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プールに行こう 転生戦士との対決 3


 「いやー、さっきのブタはウケたよなぁ」


 「ホントホント、派手に転んでたよねぇ~」


 先程の水井の無様な姿を思い返しながらゲラゲラと下品に笑い合う男女カップル。

 二人は今も流水プールのエリアで流れに任せて腕を組みながら歩いていた。


 「おら邪魔だ。どけどけ」


 目の前でゆっくりと移動している他の客相手にしっしっと言った感じで道を譲るように睨む男。

 強面の男の迫力に前に居る他の客はそそくさと端の方に寄って行く。それはさながらモーゼの様であった。


 「なあこの場所人が多くて進みにくいったらないぜ。あっちの空いているエリアのプールにでも行こうぜ」


 自分と腕を組んでいる彼女にそう言う男であるが彼女からの返事はなく不審に思う。


 「おいちゃんと聞いてるのかよ?」

 

 そう言って彼女の顔を見る男であるがここでようやく異変に気付く。

 何やら彼女の顔つきがどこかおかしいのだ。どこか不安そうに少し怯えた顔つきをしているのだ。それに不快感も混じっている。


 「どうしたよ? なに不安そうな顔してんだよ?」


 「いや…なんか足元…」


 「足元?」


 彼女の言葉に釣られて男は水中の中の自分たちの足元を見てみるが特に何も変化はない。特に何か変な物が落ちている訳でもない。至って普通の透明の水だ。


 「なんだよ。別に何もないだろ」


 「……ひっ!?」


 しかし女性の方はいきなり変な声を出して男の腕により一層強くしがみついてくる。


 「いや、何かいるわ! 何かヌメヌメとしたキモイものが居る!」


 「何言ってんだよ…何もいな…!?」


 しかしここで男も自分の脚に何かがへばりつくかの様な奇妙な感覚に囚われ自身の脚を見る。


 「な、何だよ…?」


 異変を感じて自分の脚を注視する男であるがやはり何も見えない。水中の中にあるのは見慣れた自分自身の脚だけである。しかし何の変哲もないにも関わらず自分の脚を何かが這っている感じがしてならない。


 「わ、訳わかんねぇけど気持ちわりぃ。おいもうこのプールから出よう……ぜ……」


 腕組をしている彼女と今すぐ一緒にプールを出ようと振り向く男であるが、彼女の顔を見て男の思考は真っ白となった。


 ――女性の顔はまるで水分が抜けたかのようにしおしおに干からびているのだ。


 「な、何だよお前その顔は!?」


 そう言って男は思わず彼女から腕を離し突き飛ばす。

 よく見れば顔だけでなく体中が水分の抜けたミイラの様に干からびていた。

 突き飛ばされた女性はそのまま力なく水の中へと沈んでいく。ポコポコと呼吸の泡を立てながら水中で力なく横たわる女性からじりじりと距離を取る男であるが不意に足の力が抜けた。


 「な、何が…?」


 自分の脚を見てみると彼女同様に彼の脚はしおしおに干からびており、思わず悲鳴を上げようとする男であったが何故だか彼の口から絶叫が漏れる事はなかった。

 異変を感じて水面を見てみるといつの間にか彼の顔は女性と同じように枯れ始めていたのだ。


 「かっ…こっ…」


 助けを求めようと声を振り絞ろうとする男であったが最早満足にしゃべる事も出来ずにそのまま沈んでいった。




 ◆◆◆




 「くそっ、やっぱり見つけられないか…」

 

 焦った表情でプール内を観察する加江須であるがやはり犯人と思しき人物が見つけられないでいた。

 いやもしかすれば既に視界に犯人が映っている可能性はあるのだが、取り立てて目立つ人物が何処にも居ないのだ。


 「早くしないと次の犠牲者が…」


 そう言いながら周囲の人間をくまなく観察する加江須。

 視線を次から次へと移動していると肩を叩かれ振り向く。するとそこには先程この建物を出た仁乃が立っていた。どうやら黄美と愛理の二人を見送り戻って来たようだ。


 「どう、怪しいヤツは見つかった?」


 「いや…今のところそれらしい人物は……」


 まだ見つかっていない、そう言おうと瞬間――


 ――『きゃああああああああああああッ!?』


 「「!?」」


 絹を裂くような女性の悲鳴が二人の耳に聴こえて来た。

 鼓膜を震わせるその声を聴いた二人は何が起こったのかを瞬時に理解でき悲鳴の発生源に急いで向かった。


 二人が走って辿り着いた場所は最初に皆で遊んでいた流水プールのエリアであった。

 そのプールの近くでは仰向けに倒れている男女が他の一般客に介抱されていた。しかし倒れている二人の男女の状態は余りにも異質であった。


 「な、なんだこりゃ…」


 介抱している内の1人の男性がゴクリと唾を呑み込みながら倒れている男女を見つめて小さく呟いた。

 まるで漫画で吸血鬼に全身の血を吸われたかの様な干からびている男女、周囲に居る他の人物も介抱している男性と同じ気持ちであった。


 「これって…さっきも似たような症状の女の人が居たけど…」


 「俺も見た。さっき運ばれて行ったあの女の人だろ。び、病気の類か…?」


 集まっている野次馬の中には先程同じ被害にあっている女性を見ている者達も何人かおり、何かの病気かどうか話し合っていた。


 「…このプールの水に変なモンでも混ざってんじゃねえだろうな?」


 「まさか。もしそうだとしたら同じプールに居た俺らもこうなってんだろ?」


 倒れている男女を囲んで集まっている者達がざわざわと話し合っている中、後方でその様子を眺めていた加江須と仁乃は他の者には聴こえぬように小声で話していた。普通の人間以上に聴力が発達している二人は周囲には絶対聴き取れない音量で会話をする。


 「…また被害者が出たわよ。どうすれば…」


 「仁乃、あの被害者の二人…その周囲の人間を良く観察するんだ」


 加江須の言葉にどういう意味かと一瞬戸惑う仁乃であったが、すぐに彼の言っている事の意味を理解した彼女は加江須と同じように集まっている野次馬を注視した。

 

 「犯人がすぐ近くに居るかもって事ね…」


 「ああ。これが無差別にしろ狙って行っているにしろ自分の能力で上手く襲えたかどうか確認に来るはずだ」


 仁乃と極小の声量で会話をしながら怪しげな者はいないか確認していると――


 「(なんだアイツは…何で笑っている?)」


 加江須の視線の先では自分とほぼ変わらぬ年齢であろう小太りの男が倒れている男女を見つめて口に手を当てていた。別に彼以外にもあの凄惨な男女を見て口元を手で覆っている者は何人か居る。しかし加江須は決して見逃さなかった。彼の覆われている手からはみ出した口元は僅かに弧を描いていた事を……。


 そう言えばあの男…休憩所で見たぞ……。


 「仁乃…あそこ、あのちょっと太っている男から目を離すな」


 「もう警戒してるわよ。アイツ…笑ってたわ。こんな現場の中で確かに笑みを浮かべていたわ」


 どうやら仁乃の方も気付いたようだ。あの男がこの場で似つかわしくない表情をしていた事を。


 「どいて下さい!! 通して通して!!」


 そこへ野次馬を掻き分けて担架を運んできたこのプールのスタッフがやって来る。それと入れ替わるかのように二人がマークしていた男がその場から離れて行く。


 「なっ! 待ちなさ…んん!?」


 この場から離れようとする男を呼び止めようとする仁乃であるがその口を手で塞ぐ加江須。


 「落ち着けって。まだあいつが犯人だって決まった訳じゃない」


 「むがっ…それはそうだけど…」


 「とにかく後をつけるんだ。そんで話をして探りを入れる。そこでボロが出ればいいが…」


 加江須の意見に対して仁乃は大人しく頷いた。彼女としても少し早まり過ぎたと反省したのか珍しく何も言い返しては来なかった。


 二人がマークしていた男――水井は再び流水プールに入ろうとはせずそのまま出口を目指して歩いてた。


 「(流石に3人はやり過ぎたな。ここは大人しくこのプールから退散しよう)」


 先程襲ったバカップルの辺りで群れいてる野次馬を横目で見ながら出口に向かう水井。

 先程は仕返しをする事だけに頭に血が昇っていたが、あんな異様な被害者が複数人出れば警察だって来るかもしれない。もちろん証拠なんて残りはしないが万一にも捕まらない為にはここは退散した方が賢い選択だ。


 スタスタと速足でこのウォーターワールドから立ち去ろうとする水井であったが、そんな彼の肩を背後から掴んできて引き留める人物が居た。

 

 「悪い、ちょっといいか?」


 声を掛けたのは後をつけていた加江須である。

 引き留められた水井は一瞬だけビクッと反応したが何食わぬ顔で振り向いて加江須と顔を合わせる。


 「…何か用かな?」


 自分の肩を掴んでいる加江須に僅かに低い声で何の用かと尋ねる水井。

 そこへ遅れて仁乃も駆け足で二人の元へと合流をした。


 その際に仁乃の動いている胸に思わず目が行ってしまう水井であるが加江須が睨むと慌てて目を逸らした。


 「ごほんっ…それで改めて、俺に何か用かな?」


 「いや、少し気になってね。さっきあそこで倒れていた二人の被害者を見て何で笑っていたのかなって。何か面白い事でもあったか?」


 加江須が単刀直入に探りを入れると小心者の水井はまたしてもビクッと肩を一瞬だが震わせる。その反応を見る限りではもう犯人は決まった様なものであるがまだ確証を得ていないので更に追求をしてみる。


 「あんな訳の分からない干からびた状態で倒れている人間を見て何がおかしかったんだ? 教えてくれないか?」


 「べ、別に笑ってなんかないって…もう行っていいかな?」


 ボロが出る前にこの場から離れようとする水井であるが尚も加江須の追求は続く。


 「それに声を掛けるまで見ていたけどあんた、随分とこのプールから急いで出て行こうとしている様に見えたけど……まるで逃げるかのように……」


 「だから変な言いがかりをつけるなって!!」


 もう話す事は何もないと言わんばかりに背を向けて歩き出す水井。

 中々決定的なボロを出さずどう口を割らせるか加江須が思案していると……。


 「あっ、あそこにゲダツ」


 仁乃がまるで息を吐くようにある場所を指差してそう言った。


 「なっ、ゲダ…!?」


 まさかこのタイミングでゲダツが現れるとは思わず仁乃の指が示している方向をバッと見る加江須だが、今の今まで気配をまるで感じなかった。

 

 「仁乃、どこにゲダ…いてっ!」


 仁乃の指を差している方向には何も見えない。もしかしたら場所を移動したのかと思い標的の行方を尋ねる加江須であるがそんな彼の頭を無言で引っぱたく仁乃。


 「バカ、ゲダツなら近くに居ないわよ。第一近くに居たら嫌でも気付くでしょ」


 「え、でも…」


 「そうね。ゲダツと言うワードをいきなり聞けば無意識に身構えるものよね。私たち〝転生戦士〟はね……」


 そう言う仁乃の瞳は加江須の方を向いてはいなかった。それよりも更に前に居る、無意識に構えて仁乃の指先の方を加江須と同じように見ている水井の方へ向けられていた。


 「ねえどうしてあなた…〝ゲダツ〟と聞いてこのバカみたいに身構えてるの?」


 鋭い眼光を向けながら仁乃が水井へと尋ねる。

 彼の表情はもうあからさまに焦りが汗となって顔中から噴出していた。


 ――その時、二人の背後に透明な〝何か〟がゆっくり這いながら近づいて来ていた。




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