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いざ特訓へ!!


 「うおおおおおおお!?」


 水晶内での異空間で偽物の白を無事に撃破した直後、加江須は異空間内へと入った時と同様に元の自分の部屋へと放り出された。

 まるで空間がぺっと吐き出すかのように出て来た加江須は油断しており水晶の真上へと突然現れる。


 「え…あわわわ!?」


 しかも運の悪いことに加江須の落下地点の真下にはイザナミが居たので彼女目掛けて落下してしまった。

 そのまま加江須はイザナミの体の上に落ちてしまい二人の体が重なった。


 「あつつ……あん? 何だこの感触は?」


 イザナミの真上へと落ちた加江須は自分の手の中に柔らかな感触を感じた。

 まるでマシュマロの様な物を握っており顔を上げて自分が何を握っているのかを確認する。


 「何が……あっ……」


 イザナミと重なっていた体を起こすとようやく視界も回復して今の自分の状態を確認できた。


 今の加江須はイザナミをベッドの上に押し倒しており、しかも彼の手は柔らかな彼女の胸を掴んでいるのだ。

 あまりの衝撃にしばしフリーズしてしまう加江須であるがそれがまずかった。まだ現状を把握していないイザナミが固まっている間に目を開けてしまったのだ。


 「あれ加江須さん? 戻って来て……ふえ?」


 ぶつかった直後で少し思考が纏まらなかったイザナミであるが、今の自分の状況を理解できると徐々に顔がゆでだこの様に真っ赤に染まる。

 

 「あ、あの加江須さん。こういう事はまだ早いですよ」


 「ご、ごごごごめん! わざとじゃないんだ!!」


 慌ててイザナミの胸から手を離してすぐさま離れる加江須。

 上に乗っていた加江須が離れてくれた事でようやく解放されたイザナミが上体を起こす。


 「本当にごめん。わざとじゃ……いや言い訳はしない。イザナギの好きなように処分をしてくれ」


 仁乃に変な事をしない様にと釘を刺されておきながらこんな事になり内心で頭を抱える加江須。

 そんな彼に対してイザナミは赤面しつつも大丈夫だと伝える。彼女だって彼が下心からこのような事をする人物ではない事は重々承知しているからだ。


 「そんな深刻にならないでください加江須さん。わざとじゃない事はちゃんと分かっていますから」


 本当に気になどしていないとニコッと笑うイザナミ。

 そんな温情のある彼女に感謝しつつももう一度だけ頭を下げて置く。


 「悪かった。それにそもそも俺がイザナミの話を最後まで聞かずにその水晶を……」


 そこまで口を開きかけると加江須は先程にした自分の体験を思い出しイザナミに詰め寄り事情を聴こうとする。


 「なあイザナミ、俺は今この水晶の異空間に入り込んだんだがそこに知り合いが現れたんだ。それも相手は俺を殺そうと攻撃までして来たんだが」


 「そ、その事についての説明はもちろんします」


 加江須の顔が近づいて来てイザナミは内心で少しドキドキと鼓動を速めながらあの神具についての説明をした。

 それにしても加江須の顔を見てると何故か胸が高鳴る事が増えた気がする。それに先程も事故とはいえ胸を触られても嫌な気分もしなかった。


 「(な、何を私は考えているのでしょう。破廉恥な…)」


 自分の頭の片隅に浮かんできた邪な考えを追い出し神具についての未だ話しきっていない説明を始める。


 「あの神具はモードがあるんです。修練モードと実践モードの2つのモードがあり加江須さんは恐らく実践モードの状態で水晶内に飛び込んだと思われます」


 「修練モードと実践モード…」


 イザナミの口から出た2つのモードを繰り返し口にする加江須。

 

 「修練モードは純粋に自らを鍛える為のモードであり、このモードには特に縛りの様なものはありません。加江須さんはすでに異空間内へと赴いているのでお分かりだと思いますがこの水晶内は凄まじく広く力を振るうには最適な場所です。特にこの人目が気になるであろう地上では自らの力を高めるために利用するにはうってつけの環境だと思います」


 「それはそうだな。実際に人の多いこの地上では特訓するにも人の目が気になってしまうからな」


 加江須としてもゲダツをより確実に圧倒出来る程にもっと強くなりたいと言う願望を兼ね備えている。しかしこの地上には人も多く修行の為の場所を見つけるのも一苦労だ。人口が少ない場所や山などに行けば別だろうが親も居る以上は長い間家を離れるわけにもいかない。


 「つまりは人の目を避けて堂々と力を使って特訓が出来る訳か。そう考えるとこの地上では凄いメリットがあるな。それで…実践モードってやつは?」


 「こちらに関しては少々厄介な設定が組み込まれているんです。実勢モードの状態で異空間内へと入り込むと自動的に対戦相手が出現します。その相手は異空間内に入り込んだ人物の記憶を元に自動的に生み出されます」


 イザナミからのこの説明を聞き水晶内での偽物白の言葉を思い返す。

 あの時に偽物は自分の存在を俺の記憶の中の武桐白だと口にしていた。


 「(そう言う事だったのか。なるほど、確かにある意味では本物だな…)」


 つまり自分の知る限りの強さを再現した相手を自動的に対戦相手として生み出す仕組みとなっているのだろう。だとすれば中々にえげつないシステムだ。自分が憎らしく思っている敵が現れるのであればまだしも記憶内からランダムに選出するのであれば知り合いや仲間でも敵として戦う事となるとは。

 水晶内では白と戦う事すら躊躇いを感じた加江須。もしも相手が仁乃や氷蓮であればまともに戦闘を行えたかどうか怪しい。


 「そして実践モードであるために相手は目の前の敵を駆逐するようにプログラムされています。ですので出現した相手は例え外見が誰であろうと躊躇いなく攻撃をしてきます。今回の加江須の時と同じように。これはもしも自分の関係者が敵に回ったとしても甘えを捨てて戦えるようにするための処置らしいです」


 「……偽物とわかっていても難しい注文だな。そう簡単に割り切れる人間もいないだろうに」


 「神々にとっては加江須さん達人間の感性は通じませんから…」


 イザナミにそう言われるとこの実践モードとやらの仕組みも納得できてしまった。

 加江須の認識では神様って言うのは思いのほか残酷なイメージがついてしまっている。何しろ実の娘すらも下界へと追放してしまうぐらいなのだ。


 「でもこの水晶は使えるな。夏休み中で時間もあるし特訓する場所もこれで確保できたことになる」


 「実はこの水晶を持ち込んだ理由は私も今の加江須さんと似たような考えからなんです。今の私はもう以前の様な強大な神力はないのでこの空間を利用して特訓しようかなって」


 「ナイスな判断だぜイザナミ。これはイザナミだけじゃなく俺たちにも中々に利用できるぞ。お手柄だぜイザナミ!」


 自分がまだまだ弱いとヒノカミにやられて思い知った加江須はこの水晶を持ってきてくれたイザナミの判断に思わずガッツポーズを取る。

 この水晶を利用すれば今まで以上に神力を極める特訓も積める。それにイザナミから貰った神具を黄美と愛理もこの空間を使い存分に訓練できるだろう。

 

 「ありがとなイザナミ! お前が来てくれて本当に助かるぞ!!」


 「そ、そんな私はべつに…」


 喜びの余りに彼女の手を握って喜んでしまう加江須。

 そんな彼の嬉しそうな顔を見ると持ってきて良かったと思え彼女の頬も緩んでしまう。


 「じゃあ今後はこの水晶を利用してもいいか。そうすればみんなの強さをさらに引き上げられそうだ」


 「勿論構いません。私もみなさんと一緒に強くなるために頑張ります!」


 自分も元神として加江須たちに後れを取らぬように頑張って見せると意気込む。

 こうしてイザナミのお陰で加江須たちは自らを鍛えるための空間を手に入れることが出来たのであった。




 ◆◆◆




 夜が明けて翌日の昼、仁乃たちは加江須の部屋へとまた集合していた。

 イザナミの持ってきた神具の水晶の事は事前に聞かされており、今後の訓練場所として異空間を使用する事を皆で決定した。

 

 皆が揃った事を確認するとイザナミは水晶を取り出してソレを皆の前で掲げた。


 「では皆さんを異空間内へと送りますのでこの水晶に手を」


 「ちゃんと修練モードになっているんだろうな?」


 イザナミがモードの切り替えミスでいきなり実践モードで戦う事となった身としては少し不安を感じる加江須。後から聞いた話ではあの空間内で『強制排出』と叫べば脱出できたらしい。ソレを知らずに昨日は偽物の白と命がけの実践をしたわけだが。


 「大丈夫ですよ加江須さん。見ての通り水晶内の空間設定は修練モードとなっていますので。


 イザナミがそう言いながら見せて来た水晶には確かに修練モードと文字が出ている。

 

 「しかしまさか加江須の家の中で修行できる場所が獲得できるなんて思わなかったな」


 氷蓮は軽く拳を鳴らして準備万端と言った感じで笑っているがその隣では死んだ目をして沈んでいる少女が居た。


 「何で…何で私まで巻き込まれなきゃ…」


 そう言いながらこの場に呼ばれたことが納得いっていない余羽。

 まだ夏休みと言う事もあり昼少し前まで呑気に寝ていたが急に氷蓮に叩き起こされたかと思えばこの家へと強引に連れ込まれた。


 「お前だって転生戦士としては実戦不足だろ。この機会に一度鍛え直してみろよ」


 「こういうのは肌に合わないんだって。暑苦しいバトル展開なんて花の女子高生のやることじゃないで…ぐえ」


 グダグダとこの期に及んでも言い訳をして離脱しようとする彼女にヘッドロックして無理やり黙らせる氷蓮。

 その隣の方では今まで戦いその物に無縁だった黄美と愛理が緊張した面持ちで自分の指にはめられている指輪を見ていた。


 「私たちも頑張らないと。カエちゃんたちの力になれるように」


 「そうだよね。こんな便利な物を貰ったんだからきちんと使いこなせるようにならないと」


 イザナミから渡された神具の指輪を眺めながらこちらはやる気に満ちていた。

 各々のモチベ―ションには違いがありつつも皆が水晶に触れる。神力をまだうまく使いこなせていない黄美と愛理は加江須の腕に掴まって一緒に転移する事となった。


 「よし、行くぞみんな」


 加江須がそう言うと各々は頷き水晶へと自分の神力を送り込む。

 その直後に皆の姿はこの部屋から綺麗に消え転移して行ったのだった。



 

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