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水中戦と剥ぎ取られた水着と


 ゲダツのたこ足によって氷蓮の水着のブラは引っ張られ彼女は上半身が丸出しとなってしまい、その光景をまともに直視した加江須が顔を真っ赤にして背を向ける。


 「うおっ! み、見るなバカぁ!!」


 「見てません見てません!!」


 自分の胸元を両手で隠して首から下まで海の中に浸かる氷蓮。

 間抜けにも水着を剥ぎ取られた氷蓮を呆れながら見ていた仁乃であるが、すぐにハッとなり海水に浸かる彼女に慌てて立ち上がるように促した。


 「バカ氷蓮! 相手は海水内で今も泳ぎ続けているのよ。そんな体ごと水に浸かっていたら狙われ……!!」


 そんな仁乃の警告に我に返ってすぐに立ち上がろうとした氷蓮であったが、その判断がほんの一瞬だけ遅かった。


 彼女が海水から体を出そうとする直前、足首に何かが巻き付いてきた感覚がしたのだ。


 「このタコが!! 舐めんじゃねぇ!!」


 自分の足首に巻き付いているであろうタコ足を氷で作り上げた剣で斬り落とそうとするが、その手に持っている剣を彼女が振り下ろす事はなかった。


 「な…あ…?」


 何故なら剣を振り下ろそうとした瞬間に彼女の体は麻痺して思うように動かなくなったからだ。手や脚の感覚は無くなり自分の体なのに自分の意思で動かせない。

 しかもその不可解な現象は氷蓮の身にだけでなく仁乃にも降りかかっていた。


 「な…体が…しびれ…て…」


 つい数瞬前まで何ともなかった仁乃は突如として全身に襲い掛かって来た麻痺に戸惑いながら膝から力が抜けて海水の中に倒れそうになる。

 そんな彼女の体を慌ててイザナミたちが支えて上げる。


 「加江須さん早く氷蓮さんの身柄を!!」


 そうイザナミが口にした時にはすでに加江須は氷蓮の手を掴んでいた。

 だが彼が麻痺して動けなくなった彼女の手を掴むと同時、凄まじい力で水中内に氷蓮の体が引っ張られる。


 「ぐっ、氷蓮!!」


 彼女の名前を呼びながら加江須は水の中に引きずり込まれそうな氷蓮の腹部を抱きしめ、そのまま逆に引っ張り返して彼女を奪い返す。

 

 「大丈夫か氷蓮?」


 彼女に怪我をしていないか確かめる加江須であるが返事は返って来ない。何やら氷蓮の唇は微かに動いているが麻痺している為か言葉を出せないのだ。

 だがどうしていきなり彼女がこのような状態に陥ったのだろうか? それに氷蓮だけでなく仁乃にも同じような症状が見て取れる。後ろの方では仁乃がイザナミたちに介抱されている姿がうかがえる。


 「(どうして二人が突然こんな状態に…待てよ…)」


 氷蓮と仁乃の二人は確かあのタコ擬きの足が肉体にへばり付いていた。


 そう言えば仁乃は腹部をあのゲダツのタコ足で巻かれていた。その際にヌメヌメするとか言っていたな。あくまで自分の推測であるがあのゲダツの粘液に相手を麻痺させる効果があるとしたら……。


 「もしそうだとしたら……黄美、愛理、二人は氷蓮の事を頼む」


 そう言いながら痺れてまともに動けない彼女の安否を二人へと任せ、加江須はゲダツの気配を辿りヤツが潜んでいる場所を探ろうとする。しかしすぐ近くに居る事は分かるが正確な居場所までは判別できなかった。もし仮に相手の姿が視認できるならば加江須も苦労はしないだろう。だが相手の透明化の能力はこの水中内ではとても面倒な相手であった。


 「何かヤツの居場所を探れる目印の様なものがあれば…」


 そう言いながら海水の中を探っていた加江須であったが、目に飛び込んで来た物を見て思わず目を丸くしてしまう。


 「あ…あれって…」


 加江須の視線の先では先程剥ぎ取られた氷蓮のブラがまるで生き物の様に泳いでいた。

 

 そう言えばあのゲダツ…タコ足の吸盤で氷蓮のブラを剥ぎ取っていたな……。


 「そこだこの間抜け!!」


 氷蓮のお陰でゲダツの居場所を特定できた加江須は怒号と共に海水内へと潜り、そのまま生き物の様に揺らいでいるブラを目印に泳いでゆく。

 そしてブラへと近付くと何やら体に見えない触手の様な物が絡みついてきたことを感じ取れた。透明化して水中に溶け込んでいるがタコ足を伸ばして自分に巻き付いているのだろう。


 「(けっこう強い絞めつけじゃねぇかよ…だがな!!)」

 

 もしも相手が普通の人間ならば体を麻痺させずともこのまま海底へと引きずり込んで溺死させれるだろう。そして例え相手が転生戦士の様な特殊な人間でも仁乃や氷蓮の様に感覚を狂わせてから捕食でもするのだろう。

 だがこのゲダツのこの粘液には痺れ薬の様な効能があるのかもしれないが速効性はない。現に二人は動けなくなるまでタイムラグがあった。


 「(お前の居場所は掴んだぜ。氷蓮のブラを盗んだのが運のツキだったな!!)」


 水中内では声を出せないので心の中でそう叫んでやると、そのまま両手で見えないタコ足を掴むと変身能力を発動して妖狐の姿となる加江須。

 そして変身してから即座に尻尾に神力を籠め、鋼鉄並に硬化した9本の尾で姿の見えないゲダツへと尻尾を連続で叩きつける。

 

 相手の姿は見えないが両手でヤツの足の1本を掴んでいるんだ。おおよその位置は検討を付ける事はこれで可能だ。


 そんな彼の思惑通り加江須の振るい続けている尻尾は所々は狙いが外れているがほとんどがゲダツの体に命中している。その証拠に尻尾では何やら弾力性のある物体を叩いている感触が伝わってくる。

 そしてしばし尾で殴打し続けているとダメージを受けたせいか遂にゲダツの姿がハッキリと現れる。


 「(出てきやがったなこのタコ野郎が…)」


 姿を現したタコの様なゲダツは加江須の尻尾で全身をもうズタズタにされており、足も何本か千切れていた。

 そして姿がハッキリと確認できたのならばもう勝負はついたようなものであった。


 「(これで沈んでいけや!!)」


 そう内心で叫びながら加江須は9本の尾を1つの束へと重ね、ソレを全力でゲダツの頭部へと突き刺してやった。

 何やらブヨブヨとした生々しい感触と共に束ねられた尾は見事にゲダツの頭部を貫通させた。

 

 「(よし…これでもう大丈夫だ)」


 確かな手ごたえと共にゲダツは加江須の体に絡め付けていた足を力なく離し、そのまま海の底へと沈んでいく。

 そのまま敵を倒した事を確認出来た彼は海面へと浮上していく。その際にゲダツが手放した氷蓮のブラが目の前に流れて来る。

 

 ひょ、氷蓮の水着…さすがに目の前にあるなら持ち帰らないとな。


 正直に言えば彼氏とは言え男の自分が気安く触れていいのか少し悩んでしまった。つい先程まで自分の恋人が身に着けていた水着だと思うと謎の背徳感を感じつつ、そのまま目の前でユラユラとしているブラを掴んで浮上した加江須。


 「ぶあっ…もう大丈夫だぞみんな」


 無事にゲダツを撃破した加江須は変身を解いて少し離れている皆の元へと泳いでいく。

 

 「どうやらゲダツを倒した様ね加江須」


 そう言葉を投げかけて来たのは先程まで体が麻痺していた筈の仁乃であった。どうやらあのゲダツ本体を倒したので麻痺の効力が消えた様だ。それは氷蓮も同じようでつい先刻までは喋る事すら満足にできなかった彼女も今は一人で立てるようになっていた。しかし彼女は加江須に背を向けたまま頬を膨らませていた。

 

 「おいバ加江須。お前…モロに見ただろ」


 「いや…あのぉ~…」


 先程は彼女を助ける為に必死であったが、冷静に思い返して今更ながらに顔を真っ赤にして俯く。


 「いや…悪かったな氷蓮。でもわざとじゃないし…」

 

 「……冗談だよ。別に怒ってねぇって」


 正直に言えば恥ずかしくはあったが加江須が自分を助ける為に必死になってくれた事は重々理解している。それに…自分の好きな男に見られて羞恥心は感じたが嫌気などは一切感じてはいなかったのだ。

 てっきりビンタの一発でも飛んでくる覚悟はしていたのだが、思いの他にすんなりと許してもらえた事に思わず彼は油断してしまったのだろう。


 「あ、そうそう。あのタコが奪ったお前のブラだけど取り返しておいたぞ」


 そう笑顔と共に加江須は右手に握りしめた彼女の水着を頭上へと掲げる。


 その直後に氷蓮の飛び蹴りが加江須の腹部へと思いっきり突き刺さり、そのまま彼は海水の中へと沈んでいったのであった。




 ◆◆◆




 「たくっ…情けねぇ姿晒しやがって」


 浜辺から少し離れた林の中でガタイが良く、剃り込みを入れた坊主頭の危ない雰囲気を纏った男が腕を組んで仁王立ちをしていた。


 加江須たちがゲダツと戦っている同時刻、浜辺で加江須たちに絡んでいたチャラ男二人が一人の男の前で仰向けに倒れていた。

 二人は歯が何本も折れており、加江須の拳で曲げられた鼻は更に歪な形に歪んでいた。


 「ナンパしてやられたから仕返ししてほしい。そんな情けねぇ頼みごとがよくこの俺に出来たな」


 「「ご、ごべんなざい」」


 仰向けに倒れながらもチャラ男たちは謝罪を口にする。

 彼らは先程に浜辺で加江須にやられた事を目の前の男に報告したのだが、二人の話が終了した直後に岩の様な拳を叩きこまれたのだ。


 「せっかく女と遊んでいたところに電話が掛かって来て呼び出されて苛立ってんだよ。その上に何でテメェらの仇討ちなんざしなきゃなんねぇんだ?」


 「す、すいません兄貴。で、でも悪い話じゃないですよ。その男が連れていた女たちなんですがね…かなりの上玉でしたぜ」


 そう言うとチャラ男の一人が加江須の傍に居た恋人たちについて語り始める。すると今まで苛立っていた男が興味を示し、話を聞き終わった頃には下卑た笑みを浮かべていた。


 「へえ…そんなヒョロ男が5人も上玉の女を連れていたのか。この辺りでは見慣れねぇ顔か?」


 「はい、あんな美人たちがこの付近で暮らしていればもう手を出していますよ」


 そうチャラ男が言うと目の前の剃り込み男は彼の首根っこを掴んで睨みつける。


 「おいこら、イイ女を見つけたらまずは俺に報告だろうが。先に手を出したらぶっ殺すぞ」


 「す、すいません」


 至近距離で睨みつけられ震えて首を縦に振るチャラ男。

 

 「よし…地元の人間じゃねぇなら近くの宿に泊まっている可能性もあるよな。お前ら、他の部下共も呼んでやるから一緒に捜索しろ」


 そう言うと剃り込み男は舌なめずりをしながらスマホに電源を入れて自分の下についている部下に電話をした。


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