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失恋した直後に死んだら俺にハーレムができました。恋人達は俺が守る!!  作者: ゆうきぞく
裏第一章  弱気己脱却編
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弱気な少年の地雷 


 「……と言う事であなたはこの転生の間へと呼びこまれたんスよ。おめでとーございます!」


 「は、はあ…」


 目の前のヤソマガツヒノカミと名乗る女神から一通りの話を聞いた河琉であったがまだ混乱が抜け切る事は無かった。

 

 どうやら自分たちの住んでいた世界ではゲダツと言う化け物が生息しており、その化け物は普通の人間には姿も声も聴きとれない。そしてゲダツに殺されればその人物の情報は世界から消えてなくなるらしい。そんなゲダツを討伐する為、自分の様に転生戦士と言われる存在の資質を持つ人間を生き返らせて地上で戦ってもらうらしいのだ。


 「じゃあ僕はやっぱり死んだんですね」


 「その通りっス。通り魔に殺されたみたいっスね」


 ヒノカミはそう言いながらいつの間にか手に持っていた書類の様な物を見て頷いた。もしかしてあの書類に死の原因などが記載されているのだろうか。

 

 「死亡理由に関しては同情するっスよ。でも考えによっては超人となって生き返れるので儲けもんとも言えるっスよ」


 「そ、そうでしょうか?」


 「そうっスよ。だってチートになって生き返れるんっスよ。見方によっては勝ち組っスよ!」


 話を聞く限りでは自分はただ生き返るだけでない。ゲダツとやらと戦う為に神力と呼ばれる力を手にし、さらには特殊能力も1つ手に入れて生き返れるらしいのだ。そうなれば一般人とは比較にならない力を持った超人になれるらしい。だがだからと言って死んだことを良かったなどと素直に言えないと思うが。

 それにまだその転生戦士とやらになると了承した訳でもない。


 「あの…その転生戦士になるかどうかは自分で選んでいいんですよね?」


 「それはまぁそうっスけど…まさか断るんっスか?」


 河琉がどこか乗り気でない事を察して少し驚くヒノカミ。

 彼は顔も名前も知らない通り魔に理不尽に殺されたのだ。そんな死に様は普通に考えれば納得など出来るはずも無いだろう。そこに生き返るチャンスを与えられるとなれば喜んで飛びついて来るとばかり思っていた。

 だが目の前の少女の様な少年はどこか迷っている感じがする。


 「えーと…何で悩んでいるんっスか? だって河琉さんは知らないヤツのせいで死んだんでしょ? 巻き込まれて通り魔に殺されましたなんて死んでも死にきれないっしょ?」


 「それはそうですけど…でも僕なんかにゲダツ、化け物と戦うなんて無理ですよ」


 ただ純粋に生き返らせてもらえるのであれば彼も迷いなどなかったのかもしれない。しかし化け物と戦う使命が課せられる事は河琉にとって悩みどころであったのだ。なにしろ自分は化け物はおろかクラスメイトの同じ人間にすら逆らえずにイジメられるほどに心身ともに脆弱なのだ。とてもそんな使命を全うできるとは思えない。


 「僕は生きている頃だってナヨナヨとした情けの無い男でした。同じ年の男の子相手にすら怯えて毎日を過ごしていました。そんな僕が異形なんかと戦うだなんて…」


 「う~んなるほどねぇ」


 長年染み付いてきた弱気な性格と言うのは中々変わるものではない。いじめと言う問題は中々に人の心に爪痕を残すものだ。中には立ち直れずに外の世界が恐ろしくなり自宅に引きこもる者だっている。

 さすがに河琉はそこまで追い詰められてはいなかったが、それでも学園で何度も理不尽な暴力にさらされ続けられた彼はすっかり脆弱な心となり果てていた。

 そんな自信喪失気味の河琉にヒノカミはポンと手を叩いてこう言った。


 「う~ん…ならこれを機に強い男になろうとすればいいんじゃないんスか? せっかく一度死んだんだし生まれ変わるつもりで」


 「で、でも僕には…」


 やはり自分には自信がない。そう返答しようとする河琉であったがヒノカミは彼のオデコを軽くデコピンした。


 「もうウジウジしないっスよ。男子たるものそんな事でどうするんスか」


 そう言われると確かに自分が情けなく思えて来る。特に自分は無抵抗にいじめを受け、そしてソレを誰にも話せない様な軟弱な精神の持ち主だ。そんな男のまま死んでいくのはいくら何でも惨めすぎる。


 「……分かりました。そのお話受けます」

 

 まだ少し不安を拭いきれないが河琉は力強い目をヒノカミへと向けて転生戦士となる事を受け入れるのであった。


 こうして第二の人生を歩むこととなった河琉。

 彼はその後に転生戦士となった際に願いを叶える機会を与えられる報酬の件、くじ引きで特殊能力を手に入れる事を含めて色々と説明を受けるのであった。




 ◆◆◆




 ヒノカミの手によって無事に生き返った河琉は気が付けば自分のベッドで目が覚めた。

 それからの彼は取り立てて日常に顕著な変化は見られなかった。生き返った際に時間は一週間巻き戻っており未だ夏休み中である。

 しかし日常に変化はなくとも自分自身は大きな変化を遂げていた。


 「……えい!」


 気晴らしに外を散歩していると彼は何気に足元に転がっていた石ころを手に取りソレを強く握った。

 彼の手の中で圧迫された石ころはバガンッと音を立てて細かく砕けたのだ。


 「やっぱりなんか違和感があるよね」


 生き返ってから彼は転生戦士となりその身体能力は死ぬ前とは比較にならない程に強化を施されている。ほんの力強く握りしめるだけで自然の石が砕けるのだ。

 

 だがここまで強くなれたにもかかわらず未だに彼の精神の方は軟弱なままであった。


 「いい天気だなぁ。まさに平和そのものだよねぇ」


 空を見上げると一切淀みを感じない青い空が広がっている。

 自分を蘇らせたヒノカミ様が言うにはこの世界にはゲダツと呼ばれる化け物が生息しているらしいが、生き返ってからもう一週間も経過して自分が死んだ日まで何もないまま過ごしていた。

 てっきり生き返ってからは戦いの日々だとばかり思っていたが特に死ぬ前と変わらない変化の無い日常を繰り返している。


 しばしの間特に当てもなく散歩をしていた河琉であったが、彼は今日が自分の命日であった事を思い出して何気なく空地へと向かった。


 「……確かあの日はここで傲慢にカツアゲされてその後に死んだんだよね」


 そう言いながら生前の自分が這いつくばっていた空地の中心を眺めていた。

 そして1分ほど佇んでいるとこの場を立ち去ろうとする河琉であったが、振り向くと同時に誰かと体がぶつかった。

 

 「あ、すいません」


 軽い謝罪と共にぶつかってしまった相手に頭を下げようとする河琉であったが、自分が接触した相手の顔を見て思わず息をのんでしまった。


 「よお奇遇だな。こんな所で顔を合わせるなんて」


 彼がぶつかった相手はもっとも自分が恐れを抱いている傲慢であったのだ。

 まさかの人物との遭遇に反射的にこの場から逃げようとする河琉であったが、それを見逃してくれるほどこの男は甘くはない。背を向けて逃げようとする河琉の襟首を掴んで引き留めて来た。


 「人の顔を見るなりに逃げようとするなよ。同じクラスメイトだぜ。失礼な態度だろうが」


 そう言う傲慢は嫌らしい笑みを浮かべている。

 そして彼はそのまま河琉を目の前の空地の中央まで引っ張って行った。


 「さーて、逃げようとした罰だ。お前財布出せよ」


 一体何が罰なのか分からないまま彼は財布を出すように促す、いや命令をして来た。

 思い返してみるとあの日も今と同じように財布を出す様に命令して来た。そしてあの日は断ると思いっきり殴られた。

 そこまで考えていると傲慢は右腕を引いて怒声と共に拳を繰り出して来た。


 「なにシカトしてんだよお前。早く財布出せや!」


 一切の遠慮なしの拳は風を切りながら河琉の顔面へと向かって行く。


 「(あ、あれ…遅いぞ)」

 

 かつての自分は殴り飛ばされるまでは何が起きたかすら理解できなかったが、今の神力によって超人化している河琉にとっては一般人の振るう拳など止まって見える。現に不意打ち気味で繰り出された拳を眺めながらこんな事を考える余裕すらあるのだ。

 もう鼻先まで差し迫っている拳を顔をずらして回避すると、勢いよく突き出した拳に引っ張られて傲慢が前のめりに倒れ込んでしまった。


 「あ…その…」


 間抜けに顔面から地面にキスをしてしまった傲慢を見て河琉が思わず謝ろうとしているが言葉が出てこない。


 「この野郎が!! よくもやりやがったな!!」


 地面に倒れ込んでいた傲慢はすぐに体を起こして河琉を睨みつける。今の空振りで彼の怒りは一気に怒髪天を衝き目は血走り額からは血管が浮き出ている。

 彼は再び拳を固く握ると今までの中で一番の威力の拳を振るった。今までは軽く痣になる程度で済んだかもしれないが鍛え上げた彼のこの全力パンチは下手をすれば歯も折れるかもしれない。


 だがその拳が脅威なのはあくまで彼と同じ一般人にしか当てはまらない。彼の眼の前に居る人物は見た目はひ弱そうな少年だがその実は一般人とは比較にならない強さを内包している超人だ。


 「あぶなっ…やめてよ!」


 「なっ、また!?」


 彼の速度の乗った拳はまたしても空を切る事になり、そのせいで彼の怒りは益々増大する。


 「逃げてんじゃねぇぞこのチビがッ!!」


 そう罵声を浴びせながら傲慢は拳を振るい続けるが全て回避されてしまう。


 「(どうなってんだよこれは!? 何で俺のパンチが全然当たらないんだよ!?)」


 自分の攻撃を全て紙一重で回避し続ける河琉に対して彼は怒りと焦りを浮かべながら拳を振るい続ける。しかしそんな自分を嘲笑うかのようにすべての攻撃が虚しく空回りし続ける。

 いつも無抵抗に殴られている目の前のチビが自分の攻撃を避け続ける事に苛立ちが募る。だがその怒りを発散しようにも攻撃が当たらず腹の中に溜まり続ける。


 「避けるんじゃね…うわっ!?」


 思いっきりブンッと振り回した腕が空回りし、そのまま遠心力のせいで体制を崩してたたらを踏んでしまい、もう怒りで頭がどうにかなりそうであった。


 「こ、このチビが! ひょいひょいと羽虫みたいに躱しやがって!!」

 

 「そ、そんなこと言われても…」


 相手の傲慢は攻撃を避けられる事に怒り心頭らしいがだからと言って無抵抗に殴られるなど御免被る。

 このまま大人しく帰ってくれないかと思う河琉であったが、帰るどころか傲慢は目を血走らせて益々興奮している。


 「てめぇ何でそんなに避けられんだよ! 運動神経なんてろくに無かったクズのくせに」


 「ご、ごめんなさい」


 平然とクラスメイトにカツアゲをする彼の方が万倍クズであることは間違いないが彼は何も言わずただ頭を下げるだけであった。

 この期に及んでも彼はまだ弱い自分から脱却できずにいたのだ。


 「はあ…はあ…上等だぜ。お前がそう言う態度取るなら俺もこれからはやり方を変えようかな」


 「え、何の話?」


 傲慢の言っている意味が分らずどういう事かを尋ねる。

 彼は息を整えながら醜い笑みと共にこう言ってきたのだ。


 「お前が金出す気がないならお前の親から奪い取ってやるよ! 確かお前の家って母子家庭だよな。お前が出すもん出さねぇなら母親から盗ってやるよ」


 「…………え?」


 傲慢のその言葉は今まで頭を下げ続けていた彼に変化をもたらせていた。しかしその事に気付いていない傲慢は尚も続ける。


 「お前が悪いんだぜ。お前が今まで見たいに文句言わずに金さえ出せば親の方までには手を出す気なんてなかったのによ。でもお前が反抗するなら仕方ねぇよな!!」


 下品な笑い声と共にそう言う傲慢の顔を呆然と見つめる河琉。

 今もまだ何やら彼はほざいている様だがもうあの男の言葉は耳に入ってこない。


 ――僕だけじゃ飽き足らず僕の母さんにまで手を出す気なのかこいつは?


 そう思うと同時であった。彼の視界は真っ赤に染まり気が付けば馬鹿笑いしている傲慢の顔面を拳で撃ち抜いていた。



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