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【完結】源氏物語溺愛逆行絵巻―紫の上を失った光る君は、もう一度春へ戻る―  作者: 木風
第十七帖 夢浮橋

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夢浮橋④

桜の花びらが舞い散る中、我が子を優しく抱きしめる紫の上の姿があります。

その穏やかさは、光る君にとって世界のすべてでした。


十歳で攫うように連れ帰ったあの日から、紫の上を失うまでの三十三年。

彼は傷つけている現実から目を背け、素直な言葉すら告げられずにいた。


それは——愛するがゆえの、致命的な臆病。


近くに温もりがあるのに満たされることはなく、誤魔化すように外に渇きを向けた。

思いやるほどすれ違い、間違いばかりを重ねていった。


そして時を遡り、また同じように十歳の紫の上を手元に置いた十年間。

手放そうともがき続けてもできず、ならば変わるしかないと、己を律し、彼女の幸せのためにそばにいることを選び続けた十年でもあった。


少しずつ変わってゆく運命は、光る君だけの奔走ではなく、

過去を知りながらも愛されようと、幸せになろうと選んだ、

紫の上自身の強さの結晶でした。


今生では悔いなく、真に幸せにしたい人を正面から見つめるだけで、世界がこれほど美しい光景を見せてくれるのか。

眩しさに、光る君は思わず目を細め、込み上げる涙を堪える。


「紫」

「あなた。見て、桜が……こんなに」

「二人とも、まるで桜の精のようだ。ほら、花びらが」


光る君は舞い落ちた花びらをそっと摘み、紫の上の頬を優しく撫でます。

確かめるように手に寄り添う紫の上の柔らかさ。

その温かさが、生きている尊さを教えてくれるようです。


若くして散り、見送ることしかできなかったあの日とは違う。

目の前の紫の上は、温もりを持って微笑み、問いかける。


「あなた。私……強かったでしょうか?」


最期に呟いた言葉。

光る君の胸に深く刻まれた悔恨が疼きます。


『……わたくし……強かったでしょうか……?』


紫の上を失った、あの日のことは、今でも思い起こすと不安に駆られないことはありません。

けれど彼は、震える声で応えます。


「紫。あなたは最初から、今も、ずっと強く、美しい。

あなたの強さが、優しさが、俺の人生を変えてくれたんだ」


そして、今度は光の君が紫の上に問いかけます。


「紫……あなたの孤独は、まだ続いているだろうか。

前の世のように……ひとりではないか」


最大の恐怖が、まだ彼女の中にあるのではないかという。

答えを聞くのが怖くもあります。

それでも、どうしても確かめたかったのです。


「……あなたは、どちらだと思いますか?」

「ずいぶん、いじわるなことを聞き返すんだね」


クスクスと出会ったころと同じように、鈴の音のようなよく通る笑い声が紫の上から聞こえます。

それが何よりの答えと知りながら、確認せずにはいられないのです。


「あなた。好きです。愛しています。

これからも……ずっと、あなたの一番でいさせてください」

「俺は誓うよ。今までも。これからもずっと。

すべての幸せを、紫に」


紫の上の笑みに誘われるように、抱かれた赤子までふわりと微笑んでいます。


春の日差し、舞う桜、寄り添う妻と子。

光る君が生涯求めながら届かなかったものが、今はすべて、

手の中にあるのです。


満たされない夜も、泣きながら過ごす夜も、二度と二人には訪れることはないのです。


この先もずっと——

千年の時を超えても。

『源氏物語逆行溺愛絵巻―紫の上を失った光る君は、もう一度春へ戻る―』は、この最終話をもって完結となります。

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。


千年前のお話を元にしたこの物語が、静かな夜の記憶としてあなたの心に残りますように。


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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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― 新着の感想 ―
Xから来ました。このページが貼ってあったので、ここを、拝読。 美しい。素敵な、終わり方です。 カクヨムコンが終わったら最初から読ませていただきますね! ブクマ評価入れておきましたm(_ _)m
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