夢浮橋②
春の気配がようやく夜に溶け込み、ある静かな宵のこと。
月影はすでに沈み、灯りも落とされ、部屋は深い藍の闇に沈んでいた。
ただ残る沈香の香だけが、ゆるやかに立ちのぼり、二人の吐息へと溶けて行く。
光る君が紫の上の衾へそっと身を滑らせると、触れた肌は驚くほど熱を宿していた。
薄絹の単衣は、彼女の体温に負けて音もなく肩から落ち、白い花弁のような肌をこぼす。
最後に紫の上を抱いたのは、命を迎えるという大きな試練を前にした、あの夜。
もう一年以上も前のことだ。
「……はぁ……っ。だめ……こんな……」
二人の呼吸だけが闇のなかで重なり、触れ合う肌から立つ熱い湿り気が、長い空白を語っていた。
光る君は紫の上の上に重なり、彼女の細い手首を頭上で重ねて押さえつけると、指と指が絡まり、汗で滑りながらも離れない。
「あまりにも……時が空き過ぎて……
あなたが触れただけで、身体がこうして……」
甘く震える声が、闇を柔らかく震わせた。
まるでこのまま永遠に繋ぎ止めておきたいと、二人の体が勝手に語り合っているように、紫の上の奥底からこみ上げる熱と、微かな震えが、光る君を迎え入れようとする心の内までも伝えてくる。
そっと抱き寄せられた瞬間、紫の上が小さく息を呑み、腰がびくりと跳ねると、変わらない可愛らしい声が囁きます。
「あなたに触れるだけで、こんなに……震えているよ」
震えは恐れではない。
長く待ちわびた疼きゆえのものだった。
言葉を続けられず、紫の上は唇で応えた。
首筋、鎖骨、肩先へと光る君が舌で触れるたび、紫の上の背はしなるように浮く。
甘く、甘すぎる吐息がこぼれ、細い指が彼の髪を掻き寄せる。
「ここ……もう、こんなに熱くして。俺を求めている」
「や……っ……そんな……」
光る君の指先が衣の上から秘めた場所のあたりをそっとなぞると、紫の上は小さく声を漏らし、体の奥がきゅ、と締まるように反応した。
ひそやかな熱が指先へ伝わり、二人の間で静かに湿った気配が落ちる。
「恥ずかしい……こんな声……」
「いい。全部聞かせて。聞きたいんだ」
光る君は自らの単衣を脱ぎ捨て、熱を帯びた肌を重ねる。
体温が交じり合い、汗が伝い、織り重なる動きが、二人をゆっくりと、深くまで結びつけて行く。
「……紫」
「あ……っ……あなた……」
紫の上がその名を甘く呼ぶたび、光る君は息を震わせながら、彼女の胸の奥に届くように、抱きしめる腕に力を込めた。
爪が背へ食い込み、細い声で名を呼ぶ。
ほんの少しの痛みさえ、二人の結びつきを強める媚薬のように感じられる。
「もっと……きて……あなたじゃないと……だめ……」
紫の上が涙声で懇願するその声に導かれるように、光る君は激しさを増すばかり、衾の中で重なった身体が揺れ、絡み合い、一つの輪郭をなぞるように溶け合って行く。
どれほど時が過ぎたのか。
紫の上は、堪えきれず小さく震えながら限界を迎えた。
全身を波のような熱が走り、そのたびに光る君の名だけが掠れた声でこぼれ落ちる。
光る君もまた、紫の上の胸の奥に届くように彼女を抱きしめ、静かに息を詰め、
——彼女の未来を守り抜くと、深く、確かに誓うように身を震わせた。
春の訪れを待つ静かな夜に、
二人はようやく一年ぶりに、愛の温度を確かめ合ったのです。
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