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【完結】源氏物語溺愛逆行絵巻―紫の上を失った光る君は、もう一度春へ戻る―  作者: 木風
第十七帖 夢浮橋

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夢浮橋①

挿絵(By みてみん)

「驚いた。まるで、ずっと以前から母だったみたいだ」


光る君は、驚きと感動が入り混じった瞳で紫の上を見ます。


「だって……」


紫の上は言いかけて、そっと唇を噤んだ。

言ってはいけない、ずっと心に閉まっていたこと。

今生打ち明けまいと決めていたこと。

けれど、ずっとずっと、長い間、待ち望んだ愛しい赤子の温もりに気が緩んだのか、紫の上はつい、いつもの調子で微笑んで続けてしまった。


「……子を育てるのは、もう四人目ですもの。

私にとっては……慣れたことですから」

「…………四人目、とは?」


光る君の手が止まり、低く、胸の奥から驚きと戸惑いが混ざった声が漏れた。

紫の上は、はっと目を見開き、両手で口元を覆い隠した。


「ち、違うの!あの、いまのは……その……!」


頬が青ざめ、次に羞恥でみるみる紅く染まる。


紫の上の様子で、少しだけ感じていた違和感が、徐々に輪郭を持ちはっきりしてきます。


——寝所での、あの艶やかすぎる仕草。

——須磨の情景を、知るはずもないのに語ったこと。

——未来のように、どこか見通すような眼差し。


すべて、運命が変わったからだと思っていた。

けれど、違ったのです。


光る君は赤子を寝床へそっと戻すと、紫の上の手を両手で包み、真っ直ぐに見つめた。


「紫……まさか、あなたも……?

俺と同じように、時を……遡ったのか」


紫の上は揺れる瞳で、迷うように視線を伏せた。

しかし、逃げることはしない。


一度深く目をつむり、大きく息を吐くと、すべてを打ち明ける決意で、ゆっくり口を開きます。


「……ええ。あなたと同じです。

あなたに抱き上げられた、あの瞬間から……きっと」


その言葉は、光る君の胸を焼くように貫いた。

紫の上は唇を震わせ、けれど逃げず、小さく頷き、少しづつ話し始めます。


「明石の姫君も……一宮も匂宮も……

私は三度、あなたに連なる御子を育てました」


光る君の息が止まった。


——明石の姫君。

——その血の先にいる、一宮、匂宮。


今生、光る君は明石の君とは出会っていないのです。

この時代には存在しないはずの明石の姫君の名を、紫の上が知っている。


つまり。


紫の上もまた、光る君と同じ時の輪を辿ってきた。

彼女もまた、過去の痛みと孤独をすべて抱えて、この今に立っている証明に他ならないのです。


光る君は、堪えられず紫の上を抱き寄せます。


「……俺は……今度こそ、あなたを……

本当に幸せにできていただろうか……?」

「私、ずっと幸せだった。けど、……今が一番、幸せ」


紫の上は、肩に額を預けながら、小さく微笑む。

震える声で言うと、光る君は腕に力を込め、紫の上の背に顔を埋めた。

紫の上は光る君の背にそっと手を回し、これまでのことを思い出すように目を閉じます。


「だって、今日を迎えられたのですもの。

あの悲しい日々も、孤独も……

すべてきっと、この日のためだったのです。

あなたと……この子を授かるためだった」


その言葉に、光る君の胸の痛みが涙となって溢れだします。


二人共に時を遡り、共にお互いのために想い合うことを諦めようと何度となく試みながらも、それでも惹かれる想い止められずに。

二人は愛する人のために、過去の悲劇を変えることを選んだのです。

再び辛いことが起こるかもしれない。

それでも乗り越え、今この時を迎えたこと。

それは、二人が悲しい運命を変え、新しい運命を選べたことに他ならないのです。


光る君は、紫の上の頬に手を添え、静かに囁いた。


「紫。もう離さない。

時を越えたとしても……あなたが俺と共に来てくれたなら、

それだけで……俺は、何度だって生き直せる」

「私もです……あなたと、この子がいれば……

どんな未来でも歩いていけるもの」


紫の上は涙を零し、光る君の胸に頬を寄せる。


——もう一度、愛する人のために生きる未来を。

——運命ではなく、自らの手で掴む幸福を。


秋の夜、産屋には、赤子の静かな寝息と、再び巡り合った二人の温かな呼吸が重なり合っていた。


——そして、二人の元に産まれた小さな命は。

時を越え、悲しみを越え、二人が選び直した運命の証として、

静かに、この世に灯ったのでした。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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