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【完結】源氏物語溺愛逆行絵巻―紫の上を失った光る君は、もう一度春へ戻る―  作者: 木風
第十六帖 若菜

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若菜④

「殿。奥様は……とても頑張っておられます。

御子のために……必死でございます」


「……本当に……大丈夫なのか……?

あの時のように、力尽きは……しないか……」


光る君は縋るように女房を見つめ、女房もまた涙を浮かべて頭を下げた。


「奥様は、強い方でございます。

どうか、信じてお待ちくださいませ」


紫——

あの優しくて、細くて、穏やかな紫が。


俺のために。

俺との子のために。

今まさに、命を削って闘っている……。


光る君は震える指で唇を押さえ、声にならぬ嗚咽を堪えながら、廂の外でただひたすらに祈り続けました。


——どうか、紫を。

俺のたった一人の妻を、守ってくれ。


夜は深まり、産屋の灯だけが静かに揺れ続けておりました。


「あなたを残して、どこへも行かぬと言ったのは、この俺だ。

だから、あなたも……俺の傍を離れないでくれ……

どうか……どうか無事で……」


光る君は廂の柱に額を押しつけ、嗚咽がこみ上げる喉を必死に押し殺していた。

夜の帳が薄れ、東の空がわずかに白んでゆく——その刹那。


産屋の奥から、張り裂けるような静寂を破って。


「……ひっ……く……!オギャア――!」


小さく、しかし世界の色を一変させるような確かな産声があがったのです。

その瞬間、光る君の息が止まり、次いで全身から力が抜け落ち、膝から崩れ落ちるように座り込んだ。


「……生まれた……?紫……!紫……!!

生きて……生きていてくれたのか……!」


産屋の内では、女房たちの歓声が華の乱れ咲くように続く。


「奥様、お生まれでございます!」

「男君にございます!まことにおめでとうございまする!」

「奥様……ご無事で……ようございました……!」


光る君の頬を、堪えきれぬ安堵の涙が次々と伝い落ちる。

紫の上の命が助かったという奇跡が、ようやく心に降り積もるようです。


ゆっくりと几帳が上がり——

そこには、薄い血色ながら確かに息をする小さな赤子と、

汗に濡れて横たわる紫の上がいた。


「……あなた……よかった……」


掠れた声。

それを聞いた光る君は、喉の奥から何かが壊れるような声で返した。


「紫……紫……!

よかった……無事で……。

生きて……俺に、この子を……愛の証を……」


言葉にならぬ想いがあふれ、光る君は紫の上の手を取り、その手のひらへ深く額を押しあてた。


紫の上は涙に濡れたまま、かすかに微笑む。


「ええ……あなたとの……子です。

あなたのために……私、やっと……産めました……」


光る君は声にならず、ただその指を強く握った。

赤子は小さな手を緩やかにぱたぱたと開き、か細い泣き声をあげている。


光る君は腕に抱かされた赤子を見つめ——

その小ささに、息を呑んだ。


時を遡る前に二度、遡ってから一度子はいたとはいえ。

赤子をこの腕に抱いた経験は、ほとんど無いに等しいのだ。


「……こんなに……小さいのか。

紫……抱き方は……これで、間違っていないだろうか……?」


紫の上は、出産を終えたばかりとは思えぬ穏やかさで笑みを浮かべ、光る君の腕をそっと整える。


「少しだけ……はい、こちらを支えて。

首をしっかり……そう、これで怖くありませんよ。もう大丈夫です」


その手に導かれ、光る君の腕の中で赤子は泣きやみ、むしろ安心したように小さく息をついたのです。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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