触られ慣れていない耳はやめろぉ……
加江須が仁乃と氷蓮と戦闘を繰り広げている頃、少し離れた場所では黄美と愛理の二人がイザナミの指導の下で神具を扱う為の指導を受けていた。
「良いですか。お二人の場合は肉体の内側から神力を放出するのではなく指にはめている指輪から神力を放出しています。だからイメージとしては指輪から力を放つイメージをしてください」
先程にイザナミからのアドバイスでそれぞれ能力が発現した黄美と愛理は疑う事もなく彼女の言う通りの方法を試してみる。確かに今までは指輪から力を出すと言う発想は無かった。手のひらや全身から神力とやら出すイメージをしていた。
言われた通りに二人は自らのはめている指輪を見つめながらそこから力を放出するイメージをして見せる。
しばし目をつぶって直立姿勢のまま集中していると最初に成果が表れたのは愛理であった。
――バチチチチッ!!
「ぬおっ!?」
自分の指輪からけたたましい音と発光と共に雷が走る。
先程は指先から微かに電流が流れる程度であったが今はその比ではない。指輪から放出された雷は愛理の体を全身満遍なく包んでいるのだ。
「ちょちょちょヤバいってコレ!?」
自分の身体に電流が目に見えて走っている事に思わず尻もちを付いて驚いてしまうがここでふと気づく。
「あれ…別に痛くもかゆくもない。しかも痺れもしないし…」
今も電気が走り続けているにもかかわらずまるで体は痺れてはいない。
不思議そうにしているとイザナミが小さく笑いながらその理由を教えてくれる。
「愛理さんの体から放たれている雷はあなたの指輪から放たれている神力の変化した雷です。自分自身の力ではダメージは負いませんよ。加江須さんだって全身に炎を纏っても火傷なんてしないでしょう?」
「あ、そりゃそうだ。たはは…」
ちょっと考えれば分かるような事を丁寧に教えてもらい少し恥ずかしそうに笑う愛理。
そのすぐ後に黄美も指輪から炎を放出し、その炎は腕や脚に纏われる。もちろん自分の神力を変化させた炎なので火傷などもしていない。
「あつ…くはないかな。でも少し怖いかも…」
自分の腕に視線を向けるとオレンジ色の炎がメラメラと燃え盛っているのだ。いくら熱くはないとは言えこんな間近で見る炎は少し恐ろしく感じた。
二人が指輪の力を段々と引き出せている事を理解したイザナミは次の段階へと進む。
「ではお二人とも。次は神力を固定してみましょう。今のお二人は能力をただ指輪からまき散らしている状態です。これでは体力もドンドンと消費していきますし実戦ではまだ使えないでしょう。今指輪から溢れ出ている炎と雷、それをまずはひっこめてみてください」
二人は全身を覆う能力を引っ込めようとするが中々思うようにいかない。すると黄美が先程にイザナミのくれたアドバイスを思い出した。
あの時に彼女は指輪から力が放出されるイメージを教えてくれた。ならば今自分を纏う炎が指輪に引っ込んでいくイメージをすれば……。
そんなイメージをした直後、黄美の体に纏われていた炎は見事に消えてくれた。
「やるねぇ黄美。私も負けてられない…んん……!」
小さな声で唸りながらしばし奮闘しているとようやく愛理の方も雷を沈める事に成功した。
無事に能力の発動を止める事が出来た二人にイザナミはまるで我が身のように喜んでくれた。
「凄いですよ黄美さんに愛理さん! お二人とも中々に筋が良いですよ」
「そ、そうかなぁ。まあ加江須君たちみたいな本場ものの転生戦士を間近で見ていた成果かな?」
イザナミの屈託のない笑顔と共に褒められて少しこそばゆくなる愛理。確かに彼女自身が言う通り実際の転生戦士の力を目の当たりにしていた事は無関係ではないだろう。
しかし愛理以上に浮かれている少女がここに居た。
「や…やった! 私も能力を使いこなせてきている」
自分の弱さに嫌気を感じていた彼女は能力のコントロールができ始めている事に喜びを感じる。それはこれで自分もようやく加江須の力になれると言う想いが強かった。
しかしまだ力を完璧に使いこなせていないうちから浮かれる事は危険な行為であるとイザナミはよく知っている。
過去に転生戦士として現世に蘇った者達の中には超人的な力を得た事に浮かれてあっさりとゲダツに殺された者達も居た。そんな者たちの末路を見て来た経験がある故に今まで嬉しそうにしていたイザナミは表情を引き締めるとあえて厳しい言葉を二人へと投げかける。
「お二人とも確かに筋は良いです。でもこの段階で喜んではいけませんよ。まだ能力のオンオフが可能になっているだけで神力を上手く使いこなせていませんからね。では次は神力で身体能力を強化する特訓を始めますよ」
「「はい先生!!」」
教わっている立場の者として素直に返事をする黄美と愛理。
そんなやる気に満ちている二人の元へ仁乃たちとの戦闘が終了した加江須が近づいて来る。
「よお二人とも調子はどうだ? なんだか嬉しそうな声がこっちにまで聴こえて来たが」
加江須がイザナミたちの元まで近づいてくると今まで引き締めていた気分が緩み黄美は嬉しそうに指輪を胸元に持ってきて自分の成果を口にする。
「カエちゃん私少しづつだけど指輪の力を……」
しかし彼女は加江須の今の姿を見て言葉をつらませた。
「ん? どうかし……ああなるほどね」
いきなり言葉を途切れさせた黄美の事を不思議そうに見ていた加江須であるが、その理由はすぐに分かった。
仁乃たちとの戦いの際に妖狐に変身をした加江須であったが未だに能力を解除しておらず、当然彼の姿は妖狐のままなのだ。
「やっぱ少し変な姿かな? 男に動物の耳と尻尾っていうのは」
「全然変なんかじゃないよ!!」
加江須としては自分で今の姿は似合っていないと思っている節があったので軽い気持ちで言ったのだが、そんな彼の姿を全く否定せずむしろ褒めちぎってくる黄美。
「今のカエちゃんは凄く可愛いと私は思うよ。感情に合わせて耳や尻尾も動くところなんて凄く愛くるしいし」
「お、おおう、そうか。ありがとう…」
男である自分としては可愛いと呼ばれる事を喜ぶべきかは正直に言えば微妙な所ではあるが悪い気分はしない。すると未だに尻尾に埋まっている仁乃が顔だけをぴょこんと出した。自分の尾から顔だけを出す彼女の今の姿は中々にシュールだと思った。
顔を出した仁乃は今の黄美の言葉にうんうんと頷いている。
「分かってるわね黄美さん。この尻尾は本当に柔らかでモフモフして最高よね。こんな自慢の尻尾を変だなんて思うなんてどうかしてるわ」
「う~ん…褒められているのか呆れられているのか分からんな」
仁乃の言葉に首を傾げて唸っていると黄美がなにやらモジモジとしていた。
「あのカエちゃん。もし良ければなんだけど…その…」
何やらチラチラと尻尾の中に入る仁乃へと目配せをする黄美。
彼女のその視線の意味を瞬時に理解した加江須は苦笑しながらまだ空きのある尻尾の1本を彼女へと差し出した。
「触ってみるか? 別に遠慮しなくてもいいんだぞ」
加江須に許可を貰えた彼女はぱあっと明るい顔になり目の前の柔らかな尻尾へと顔をうずめた。まるで綿毛のような柔らかな感触に酔いしれてしまう。
「おおー気持ちよさそう。イザナミさんも触ってみたら?」
幸せそうな顔で尻尾に頬を沈ませる黄美を羨ましそうに見ているイザナミに自分も行けばいいと促す愛理。
しかし中々踏ん切りがつかないのか体を僅かに前に出しては後ろに下がるを繰り返している。
「別に遠慮しなくてもいいぞイザナミ。ほれ」
加江須としては尻尾を触られることなど何のこともないので尻尾を1本彼女の方へと伸ばしてあげた。するとようやく彼女も我慢を捨てて目先のフッサフサの尻尾を撫で始めた。
「これは…いいですね…」
女神すらも虜にしてしまうほどの毛並みの良い自らの尻尾。このモフモフを武器として扱えないかを本気で考えだし始める加江須。
そんな風に考えに没頭していると後ろの方で見ていた愛理がいつの間にか加江須の背後へと移動しており、彼の耳へと手を伸ばした。
「ぬあっ!? な、何をする!!」
「おお良い反応じゃん」
伸ばされた愛理の両手が加江須の両方の耳を優しく掴んだのだ。
尻尾を触られている時は多少はくすぐったく感じる程度であったが耳を触られた瞬間に電気が走ったかのように思わず両手で耳を庇ってしまった。
「触るのは尻尾の方だろ。何で耳を触っているんだよ」
「いやーピコピコ動いて可愛いからつい手が…ほれほれほ~れ」
「や、やめろよ愛理」
加江須の耳を再び摘まんでみる愛理。
つけ耳ではなく実際に頭部から生えているので熱もあり。ふにゃふにゃと尻尾とはまた異なる感触を楽しむ愛理。
「や、やめろぉ…耳はだめだぁ…」
「か、加江須君なんかエロいよ…」
よほど耳は敏感なのだろうか、尻尾は複数人にいじられても余り表情には出していなかったが、耳を少し強く触るだけで彼は必死に耳に伝わってくるくすぐったい感触を耐えているのだ。しかもその表情は彼の恋人たちには刺激的で思わず見とれてしまう。いつの間にか尻尾の中で寝ていた氷蓮も起きており加江須の反応を見ていた。
「…こ、ここはどうかな~? うりうり…」
「い、いい加減にしろぉ…。こ、こそばゆくて力が抜けてしまうだろぉ」
愛理に耳を弄られ続け膝に力が入らなくなってしまう加江須。
未だに尻尾の中に入る仁乃たちを気遣いゆっくりと膝を曲げつつ座り込んでしまう。その間も愛理の耳を触る手は止まらず悶える加江須。
「ば、バカ…やめろってぇ…」
僅かに頬を紅く染めて涙目になる彼氏の姿にこの場に居る恋人たちは皆が内心でこう思っていた。
「「「「(やだ…私の彼氏やらし過ぎる!!)」」」」
正直尻尾や耳の感触以上にこちらの方が興味を引いてしまいその後もしばし愛理は狐さんの耳を夢中でフニフニと握ってしまっていたとさ。




