう言った。


 「なあお前知っているか? 硬いものとか氷漬けにすると壊れやすくなるよな? じゃあこのままお前に神力入りの冷気を浴びせ続けるとどうなるだろうな?」


 「……お前まさか!?」


 「鋼鉄並の体もガチガチに凍れば砕けやすくなるよな」


 ここに来てようやく豪胆は彼女たちの狙いに気付いた。

 自分の肉体は鋼鉄と同等の強度を誇っている。だが神力を含んだこの凍てつくほどの冷気を浴びせられ続ければどうなるか? 血液の循環が停止し更には筋肉も凍結して行く。そんな状態で攻撃を受けたりすれば……。例えそれが鋼鉄と同等の強度を誇っていたとしても粉々だろう。


 「ぐっ、離れろおぉぉぉぉ!!」


 豪胆はようやく今の状態に危機感を感じて自分を拘束している糸を引き千切ろうとする。だが仁乃は糸に神力を送り続け、そして余羽の能力のサポートでほつれても瞬時に糸を修復する。

 

 「絶対に離さないわよ!」


 仁乃はありったけの神力を今手の中に握っている糸に送り続ける。

 神力を多分に練り込まれている糸は豪胆の剛力でも簡単には引きちぎれず、しかも冷気に包まれ続けて感覚も麻痺し始めていた。


 「こ、こんな間抜けな殺り方なんて恥ずかしくねぇのか…」


 手足が凍えついにかじかんで来た豪胆は命乞いとも取れる非難を背中にへばりついて冷気を浴びせ続けている氷蓮へとぶつける。

 だがそれに対して彼女は恥じる事なく口にする。


 「人食いのゲダツに協力している転生戦士に偉そうに言われる筋合いはねぇな。それに俺のダチまで殺そうとしたんだ。今更命乞いなんてすんじゃねぇよ」


 まるで氷の様な冷たい発言にようやく命の危機を感じ恐怖が滲み出て来る豪胆。


 「(や、やべえ。このままだと氷漬けにされて殺される!)」


 こんな小娘共に殺されるなど死んでも御免だと内心で叫ぶ豪胆。

 彼は彼女たちに殺される気などさらさらない。と言うよりもハッキリと言えば戦いに敗れて死ぬ事すら考えた事もない。ただ与えられた力を存分に振るって暴力に生きたかっただけだなのだ。そこに命を懸ける覚悟なんて露程も無かった。


 「死んで…たまるかあぁぁぁぁ!!」


 しかし現状、じわじわと凍らされているこのままでは間違いなく自分は死んでしまうだろう。そんな末路を回避しようと腹の底から怒号を吐き出しながら全身から神力を放出して拘束を引き千切ろうとする。

 火事場の馬鹿力とはよく言ったもので死の縁に立たされた豪胆はかつてないほどの力がみなぎりなんと仁乃の糸を引き千切ってしまったのだ。


 「うらぁ離れろ!!」


 糸の切断に成功した彼は凍えて震える剛腕を振り回してへばり付いている氷蓮を振り払った。


 「ぐっ、マジかよコイツ…!」


 もうあと少しで完全冷凍と油断していた。まさか振り払われるとは思わず焦りが浮かぶ。それは仁乃と余羽も同じであったが、仁乃はすぐに再び拘束しようと糸を射出する。

 だが今度掴まってしまえば確実に終わりだと判断した豪胆は足に神力を集約して床を思いっきり蹴って拘束を回避する。


 「このクソガキ共が!!」


 凍える手足に神力を流して無理やり動かしながら豪胆は仁乃たちから距離を置く。

 

 「(不味い…体が思うように動いてくれねぇ。くそ、回復まで時間を稼がねぇと…)」


 今のコンディションでは先程と同じように戦い続ける事は出来ないだろう。しかし今は拘束を解かれた事に唖然としている様だが奴等もすぐに攻撃を仕掛けて来るだろう。そこまで思考が行くと彼は迷うことなく3人に対して背を向けて逃走を開始した。


 「あっ、逃げんじゃねぇてめぇ!」


 いともアッサリと敵前逃亡を選択した豪胆に怒鳴り声を上げる氷蓮であるがそんな言葉を律儀に守る必要は無い。


 「(今に見てろクソガキ共! 少し肉体の回復を待ったらすぐに殺しに行ってやる!!)」


 逃げを選択した彼ではあるが女3人にしてやられた事に対して何も感じない訳がない。次は確実に1人1人遊ぶことなくぶち殺すと心に誓い今は恥を忍んで逃げる事に集中する。


 だが彼が走り出してから3、4歩ほど足を動かして耳元から謎の声が聴こえて来た。


 ――『あーらら、見た目に反してチキンだったわね。私も殺し合いに参戦しようか考えていたけどもういいわ』


 耳元に囁かれた声色は完全に女性のものだ。だがその声は今まで戦っていた仁乃たちの誰とも違う。

 声の聴こえて来た方へと顔を向けるがそこには誰も居ない。ただの空耳だったのかと思いもう1歩足を前に動かそうとした次の瞬間――突然腹部から激しい爆発が起きた。


 「おぶえええええ!?」


 まるで意味不明であった。いきなり腹部が爆破して肉と血が辺り一面に飛び散り、灼ける様な熱と想像を絶する痛みが腹部周辺から発生した。


 「な…に…が…?」


 大量の出血と臓器の損傷により意識が凄まじい勢いで薄れて行く。あまりにも突然の出来事にこのままでは死んでしまうと言う考えすら思い浮かばなかった。

 そして…豪胆はあまりにも呆気の無い最期を向かえたのだった。


 死んでしまった豪胆だけでなく仁乃たちも目の前で起きた惨状に目を白黒させていた。


 「なに…なになになに!? 今何が起きたの!?」


 「俺に聞くなよ!」


 余羽が氷蓮の肩を掴んで揺らしながら何が起きたのかを尋ねるがその答えを彼女が知っている訳が無い。自分たちの目の前で無残な死体を前に戸惑う二人、だがその中で仁乃だけはうつ伏せで血濡れとなっている亡骸を見て訝しんでいた。


 「………」


 何の前触れもなくいきなりの爆死、自分の記憶の中にはこの芸当が可能な存在が1人だけ居るのだ。


 ――『お久しぶりね仁乃さーん♪』


 耳元に聴こえて来た声はとても不愉快で聞き覚えがある。そして隣に瞳を向けてみるとそこには予想通りの人物が立っていた。


 「お久しぶりねぇ。こんな所で顔を合わせるなんて奇遇ねぇ」


 「久しぶりね……仙洞狂華……」


 自分の隣に居るのはかつて遭遇した狂った転生戦士――仙洞狂華であった。



 

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